バクハツアクマ
悪魔迷宮をさらに奥へと進んで行く。
ここまでくれば流石にエンカウント率は下がって来る。
そして上級悪魔から将軍級へと姿を変えて行くのである。
将軍級の更に上は、特質級や悪魔公、固有名を持つ悪魔となって行くらしい。
悪魔の世界とは実に殺伐としているもので、常に飢えた世界なんだとか。
殺すか殺されるかしか無いらしい。
そうして殺した相手の力を我が物にする事で、力を蓄えて行く。
クラスが上がって行くと自我を持ち始め、その他欲求が芽生えて行くとされる。
特質級とは生まれながらにして自我を持つ悪魔の事。
ある者は力を求め、またある者は知識を求め。
この地上世界へと出る機会を虎視眈々と窺っている。
ハザード談。
悪魔も召喚できるのか聞いたら、下級悪魔なら召喚も可能だが上級以上は契約して対価を払わなければいけないんだと。
地上で存在し続ける事が出来ないらしい。
こいつ、もしかして悪魔と契約する気か?
「強くなりたいからな」
…さいですか。
もっとも、俺も強くなる為にこの悪魔達と生死を掛けた乱取りをしに来ている訳だが、悪魔と契約か。
神父も出来るのだろうか。
無理だろうな。
だってだって、悪魔に縋るしか無いじゃないか!
どうやったらエリック神父をコテンパンに出来るか考えてみたが。
どうやったって無理だった。
なんとかこれで行こう作戦で、ユウジンとガチでやり合った結果は散々だった。
読まれてるし腕切り落とされるし、心臓にひと突き。
あぁ、何か格上と戦うと散々な目にしかあってない様な気がする。
もう悪魔に魂を売るべきなのか。
いやいや、そんな事をしてしまっては聖職者失格である。
流石に俺もそんな事はしない!
「だが神様より確実だぞ」
ハザードの一言が突き刺さる。
たしかに、対価無しに俺らって神に身も心も捧げるよな。
神頼みって奴だ、まさに。笑
悪魔の方が確実。確かにある。
どっちにしろ悪魔側が俺と契約はしないだろうが。
そんな事を言いつつ、迷宮と言うなの暗闇を彷徨っていると、早速上級悪魔とエンカウントした。
大分上級にも慣れて来たな。
「まて、様子がおかしいぞ」
ハザードが止める。
操り人形の様にその悪魔は力なく立っている。
カタカタと動き始めたら、耳を劈く様な強烈な断末魔と共に爆発した。
真っ黒な飛沫が襲う。
俺の前に居たハザードがローブで顔を覆った。
俺?
顔面ベチャベチャだけど。
こういう所もリアルである。
バラバラになった悪魔の後ろからケラケラと笑いながら、カラフルなピエロカラーに包まれた悪魔が姿を表した。
「特質級だな。上級悪魔を軽く驕れる程の」
ハザードがそう呟く。
イマイチ他の悪魔と特質クラスの違いが判らないが、賢人様がそう言うんだったらそうなんだろうな。
『モット、バクハツ、ボク、テロ、ディーテガクレタナマエ』
そう呟くとケタケタと腹を抱えて笑い出す。
何が面白いんだか。
軽くホラーなんだが。
「強烈な爆発欲求に固有名詞持ちか、強いぞ」
「えっと、名前がテロで…。なんか、大丈夫なんですかコレ」
「これは二人で行こう」
上級は油断しなければ一人でも倒せる様になった。
将軍級の悪魔は未だ二人で掛かる事が多い。
その為の連携が戦闘を繰り返すごとに出来上がって行ったのである。
ハザードはまさに万能。
杖、剣、無属性魔法の応酬である。
俺の動きを上手い具合にサポートしてくれる。
で、ハザードが出る時は、俺はヒールに徹すると。
うむ、回復職だからね。
そんなもんである。伸ばしたクロスでチクチクするだけ。
今回は特質級だ。
爆発属性持ちだ。
素晴らしく危険きわまりないな。
飛ばして行く。
「自動治癒、コーティング、降臨」
「動きの阻害を頼むな。魔封じの杖で固めて終了だ」
はいはい。自動治癒を悪魔に向ける。
「アハッ☆ ナニコレ、スゴクバクハシタイ」
絶対に聖書さんは爆発させんぞ。
滅多な事言うな。
聖書さんもクレイジー発言に驚いたのか、輝く力を増す。
「グゴゴゴゴゴゴゴ」
「いい調子だ。四大元素の杖よ舞え、四元封陣!」
彼のバックパックから四本の杖が抜け、動きが鈍った悪魔を囲む魔法陣に配置される。
そしてその中心に居る悪魔を彼の手に持つ魔封じの杖が穿つ。
これこそ、賢人になって彼が編み出した複合杖術である。
複合魔術とはまた別だ。
だが、この悪魔には通用しなかった。
「やっぱり無理か」
「先に言ってくれませんかね。コレで決まりだと思いましたけど」
彼は言う。
この悪魔は爆破属性の持ち主であると。
「四元魔封が効かない事で今証明された事実だ」
察しつくだろうが!
つくづく思う。
馬鹿と天才は紙一重であると。
「デモコレ、キモチワルイ。ジブンデ、バクハツ、キモチイイ」
とんでもないマゾ思考だった。
ソレカ。と一言、俺の聖書に目を向ける。
聖書と繋がる正体不明の魔力の糸の存在を感じた。
コレはマズい。
そう思ってその繫がりの間に手を挟むと、手が爆発した。
「ぐっ」
焼け爛れるとかそんな半端な物じゃない。
手首から先が爆散して消えた。
すぐさま自動治癒が傷を塞ぐ。
降臨状態でこのダメージだ。
マズいな。
「おふざけに付き合ってる場合じゃないですよ」
「別にふざけてないぞ」
「アヒャアヒャアヒャ! バクハッ、キモチイイ?」
消す。
そろそろこの悪魔うざくなって来た。
聖十字を飛ばすと悪魔も弾け飛んだ。
自我があると言ってもひたすら自分の欲望に従ってるだけに過ぎないなら。
それはただのガキを相手にしてるのと一緒だからな。
こんなの子守りだ子守り。
「神父なら強制的に消滅させる事も可能だが、特質級以上の悪魔の戦いは基本的に存在価値の削り合いだからな、ここは任せてくれないか?」
補助を頼む。とハザードは駆け出して行く。
おい最初からそうしろよ。
俺を実験台に使ったとしか思えないぞ。
ハザード氏にご加護があります様に。
魔力の流れを感じると、あの爆発の仕組みが判って来る。
仕組みといっても、精密とはほど遠く。爆発の前にあの悪魔との魔力のつながりが起こり、爆発すると言ったもの。
ダイナマイトとそれを繋ぐコードの様な物なのか?
爆発の規模は、物の大きさに寄って変わるようで、ハザードも色んな物を爆発させていた。
ゴミの爆破処理である。
ってかいくらディメンションで、制限無しに物を空間に突っ込んでおけるからって、突っ込み過ぎだと思うけどな。
物の規模で爆破の大きさが変わると言っても、絶対爆破属性というのは恐ろしいな。使用制限とかついてないのか。
「ふ〜む。恐らく、魔力の使い方がコイツ固有の方法だ」
なるほど。
魔力を糸の様に伸ばして能力を伝える。
だが今の時代、コードレスだ。
念話だってコードレスなんだぜ。
ハザードは魔力のつながりが出来る瞬間を完璧に読み取れる様になっていた。
指先から土魔法で砂を出して爆竹の様にして処理していた。
完璧に遊んでいるな。
自動治癒すら要らない完全試合です。
「四元魔封が効かないから火属性じゃないのは確実だ、無属性なら自分の物に出来るかもしれん」
「能力を奪うんですか?」
「そうだな、悪魔はその存在が能力みたいな物だから。新しい杖になってもらおう」
ぶっちゃけ、倒す方法が判らんしな。と彼はテレポートして彼の後ろに回る。
「ディメンション、大砂漠の流砂」
悪魔の頭上から大量の砂が押し寄せる。
中から砂を爆発させる音が聞こえて来る。
一塊として砂を爆破させない辺り、それが弱点なのだろうか。
辺りは砂の山になった。
盛り上がった中心に居るのが悪魔だろうな。
で、砂が消えて行く。
律儀に回収してるのな。それ。
「削り合いするぐらいなら、飽和状態にして満足感を与えてやろうと思ってな」
「バクハ、イッパイ、ステキ」
「馬鹿なの? コレで言いの?」
そして彼はとんでもない事を言う。
「俺と契約しろ。そうすれば最高の爆発を保証してやるぞ」
「ホントウニ? ナラナル」
頭爆発してんじゃねーの?
テロと名乗る悪魔は、彼の名も無き杖に封印された。
不当契約だ!強請だ!
不平等条約も真っ青の契約だ。
「よし、コレはテロの杖と呼ぼう」
彼は杖の持ち手を布で縛ると言った。
もしかすると、彼のバックパックに詰まってる杖の正体が判ったかもしれない。
これについてはあんまり触れないでおこうかな。
そして俺達は暗黒迷宮の奥へと進む。
杖で殴っても爆発し、杖を振っても爆発する。
とんでもない杖を持ったハザードはまさに悪魔の如く活躍した。
そういえばである。
テロが言っていた、ディーテとは一体何者なのか。
さすが賢人、やる事がゲスい。
言葉がわからない相手に無理矢理契約と言う物を結ばせるアレ。
流石に今日はもう一話更新しますよ。
よる頃になります!




