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vs名無しの

※第40部『アップグレード』あとがきの聖書さんのセリフを修正しました。

 激突する。

 俺達の作戦は各個撃破、のみである。


 『名無しの』パーティは、ユウジンをロッソが止めている間に俺達の弱点であるセバスを仕留めてから二対一の状況を作り出し、徐々に追いつめて行くつもりだったようだ。

 意外と堅実な戦い方だな。

 だがそれをさせない。

 俺らのチームの遊撃班は一筋縄では行かないぞ。

 剣鬼、賢人、神父だからな。



 覆面の男が俺と相対する。

 あの時(第45部)、赤髪のロッソの隣で喋っていた奴だな。


 まるで幻影の様な動き、接近を許してしまう。

 ローブに包まれていて手の動きが読みづらかった。


 顔に向かって短剣が飛んで来る。

 影で作ったダミーだった。


 ダミーの影に隠れて飛来した本物の短剣をギリギリ躱す。

 耳が切れ落ちた。

 すぐさま魔力ちゃんが落ちた耳を浮かせくっつける。

 自動治癒オートヒーリングが治療して行く。

 うん、フォルトゥナ頑張ってる。健気じゃないか。


 俺の完全にイカれた痛覚をぶった切る様な激痛が腹部から襲って来た。

 視線を下げると、一本のククリナイフが俺の腹に刺さっていた。

 激痛が襲って来て思わず転がって距離を取る、その間に腹に刺さったナイフを引っこ抜いた。


 追撃の可能性がある。

 視線を戻すと覆面の男がぼやけて消えて行く。


 覆面の男は真っ先にセバスに向かって行く。

 しまった。

 初めっからまともにやり合う手合いじゃなかったのか。


「…セバス!!!」


 刺された腹部が麻痺して爛れて行く。

 痺れ行く身体全身を使って叫ぶが時既に遅かった。


 セバスは覆面の男に気を取られた隙に、『名無しの』の仮面の斧使いに切り捨てられてしまった、ザクザクとセバスの身体を滅多切りにして行く斧使い。

 奇声を上げる様を見て、まるで蛮族を見ているようで戦慄した。

 いや、戦慄よりも腹の底からふつふつとわき上がって来る物がある。


 蛮族と覆面の次の標的はエリーだった。

 くそっ!

 本当に弱点ついて来るなコイツら。


 慌ててエリーの元へ向かおうとする。

 だが、足が動かなかった。

 おかしい、痺れはもう治ってる筈だ。


 腹部から徐々に広がる様に石化が進行していた。

 太ももから胸の辺りまで石化している。

 おかしい、何故石化が治らない。

 石化の治療は実験でも成功している。


信託オラクル。フォル、一体どうなってる!?)


(麻痺、火傷、神経毒、石化の毒を検知してる! パターンは初見。オリジナルの毒なの! 麻痺と火傷はもう大丈夫だけれど、神経毒がくせ者なの出血を止めてその他内蔵の機能不全になる前になんとかしないと! 石化は遅効性で致死性が低いから少し待って!)


 まるで蛇毒だな。

 状況を察するに、俺を完璧に動けなくする事に特化している様に思えて来る。

 まぁ例え一度心肺機能が停止しても蘇生する事は可能だ。

 だがトーナメントのルール的に、その状況に落ち入ったら負けなのである。


 その辺もフォルは理解した上で治療のオペレーションを行ってくれているようだ。

 うん、出来る子。


(身体機能のオペレーションは頼むな)


(は〜い、神経毒でのダメージはほとんど完治! 下半身部から石化は治療して行くの〜。あと降臨フォールは待機状態になってるからね)


(いや、顕現ルーツだ。出し惜しみはしない)


 顕現ルーツは、本物の神の顕現とは違う。

 神の如き力を発揮する力の根源を借りると言った感じだった。

 使用感は、降臨フォールより高揚感のある上位互換と言った所。


 出し惜しみは使わない事にした。

 運命の聖書に書かれる文字が俺を包む様に廻る。


「ダメだ、間に合わん! ユウジンまだか!?」


 エリーには精霊魔法がある。

 たが、フェンリルの相手を出来る奴が居ると、途端にエリーを守る物が居なくなる。


 エリーもそこそこ堅い戦士ではあるが、最近になって力落ちしているイメージがある。大分引き締まった体つきも少し細くなっていた。

 精霊魔法を伸ばす為に騎士として盾と剣を振るうより魔力を鍛える事に趣を置いていたからだろう。


 今までは、フェンリルを相手できる物が居る状況があまり無かったり、そのエリーを守る役目をセバスもしくは俺が担当していた。

 精霊を呼び出す事は少量の魔力で済むらしいが、今の所精霊召喚に置ける氷精霊フェンリルの攻撃魔法はエリーの魔力依存なのである。


 理由は未だエリーの口から聞いていないのでそう言う物だと思っていた。

 そこそこ魔力量も伸ばしている彼女であるが、辺りに散った氷魔法の攻撃の後を見る限り、一人も相当粘ってエリーと相対していた事が窺える。


 一人でフェンリルを持つエリーに拮抗できる奴が居るんだ。

 三人になればどうだ?

 あの蛮族の手によって惨殺されてしまう。

 女の子だぞ、厳しい世界であるとは理解しているが、許せない物がある。


「仕方ねーな!」


 上半身が石化した状態で必死に移動する俺の目を見たユウジンが叫ぶ。

 伝わったか、彼が居れば一先ず安心だ。


「まて! MVPプレイヤーだぞ! ロッソを過信するな!」


 ハザードが叫ぶ。

 彼は丁度勝負を決めていた。

 様々な柱がステージに突き刺さっている。

 柱の何れかに敵プレイヤーが埋没しているんだろうな、あの一際長くて大きな柱かな?














 視線を戻す。

 エリーの首が丁度蛮族によって跳ばされる所だった。











 は?

 ユウジンは?












 背中から剣でひと突きされたユウジンが居た。

 後ろに剣を振るった様な動きで固まっていた。


「グフッ…。ミスったぜ、鬱陶しいのが後ろから来ると思ったらてめぇだったか」


 覆面の男がロッソの影から出現した。


「よくやったミストォォォオ!! 遂にやってやったぜぇええ!! あの剣鬼のユウジンを殺してやった!!」


「この男はしぶとい。早く止めをさせ」


「そうだ、俺はしぶといぞ」


 ユウジンは持っていた刀-天道-を投げた。

 エリーの死体を滅多切りに仕様としていた蛮族の首がそれで跳ねられる。


 ユウジンは俺の目を見て行った。


「すまん」


 なんで謝ってんだよ、死にかけじゃないか。


「思ったよりあの神父の回復が厄介だ。もう特殊毒は無い、早く殺せ」


「ぁあ!? んだよ糞ハゲ、指図済んじゃねーよ。言われなくてもわかって…ッ!」


 ロッソとミストと呼ばれた覆面の男が横跳びの回避行動を取る。

 一本の杖が二人の直線上に飛来したからだ。


「神父、今回の責任はお前にあるぞ」


 ハザードが俺を一瞥する。そうだ、俺の責任だ。

 彼に任せれば全て大丈夫だと何処か心の中で思っていた。

 そんな俺がユウジンの隙を作ってしまった。

 不意打ちの達人集団に対してだ。


 エリーの死は完璧な奴らの実力勝ちだろう。

 ハザードは冷静に見れていたのだろうか。


 完全にしてやられた。

 俺の動きを阻害して、弱い所から各個撃破。

 で、多人数作戦でユウジンをフルボッコにするのであれば、それは失敗しただろうな。

 エリーが窮地に落ちる事によって俺はまんまとユウジンの助けを借りるはめになった。

 その結果がコレである。


 まるでコレを予測していたかの様に赤髪のロッソの影に隠れて虎視眈々と最後の隙を作る機会を窺っていた男。

 ミストと呼ばれる覆面のこの男。

 最初からしてやられていたのである。


 ユウジンの弱点は俺だった。


 消えて行ったユウジンとエリーの死体。

 三人になってしまった。



「神父。今の俺の気持ちを教えてやろうか?」


「いや、遠慮しとくよ。俺も同じ気持ちだからな」


「ちょっと、アタシも親友が殺されたのよ。黙っちゃ居られないわ!」


 凪もようやく一人倒したのかやって来る。

 相手の残り人数は三人。

 同数だな。


「俺はあの覆面男を担当させてくれ」


「勝手にしろ、俺はあの赤髪PKを貰う。もう許さん」


「じゃ、アタシはあまりねぇ〜ん。エリーを殺した一人なんだから、目に物をみせてやるわ」


 俺達の目は逆に輝いていた。

 怒りが頂点に達すると逆に冷静になるもんな。

 運命の聖書の加護が掛かっている分それは如実に出る。


 俺に加護が発動してなかったのは、あのナイフの毒にデバフ的作用があるからなのか?

 まぁいい。

 もう知らん。


 くそが、神父の名を元にこの赤髪を懺悔させてやる。







 ここから俺以外の二人は早かった。

 凪は超大型特級風魔法を圧縮したものを発動させた。

 嫌らしい事に、真空の刃を操作してまず服から切り刻み、強風の中拘束された男の露出された肌を少しずつ削って行った。

 凌遅の刑かよ。

 怖過ぎだろ。


「ひぃっ! ヒィイイイ! ヒッヒッッヒッヒヒッヒヒヒヒ」

 と泣き笑いながら狂って行く男の姿は凄まじかった。


 たまひゅん。




 ハザートは、相変わらず質量にて相手を追い込んで行くスタイルだった。

 そして俺も少し驚いた。


「ディメンション・聖暦の磔刑台」


 どでかい十字架がそびえ立ち、鎖がミストの身体に巻き付いたかと思えば、磔の刑にした。


「放せ! 開放しろ」


「断る。尋問を開始する」


 テレポートで大きな杭がミストの右の掌に移動する。

 と、言う事がそこにあった手の肉、骨などの組織は消滅したのだ。


「ぐああああああ」


「叫んでいる暇はないぞ、その魔法をどこで教わった」


「はぁ…はぁ…黙秘…だ」


 今度は左手に。

 悲鳴が上がる。


「まぁ影魔法は俺も知ってる。ついでだったしな、後は神父に使った毒の情報を貰おう」


 そう言うと、ハザードはごそごそとミストの懐を弄る。

 そして中から一つの小瓶を取り出した。


 俺と対峙してるロッソが、ぼそっと「あいつやっぱ持ってたんだな糞ハゲ」と言っていた。


「もういい。ディメンション・バベルの塔。サイズはミニチュアで良いな」


 磔刑台が黒い影に覆われる。

 空から何かが飛来している。

 落下音はしなかった。


 上を見ても高さが判らない程の塔が出現していた。

 とんでもねぇなコレ。

 こんなもんで攻撃すんなよ。


「大丈夫だ、バベルの塔内で心は分裂しそれぞれに更なる天罰を奴は味わう」


 出す気はなかったけど、もう何か怒り狂ってやっちゃいましたって感じだな。




 俺はというと。

 腕を広げた。


 やってみろ。


 そう言う合図をロッソに送る。


「殺してほしいんなら殺してやんよ糞!」


 安い挑発に乗って、彼は俺の首を跳ねた。

 が、ハネ跳ばない。

 何故かって?

 魔力で固定しているから。

 俺の魔力で循環している俺の身体だぞ、クロスや聖書を操るが如く簡単にそうさ出来る。


 それに気付いたのは、ユウジンとの稽古中手首を例によって切り落とされた時だ。

 手首が浮かんでくっ付く。

 で、その時はまだ普通の聖書だった聖書さんが治す。

 みたいな感じだったのだが、首でもすぐにくっ付ければ死なない事が判った。


 その実験の事をバラバ○の実事件とユウジンは言っている。

 ひたすらユウジンに斬らせ繋げるというアホな実験だ。


(フォル、天門ヘヴンゲートを用意しておいてくれ)


(は〜いなの)


「ほらほらどうした? プレイヤーキラーじゃないのか?」


 煽る煽る。

 こっからは根性勝負だ。


「ふざけやがって…何なんだてめぇ」


「ただの神父だよ」


「ふざけんじゃねーよ。斬っても死なないってどうなってんだハゲ」


「殺し方が下手なんだろ?」


 あああああああああ。とロッソは半ギレで斬り掛かって来る。

 剣筋もだいぶ読み易くなったな。

 所詮、不意打ちでしか敵を倒せない奴。

 それは本当だったか。


 そうだとすれば、今の俺は隙がない。

 いや、隙だらけだが死に戻りの隙は全くないんだ。


 赤髪のロッソの目がどんどん死んで来た。

 そろそろ潮時だな。


「やっぱ懺悔とかいらねーわ。俺すら殺せないお前がPKだって? はっ、笑わせんな。お前も所詮趣味程度のゲーマー野郎だよ。地獄に落とされないのがせめてもの救いだな。そろそろ召されとけ、天門ヘブンゲート



 膝をついたロッソの背後に光る扉が現れる。

 俺は奴をけり跳ばして扉を閉めた。




 これで終了である。

 第一回戦を突破した。


 すぐにエリーの元へ駆けつけねば。

 終了の合図も待たずして、俺は駆け出した。



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