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ゴタゴタ。

 釣王の向く方向は川。

 まぁ、川を使った奇襲は有り得るよな。


 背水の陣なんかではない。

 全方向から襲って来る敵を迎え撃たなければならない訳で、当然川からの攻撃にも備えなくては行けない。


「任せてくだサイ」


 エリーが前に出る。

 青いドレスのままで。


 そのドレスは自信を表しているのか、それとも着替えるのが面倒なだけだろうか。

 隣に悠々と立つ氷精霊フェンリルを従えるその姿は、美しかった。


「フェン、川を凍らせてくだサイ」


 氷精霊フェンリルが水面を駆ける。

 雪精霊フラウも舞う。

 水の上を凍らせて疾走するフェンリルは口から凍える息吹を吐く。


 川から悲鳴が聞こえて来る。

 あ、やっぱり居たのね。

 思ったより数が多かった。


「あれ、ワタシのファン達」


 何してんだよ。

 下半身氷漬けの野郎共を尻目に川を渡り始める。

 雪精霊の加護によって、滑らない仕様だ。


『ぢぐじょおおお』

『ああああ ああああ』

『糞神父ぅぅぅぅ』

『俺らのアイドルを尽くぅぅうう』


 そんな声が聞こえるが無視しよう。

 釣王とエリーが次々と仕留めるその光景は、何とも言えない物を感じた。

 良いのか?ファンだろ。


「おかしいデス。みんな喜んで止めを刺されてくれマス」


 SMイベントかよ。

 お前ら、それで良いのかよ。

 野郎共から馬鹿共に格下げである。


「リアルスキンモードってフリーダムね」


 凍った川を見回しながら釣王がボソッとささやく。


「ええ、素晴らしい世界ですよ。いかがですか?」


「痛覚100%なんでしょ? 割に合わないわ、アタシ痛いの嫌なのよね」


 氷の上を走って来る第二陣を投網スキルで拘束して行く。

 漁師ジョブを目の当たりにするのは実際初めてなんだが、トリッキーで面白いな。

 本来ならば、海上(水面)でのステータス補正が強い職らしいのだが、まぁプレイヤースキルによって評価はマチマチだ。


 武器を持っても使い手がお粗末だったら何の機能もしないのと一緒である。

 ってか女の子が釣王だなんて、最初はネタかと思ったんだがな。


「ネタだったわよ。でも意外と奥が深いのよね、漁師って」


「養殖とか興味あります? 実家でフグとハマチをやってまして」


「ほんと? でもノーマルプレイでやるわ、ゲームの世界でも臭いの嫌だもの」


 そんな事を話しつつ、俺達は凍った川を渡って行く。

 ほう、海洋産業には興味あるのね。

 次の目的地が決まりました。


 是非行きましょう、海。

 未だ陸続き出しな、この世界の海を見に行こう。

 期待が膨らむ。

 ビーチだよ?

 可愛いねーちゃん達は居るか判らないけれど、期待は膨らむよね。


 おっと、段々祭り騒ぎから本格的な戦闘に動きが変わって来る。

 白熱して来たな。

 この中にガチPKとして活動してる人は居るのだろうか。


 徐々に会話の余裕が無くなって来る。

 剣をクロスで弾く。

 飛んで来る矢を素手で掴むのは無理なので、刺さった瞬間引っこ抜く。


 痛覚100%だったっけ。

 ぶっちゃけると、痛みを感じなくなっている。

 これは聖書さんのお陰だろうか。


 流石です。

 俺は神父職に身を委ねているが、コレは本当に神父なのだろうか。

 流石に心配になって来るよ、エリック神父。


「師匠、フェンが何かを嗅ぎ付けました乗ってください」


 エリーがフェンリルに乗って駆けて来る。

 行こうか。

 ここは釣王達に任せよう。



 匂いの正体は魔物。

 夜専用のイベントモンスターか!

 ちなみにパーティと戦闘中だった。


「誰だ!?」


 身を隠してみていたが、すぐに気付かれてしまった。

 覆面で顔を覆った男は余程感が鋭いらしい。


「ったく、馬鹿共が騒いでる間に夜専のイベントモンスター狩りと洒落込んでたのにな」


 そう言いながら赤髪で黒服の男は走り出すと赤目の大蛇の首を両断した。


「誰かと思えば、クレイジー神父じゃないか?」


 赤髪の男はニヤつきながら話しかけて来る。

 肯定すると、隣は姫騎士のエリーかと覆面の男が呟いた。


「あら? 剣鬼のユウジンは居ないのか?」


「ああ、彼は生憎イベントで走り回ってましてね」


「昔っからお祭り好きだからな〜」


「知ってるんですか? 彼を」


「昔何度かやり合ったよ」


 そう言うと、赤髪の目つきが鋭くなり舌なめずりをする。

 ちょっとぞくっとした。


「アナタ達はプレイヤーキラーデスカ?」


 エリーがぶっ込んだ。

 根性あるお前。


「ん? あんな馬鹿共と一緒にすんな。ちょっと世界が厳しいだけで半端にPK諦めやがって、何が祭りだ、こっちだって美学ってもんがあんだよ」


 赤髪がうんちくを語り始めようとした時、覆面が押しとどめた。

 そんな時間は無いんだと。


「ああ、わかったよ。俺に指図すんな糞ボケ。あ、ユウジンにヨロシクな。名無しの赤髪がてめぇらを殺しに行きますよってな」


 そう言いながら彼等は闇に消えて行った。

 一体なんだったんだ。

 落ち着いたらユウジンに尋ねてみよう。







 さて戻って来ました。

 大混雑です。


 遠くから見ても、混戦状態です。

 キャンプファイヤーの炎が崩れて辺りに燃え移ってました。


「セバスは大丈夫かな」


「ここに居ますよ」


 すっと後ろから姿を現したセバス。

 驚かすなよ。

 こいつ、日に日に気配を消す技術が上達している。


「あれはどうなってんの?」


 そう尋ねると、セバスは話し出した。

 なんとも、勝利条件を決めていなかったんだとか。

 終わり無い終わり無い戦いがここに。


「普段から中の悪かったギルドやグループが争ってるらしいですよ」


 うわ〜。

 巻込まれたギルドはたまったもんじゃないな。

 既にPKどころじゃないらしい。

 初めのあの雰囲気はどうしたんだよ。


「お前達は参加しないのか?」


 ハザードが賢鳥リージュアに乗ってやって来る。


「参加も何も、ただポイントを浪費して殺し合ってるだけじゃないか」


「確かに」


 どうしようか。

 この状況。


「どうすればいい? エリー」


 何故この時、エリーに振ってしまったのか判らない。

 ただ、この判断は後々多大なバッシングをくらい。


 俺のあだ名がしばらく糞神父になる所だった。





「ナラバ、全てヤっちゃいまショウ! 師匠!」


「いや、そうじゃなくって」


「上から四元魔法ぶっ放すか?」


『大規模魔法ですか、検索致します。4件ヒットしました』


「ですって〜」


「お前ら!!! ちょっと待って!!」





 止めた甲斐は無かった。

 ハザードと共に賢鳥に乗った二人。




「空陣を組め四大元素の杖、波動の杖を介して発動せよ"四元の魔波動"」

「フェン、ブリーザード」

「ウィズ、上級魔法から適当に選んじゃって」

『一網打尽ですね、フェンリル様とハザード様に干渉しない様に雷系の上級呪文を発動させます。ラピットライトニング』




 うわああああああああああ!!!

 俺知らないからな!!!




 火・風・水・土の四大元素が魔法陣によって統合され、波動の杖と呼ばれる物を介して波動になって押し寄せる。

 要するに熱風吹き荒れる熱せられた泥水が豪雨の如くドバドバドバっとプレイヤーを埋める。


 その中を空から稲妻がほとばしる光景は、まるで異常気象だ。

 やばい、やばい。


 その合間をフェンリルが駆けたと思うと、凍っていたり。




「ハハハ。面白い様にポイントが増えて行きますね」


 おいセバス、お前も軽くトランスしてるんじゃないよ。

 数値が異常だよ!

 ポイントが2000を超えた!






 こ、これ以上増えるのを放置するのはマズい!

 俺は聖書とクロスを掲げて降臨フォール状態に移行すると異常気象の中を駆け出した。


 凍った人の中にユウジンが居た。

 消えていないだけ、彼のHPの高さが窺える。


自動治癒オートヒーリング!!!」


 ってか、死屍累々なんだけど。

 あれはロバストさん!


「おい、神父てめぇ…これは一体…」


「違うんです。これはハザードが全部悪いんです」


「な、なに…? ハザードの奴…すげぇやつになっちまったな…」


「そうなんです! 全部ハザードがすごい魔法使ったんですロバストさーん!!」


 ロバストは光に包まれて死んで行った。

 ってかあの堅いロバストさんすら耐えられないとか。


 あ、物理ダメージじゃないもんな。

 浸食的なダメージなのかもしれない。


 冷静に分析してる場合じゃない。



 俺はひたすら走った。

 エリーとハザードと凪には拳骨だ。


 マジで。




 そう言えばですが、ハザードの格好はド○クエVの主人公を意識して頂ければ近いかと。

 断じて話しの展開がどうすれば良いか思いつかずごちゃごちゃにした訳じゃないので。

 まじで。



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