決勝トーナメント
間違いなくポイント最多取得者は、俺らのチームだろうと思っていた。
だが、俺らは2位だった。
2214ポイントだった俺達を更に引き離して堂々の1位に輝いていたのは、合計2305ポイントを叩き出したパーティ『ジョーカー』だった。
知らんぞ。
そんなパーティ。
サバイバル詳細ランクのぞいてみる。
個人撃墜ポイントMVP『Eve Birthday』
パーティ殲滅ポイントMVP『Eve Birthday』
イベントモンスター討伐MVP『DUO』
レアモンスター討伐MVP(ラストアタック者)
太古の巨象・レッサー 討伐『ユウジン』
大自然の守り主・憤怒 討伐『クボヤマ』
密林の大蛇・固有種 討伐『ロッサ』
個人撃墜とパーティ殲滅の次点に居るのはハザードだった。
そりゃ、回復が間に合わない規模の異常気象を起こした本人だからな。
エリーの氷精霊はまだ俺が治療していた分回復が追いついてそこまで大きな被害は無かったんだ。
俺からすれば、ハザードとユウジンはゲームで言うチートの部類に達していると思うのだが、それを抑え堂々のトップに名を連ねる『Eve Birthday』と言う人物。
一体どういう人なのか。
確実に『ジョーカー』のパーティメンバーだろうな。
そしてDUO、よく6人パーティである事が参加条件のこのイベントに出場できたな。
因縁が蘇る。
いや、因縁と言う因縁でもないけどさ。
またどうせ一悶着あるんだろうな。
そんなわけで、決勝トーナメントに駒を進めたのはこの8チームである。
『名無しの』リーダー・ロッサ
『ジョーカー』リーダー・Eve Birthday
『だがしや』リーダー・明治いちご
『戌の刻』リーダー・猪狩屋
『遠洋』リーダー・釣王
『傾国の騎士団』リーダー・ヘイト
『キジバト』リーダー・beboy
『福音』リーダー・クボヤマ
ギルドネームが使われているパーティもいればそうじゃないのもある。
ギルドはパーティ人数居れば作る事が可能だ。
だが、管理には本拠地と言う物を作らなくては行けないらしい。
これはノーマルプレイでもリアルスキンプレイでも変わらない。
システム的管理がされているか、されていないかの違いだ。
今回決勝に進めなかったロバストさんは、徐々にリアルスキンモードに移行して行く様に皆には『よりリアルなロールプレイだ』という説明のもと、システム補助をある程度オフにして、施設内にNPCを雇い入れたりしているらしい。
別に無くてもシステム管理すれば回る。
どっちにもお金が掛かるし、NPCの雇用契約内容によってはシステム管理より安上がりであるが、人それぞれである。
リヴォルブが求人を出すと、応募がすぐに殺到したらしい。
流石、コンスタントにハンター教会の依頼をこなし、日々着実に世界を広げて行く集団である。
信用度が違うな。
そういう俺もいずれギルドを作ろうと思っている。
良い国が見つかればだね。
魔法都市は若干イメージと違うな。
得る物は多かったが、俺は魔法ってガラじゃない。
ってか才能無いし。
こんな風に思い立ったのも、今回の上位3位入賞報酬が共にパーティ・ギルドに恩恵をもたらしてくれる報酬があると公式で告知されていたからだ。
ジャスアル王国はハンターが有志でギルドを建てる事を推奨しているので資金があればすぐにでも可能だ。
だが、他の国は違う。
ハンター協会がある場所でないとギルドの拠点、支部を建てる事が出来なかったり、問答無用で拒否している国家もあるそうだ。
俺の予想は、他の国でのギルド建設権もしくは、それに準じた優遇サービスなんじゃ無かろうか。
それはパーティが不憫だな。
パーティ向けには何が送られるんだろう、俺だったら飛竜船が良いな、空を飛んでみたい。まさか空鯨はないだろう。
さて、話しがズレてしまったが決勝トーナメント。
対戦はくじ引きによって決まる。
サバイバル取得ポイント上位陣からクジを引いて行く形。
『今回優勝候補と言われていた戦う神父達のパーティを越えたダークホース! ジョーカーのリーダーEve氏は8番を引きました! さぁ次は神父様の番ですよ!』
司会に呼ばれて俺がクジを引く。
出来れば決勝で当たりたい。
運命の女神よ、力を貸してくれ。
『4番! これは〜!! 決勝で当たるのか!? 楽しみです…が、他のパーティも負けていませんよ! 今回MVPの一人でもあります! 名無しのリーダーロッサ氏!!』
「3番だ。くくく、約束した通りだぜ。正々堂々殺し合おうぜ」
アッサリとクジを引いた赤髪の男はにやけながら俺を横切ると呟いた。
あの時、名無しの赤髪と名のった男じゃないか。
ロッソというのか、濁った瞳は相変わらず何を考えているのか判らないので不気味だった。
『おっと〜〜! 早速何かの因果が生まれている様です〜! 一体どうなってしまうのか!? はいお次は傾国の…』
クジは終った。
各対戦相手はこうだ。
『傾国の騎士団』vs『戌の刻』
『名無しの』vs『福音』
『遠洋』vs『だがしや』
『キジバト』vs『ジョーカー』
総力戦である。
パーティの連携が鍵だ。
全滅したパーティの負けという至ってシンプルなルールである。
勝負がつかなかった際の特別ルールとして、代表を一人選び代表戦となる。
たぶん勝負がつかない事は無いと思うんだがな。
ちなみに、俺達のパーティネームはセバスが決めた。
俺的には凄く気に入っている。
ゴスペルじゃなくてグッドニュースと言っていた。
過激な知らせしか俺に来ないから、少しでもゲン担ぎになれば良いが。
セバスのセンスは本当に俺好みする。
味付けもそうだし、素晴らしき執事である。
1・2回戦は本日中に行われる。
初戦は『傾国の騎士団』vs『戌の刻』だ。
傾国の騎士団はリーダーのヘイトを中心に、手堅い陣形で前線を押し込んで行くスタイル。
戌の刻との試合はあっさり終った。
ってか、パーティネームはカッコイイ戌の刻のパーティメンバーを上げて行こう。
猪狩屋、SIMra、加藤煎茶、Booo、仲元道路、ああああ。
この6人である。
コントかよ。
キャラメイクはオッサン風味。
一人だけ余計な黒スパッツ野郎が居るんだが、あいつ混戦時に釣王のファン達と一緒にはしゃいでなかったっけ?
たしか股間にロッドによるしなる強烈な一撃によって光の粒子となって行く様子を視界の端に納めていた様な気もするのだが。
ボケもツッコミも通用しない、生真面目なところが唯一の取り柄と言っても良い傾国の騎士団と初戦で打つかった自分のくじ運を恨むんだな。
闘技場端に押し込められてみんなで仲良く為す術無く場外に落ちた所だけは観客席の皆もこう思っただろう。
だめだこりゃ。
と、言う事は次の試合勝てば騎士団と当たるのね。
そんな事は俺らの初戦で勝ってから言えってな。
もちろん勝ちに行きます。
負けるのはいつだって悔しいのです。
「おらクボ、行くぞ〜」
ユウジンを先頭にパーティ『福音』のメンバーがぞろぞろと控え室から出て行った。
今回パーティでの作戦会議もあるので、パーティ別の控え室が用意されている。
設置された映像用魔道具で試合の様子は見れる。
俺は控え室からは出ない。
絶対出ないぞ。
それは一瞬だけ観客を移したカメラの端に映っていたからだ。
来賓席にはもちろんエリック神父が居た。
その隣は空席だった。
いや、もしかしたら俺の為に用意された席じゃないかもしれないよ?
他の方々の席かもしれない。
それでも俺は控え室を出ない。
「そう言えばユウジン、名無しの赤髪って知ってるか? この間サバイバルの時、よろしくなって言ってたけど」
「…名無しの赤髪だって?」
ユウジンの表情が険しくなる。
何かを思い出そうとしている時の表情だ。
「思い出した。ネトゲ都市伝説にな、名無しの肋さんってのがあるんだ。廃人プレイヤーの中でもPKに趣を置いたプレイヤーがその欲望を満たす為にこの話しを聞いた人の元へ三日以内に殺しにやって来るってな。それの元になった奴だった気がする」
「それは本当なのか? 作り話なのか?」
「半分半分だな。俺からすれば快楽殺人者の真似事をネトゲでやってる糞ゲーマーだよ」
「そ、それじゃワタシは殺されずにすむんデスカ?」
俺の肩に顔を埋めながらガクブルしていたエリーが話に入って来る。
聞いていたのか。
「PKに掛けてだけは凄い執念と知識でその辺のプレイヤーよりもずっと強かったからな、このゲームではどうか知らんけど、下手したら殺されるぞ」
ハハハ。と笑いながら言うユウジン。
エリーはそれどころじゃ無さそうだった。
「三日間生き延びなイト…隠れなけレバ…」と震えながら呟いていた。
いや君、今からその男と戦うんですが?
「この世界で生死を掛けた勝負なんてザラだ。PKなんてただの不意打ち。余程の隙が無ければ攻撃できない愚か者達だ。要するに隙を作らなければただ決闘を挑んで来るだけのただの人だろう」
ハザードが言う。
まぁその通りです。
リアルの世界の常識をこの世界で当てはめて考えるとろくな目に遭わない。
PKに殺されるのもドラゴンに殺されるのも何ら変わり無い。
そう言えばエリーは幽霊の類いが苦手だったんだっけ。
でも、ある意味で魔法と剣のファンタジー世界であるRIOで幽霊が出たとしても今の俺達が対応できない訳が無い。
凍らせてしまえ、そんなもん。
俺なんて部屋を聖域化するからな、そんなもん心配ご無用だ。
幽霊を信じては居るが、同時に物理攻撃も効果あると思ってるからな。
「大丈夫ですお嬢様、私かクボヤマ様が守りますので」
まぁそうだな。
倒すじゃなくてガチで殺しに来る集団だと思って良い。
この世界では死ぬ時の感覚もよりリアルになっている。
ってか、死ぬってこんな感じなんだなって一瞬思ってリスポーンする感じ。
俺は既に何度も死にかけと死を体験してるからな。
もう慣れた。
だからといって死ぬのは嫌だ。
痛いんだもん。
運命の女神は幸運の女神ではありません。
殺しの専門の様な奴達vsなかなか死なないよく死ぬ男。




