サバイバルイベント
美食プレイヤーであるケンとミキは、イベントに乗じて出店をやるらしかった。
店舗は持たないのかと聞いてみると。
現実世界で既に小さな料理屋を営んでいるらしく。
どうせ異世界ファンタジーであるならば、流離いの料理人で旅をしながら世界のグルメを食べて回りたいんだとか。
異世界ファンタジーとはまぁ似て非なる世界なのだが。
このRIOではそういうプレイも有りなのである。
移動式の屋台でも作ってみたらどうだろうかとお勧めしてみたら、すでに構想はあるらしく、資金を貯めて馬車を購入し改造しようと思っているそうだ。
デヴィスマックのクェス・アスダラス州への道中、彼等が俺達の食事を賄ってくれていた。
乗車のお礼だそうだ。別に要らないのに。
彼等は流石料理人である。
大変美味しい旅になりました。
セバスも詳しく学んでいるようで、コレからの道中も楽しみである。
彼等は竜車の空間拡張に感銘を受けていたようで、ブレンド商会に受注してどうたらこうたらセバスと話していた様な気がする。
これがセバスのプレゼン能力か。
あれよあれよと話しを付けて超高性能移動式屋台が出来そうな予感である。
因に、荒野駝鳥の卵は激ウマだった。
なにしろ、ノーマルモードでも特定オブジェクトと言う物で、アイテムボックスに入れる事が出来ないらしい。
クエ受注により専用の入れ物、もしくは準備していないと手持ちになる可能性がある物らしい。
巨大な卵を二つ。
ゆで卵とオムレツで頂きました。
ごちそうさまです。
そして俺達はクェス・アスダラス州の州立自然公園へと到着した。
クェス・アスダラス州の中心街から少し離れた場所に公園の入り口があり、巨大なキャンプ場を超えるとサバイバルゲームに使用される大自然が広がっている。
キャンプ場には特設ステージが作られていて、お祭りの様に盛り上がっていた。
プレイヤーやら出店やらがすでに立ち並んでいる。
俺達もキャンプ場にテントを張り、準備をする。
もしかしたら設営のチームプレーも見られているのかもしれないね。
完全にセバス任せな訳であるが。
特設ステージの上には大画面。
空にはスカイホエールがいました。
今回は撮影陣として運用されているのね。
もちろん、このイベントにもありましたよ。
来賓席。
いるいる。
目が合わないうちに退散しよう。
ステージからもっとも遠い位置にテントを張った意味がないじゃないか。
まぁこの後教団の敷地に出向かなくてはならないので、身バレは確実なんだが。
企画は運営、協賛がブレンド商会と中央聖都の教団である。
商会は設営を担っていて、教団は有志で大規模結界を張る役目を担っているそうだ。ブレンド商会つえぇ。
と、言う事は絶対エリック神父は居るんだよな。
見てるんだろうな。
前回みたいに竜車は目立たなかった。
それもそのはず、走竜アップデートなんて呼ばれているものな。
そこそこのパーティ、ギルドが走竜種を手に入れている。
まぁ、それでもここまでディテールに拘った竜車を持っている人は居ない。
人ごみを抜けて、教団の敷地へ向かう。
今回はエリーも一緒である。
とりあえず一発礼拝しとくか。
「あら、やっと来たのね」
礼拝堂にはマリア司書が居た。
挨拶を返そうとすると、エリーが前に出る。
「師匠、礼拝はしないのデスカ? 早い所すませまショウ」
「え、あぁ、そうだな。ちょっと待ってくださいね」
とりあえず、言われるままに礼拝を始める。
心がどことなく濁ったまま、俺はエリーに続いて目を閉じた。
雪精霊を感じるな。
俺も聖書さんとクロスたそを浮かせる。
魔力を体全体から流し、空気中の魔素と馴染ませるように広げる。
お、エリー。
かなり魔力の扱い方が美味くなっているようだ。
でもな、俺の扱い方は邪道っていうか、真逆らしいぞ。
まぁエリーは魔法の適正もあるし、器用にこなしそうだな、
こうしている最中も、信託を授かろうと努力をしているのだが、依然として俺には神の信託は降りてこない。
エリーはその辺大丈夫なのかな。
今度教えておこうかな。
「…ただのドMかと思っていたら、思ったより凄腕の様ね、流石だわ」
礼拝を終え聖書を手に取ると、マリア司書が再度話しかけて来る。
相変わらず、その格好…。
エリーの視線が突き刺さる。
はい、すいません。
「私は誰よりも痛いのが嫌いな臆病者ですよ」
「死を克服した人が何言ってんのかしら」
「師匠、この人は誰デスカ?」
ハハッと笑い合った所で、エリーの声が突き刺さる。
なんか最近刺があるな。
一体どうしたんだか。
思春期特有のアレか?もしくは生理前か。
絶対言わないけど。
「あたし? 中央聖都の大教会で司書をやっているマリアよ。よろしくね」
「俺がこの間中央聖都に言って来た時に偶然会ったんだ。命の恩人なんだ」
命の恩人というワードに少し赤くなるマリア司書。
まだ怒ってんのかな?
確かに驚かしたり、無礼な態度があったのは謝るけどさ。
もう良いじゃないっすか。
なんかエリーも物々しい雰囲気で、間に挟まれてる俺はすこぶる落ち着かない。
「師匠はまた死にかけたんデスカ!?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてマセン! なんでそんな所に一人で向かうんデスカ!?」
いや、ハザードと二人だけど。とか言ったら、ソンナコトドウデモイイノデス!だと。
ぇえー。
因に死にかけたのは、別の事でだけど。
ややこしくなりそうなので、口にするのは辞めておこう。
「クボヤマ。この子は一体?」
「ああ、申し遅れました。エリーと言います。私の連れです」
「師匠の愛弟子デス。愛されてる弟子ですカラネ! 私!」
「おい、ちょっと」
「ふ〜ん。見た所、エルフの聖騎士って所かしら? 珍しいわね」
え?なんですかそれ。
ヒューマンですけど彼女。
「キィイイイイイイイ—————!!!」
金切り声と共にエリーがマリアの口を塞ぎながらを押し倒す。
お、おい!
そんなお前ら。
エリーは、上に簡易的な鎧を付けてはいるが下はスカートである。
対するマリアは、言わずもがな。
アレは雰囲気エロいじゃなくて。
全部エロい。
煩悩退散。
いや、神様は全てを受け入れてくれる筈。
人としての欲望に忠実である事も時には大切だと思う。
それを禁じる事自体が罪ではないか?
なんてひねくれた事を思う。
信託もそりゃ降りてこないわ。
今度滝に打たれてこよう。
パンチラしながら取っ組み合う二人を傍目で追いつつ。
俺は溜息をつくのであった。
「わ、わかったから。誰にも言わないから何もしないで頂戴…」
「フーッ! アナタワタシノテキ!」
ボロボロになりながら、初邂逅を果たした二人である。
まぁほっとこう。
途中でマリアは教団の大規模結界を展開する仕事が残っているので出て行った。
そして俺とエリーの間には未だ会話は無い。
ボサボサになった髪型のお陰で、少し回りから変な目線で見られる。
実に気まずい。
よからぬ事を回りから思われてそうで、怖い。
とりあえず、余計な詮索はしないで置く。
こっちまで襲われたら堪ったもんじゃないしな。
その後、サバイバルの開会式まで以外と色んな人から挨拶された。
サイン書いてくれとかは流石に断った。
俺をなんだと思ってるんだ。
エリーは律儀に書いていた。
髪ボサボサのアイドルがどこに居るんだよ…。
とりあえずだ、大体の説明は終った。
公式に書いてあった、リアルスキンモードプレイヤーも一時的ヘルプシステム適用の項目。
倒したポイントが視覚化されたり、時間終了と共に開始エリアまで自動的にテレポートされるマーカーを取り付けたりした。
ゲーム要素。
すごくワクワクして来たぞ。
ヘルプを念じると、画面が出て、マップとパーティの現在地が判る仕組みだな。
因に、プレイヤー間の争いを激化する為に、レアドロップ強化モンスターの位置も示されるようだ。
狩っている様に見せかけて、実は狩られている状況が出来上がる。
熱い。
裏の読み合いが起こるんだろうな。
ドロップアイテムに興味があるのはハザードとユウジンくらいで、後は専らプレイヤーでも何でもこいといったテンションだ。
俺もテンションアップしてるぞ。
意外な事に、ワンデイヘルプシステムマーキングを付けに来るRSMPが結構居た。
多種多様の布陣である。
普通のノーマルプレイと変わらない格好だったり、思いっきり農民みたいな人や商人、猟師に漁師に様々である。
なんだかんだ、絡まないだけでRSMPはいるんだな。
知らない人とやり取りするツールがRSMPは無いから、念話は可能だが、基本的に近くに居る人とのやり取りもしくは文通くらいだったりする。
もっとこう、技術発展しない物か。
しないだろうな。
運営はきっとこう思っているだろう。
『勝手に作ってろ』
VRゲームについて色々と勉強を深めている訳だが、このRIOはマジで他と違う。
その使用から何からだな。
マジでゲームなんですか?
って感じ。
でも、このワンデイヘルプシステムマーキング等を見ると、ゲームって感じがするな。
まぁ勉強を深めていると言っても、そこまで深い所を進んでいる訳でも無いので、有り体の事しか言えないし、あくまで個人的な見解という独りよがりだと言う事だ。
さてイベントだ!
やれイベントだ!
それイベントだ!
プレイヤー達は、各パーティ単位ランダムで広大な自然公園内部へと飛ばされた。
今回のサバイバルイベントの肝は、水場と食料の確保だ。
赤いマーキングで示されてないモンスターは基本的に食材モンスターと言った形で食べれる奴らばかり。
戦闘に熱中して体力が切れてしまうと、強制リタイアとなってしまう。
まさにサバイバル!
赤いマーキングで示されているのは、レアドロップ強化モンスター。
かなり強いが、強さに応じてレアドロップ報酬有り。
もちろんポイントも貰えるが、優勝よりそっち狙いのプレイヤーも多いだろうな。
緑が自分たちのパーティで、当然ながら敵パーティはレーダーには映らない。
ハザードは盗賊系や猟師系職の追跡がレーダーに何らかの影響を与えないか心配していた。
敵が来たら餌と思え。
そう言う事だ。
ポイントレートはプレイヤー1人に付き1ポイント。
パーティ殲滅で10ポイント。
強化モンスターは強さに寄ってポイントが5ポイントの間で変化する。
人数制限は一律6名。
それ以下でも以上でもない。
減ってしまったプレイヤーは、減点ペナルティ5ポイント払えばその場で復活可能。
因にマイナス点数とかは無いので、どうにかして5ポイント獲得しなければ復活は不可能。
全滅は失格。
取ったポイントをポーション、食料品に交換は可能な点が意地が悪い。
後なんかあったっけな。
とにかく、スタートである!
この状況がめんどくさいなぁの溜息ではなく。
自己嫌悪の溜息ですから笑




