悪魔狩り
ログイン前に公式サイトをチェックしてみた。
開催国はまたもデヴィスマック。
クェス・アスダラス州だとか。
言い辛いな。く、クェス?
まぁいいや本日は旅ではなく、狩り。
気合いを入れてエナジードリンクを一気飲みしてみる。
エリック神父に扱かれる日々が始まって早数日。
クレイジー過ぎる。
薄皮一枚でだ、薄皮一枚で俺の身体を神父服ごと削ぎ落として行く。
自動修復機能があるから、破廉恥な事は起こらなかったな。
とりあえず、白い神殿が赤く染まった。
俺の血肉で。
本当に聖職者かよ。
神父のテンションは留まる事を知らずに、どんどん高く強く早くなって行った。
それは顕現では無く。
最早ただの昇天状態と言った方が良い。
何が『神と一つになる事、これは極致です』だ。
エクスタシー感じてんじゃねーよ。
強過ぎる神父の対応に追われて、信託の練習なんかしていられて無かった。
AGI低いから避けるのにも少し高めのVITを総動員させて常に全力回避だ。
全力を出して身体を動かさないと動けない。
それがずっと続くのである。
もういっそ一思いにやって貰えた方が楽。絶対な。
魔力の高密度化が上手く活きた。
自分の回りの魔力展開なら負けないぞ!
それだけしかしてこなかったというのもあるからな。
避けきれない物は手に魔力を集中させてヌルッと軌道を逸らす。
神父は喜んだ。さらに勢いが増す。
限界って言う物を知らないんでしょうかね!?
そのままボコボコにされましたとも。
で、「まだまだですね。貴方も。…あ、これ一度言ってみたかったんです」
とかふざけた事を言われたあげく、魔法学校の寮の中庭にポイ。
色んな奴から引いた目で見られたんだが。
あの王女様からは、なんだかよくわからない罵倒を受けた。
ハザードだけだ。
霊薬のバケツチャレンジだったけどな。
助かったよハザード。
結構貴重な物だったんだろう。
そして俺は、そんなハザードと共に迷宮へと赴いていた。
アレから何度か瞑想しつつ信託を試してみていたが、俺には降りてこなかったようだ。
何が原因なのかは判らない。
「罰当たりな事でもしたんだろう」
何気なくハザードに尋ねてみるが、返って来る答えはそんなもんである。
罰当たりか…。
思い当たる節が数々ある訳で。
ってか、エリック神父。
女神は渡しませんからとか言ってた様な言ってなかった様な。
そう考えると出来レースな気がして来たぞ。
もしだ。
もし、信託と言う物が、悪魔で言う契約と言う物に相当するならば。
そこにヒントはあるんじゃなかろうか?
そうだとしたら女神の信託を聞く事は不可能じゃないか!
でも矛盾が発生する。
修行を積めば誰にでも信託は訪れるとも、クレイジー神父は言っていたし。
もしかしたら八百万の神が居るとかそんなのかもしれないな。
魔術基礎講座も魔法と言う物は神時代に作られたと言っているし。
それぞれの属性の神が居るようで。
この魔法都市に教会が無いのは、伝説・歴史上、様々な神が居るとされている事から作られなかったとかなんとか。
こういう持論を当てはめて考えて行けば自ずと答えは導き出されるのかも知れないな。
とりあえず、悪魔に聞けば良い。
丁度良い事に、学園内の迷宮の七階が悪魔フロアだった。
すぐさま向かう。
エリック神父に甚振られて判った。
動きが雑になってるなと。
他力本願もここまでくれば引き下がれないラインだろう。
瞑想メインだった訳でそろそろ実践シフトに移すべきだ。
悪魔フロアは、階段までの最短ルートが確立されている。
通り抜けは容易い名所と呼ばれているが、その中身は暗黒。
無限に広がり続ける宇宙の様な空間だった。
階段の奥には挑戦者を誘う様に扉が設置されている。
学園長と理事長の計らいだな。
一部の実力を認められるとその扉の奥。
暗黒迷宮へと足を踏み入れる事が出来る。
全く、なんでアトラクション迷宮に来んな物騒な物があるんだろうか。
詳しい理由は知らんが、聞いた所によると悪魔同士の抗争が迷宮内で起こっていたらしい。
最後まで残った悪魔が他の眷属を生み出し続け、闇を広げ続けて居ると。
そんなもん即行退治しろよって話であるが。
「そっちの方が面白いじゃろう。重要な研究材料じゃし」
とかなんとか言いそうだ。
申請を出すと、Sクラス用のアリアペイは申請が要らないらしい。
まぁ、そうだろうな。
悪魔とエンカウントする度に組み手形式で相手して行く。
ハザードも右手に杖、左手に剣を持って斬撃や魔術の独自の戦い方を見せる。
時にはクロスの形状を変えて薙ぎ払い、聖十字で文字通り消滅させたり。
俺は悪魔と相性バッチリだ。
うん、君たちは脅威だと思っていても。
俺は相思相愛だと思ってるよ?
抱きついたら嬉し過ぎて昇天してしまう程だものな?
「鯖折りで悪魔を消す神父が居るなんてな…」
弱点特攻ヌルゲー野郎だな。とハザードは言いながら剣で切り裂き、杖を突き刺し悪魔達を葬って行く。
俺からすれば、聖銀の剣と聖銀の杖を操るハザードも同じだと思う。
「素手で相手してないから俺」
そう、今回の主体は組み手だ。
ノーマルプレイヤー風に言うと、PSを養う為の狩りと言ったもの。
いずれ、エリック神父に再戦を挑む為である。
ローション魔力は、ネーミング的にどうかと思う。
なので一先ずコーティングと呼ぶ事にした。
俺の語彙もその辺が限界なのである。
AGIが低い俺は、必要最小限かつ最高率で身体を動かさないと対応できない。
その感覚を掴もうとやって来た。
修行変態のハザードも、暗黒迷宮で百人組み手?やるやる。
と言った具合でホイホイとついて来た訳だ。
「そのコーティングというヌルヌルした魔力は、流動してるのか?」
「その辺はわかりませんが、そんなにヌルヌルしてますか?」
「している」
だったら流動してるんじゃないの?
魔力とは生物の体内を流れて居るものだし、それを貯めておける様な器官があればそれは魔法を扱える生物。
魔物であったり魔人であったりする。
だとすると人間やそれに属した種族はみな魔人魔族と当てはまるのかもしれないが、魔人魔族と呼ばれる種族は桁が違うらしいな。
これも独自の理論だ。
MNDは魔力の総量に関係していて、INTとはそのアウトプット。
蛇口のデカさ。口径の大きさ。
持続力と威力という違いなのではないか。
多分そうだろ。
魔力展開も、広い空間への展開は容易だが、強度が足りなかったり。
「マジックガードみたいな物だな。魔法使いは防御が紙だから、取得推奨スキルだと言われているぞ」
高密度の魔力の盾を展開して、数秒間だけ物理的な攻撃を弾くらしい。
身体強化系では、体力を魔力で補うマジックフィジカルという物もあるんだと。
「お前の理論から行くと。さしずめマジックコーティングって奴だな。蛇口からチョロチョロの魔力を長時間体表に纏い続ける。理論が判れば容易いな。マジック系補助魔法の劣化版だ」
ああ、やっぱり才能無いんだな俺。
劣化版という言葉を聞いて、少し愕然としてしまった。
こういう立ち位置に居るんだ。
そりゃ少しくらい、増長したっていいじゃない。
もう無いがな。
鍛冶神にも言われたが本当に魔法の才能が無いらしい。
魔力量はMND依存なので多いと自負している。
俺の回復魔法の回復量はまさに、
『それはハイヒールですか!?』
『いいえ、ただのヒールです』
を体現している。
まぁ、ヒールとリカバリーとキュアしか知らない糞回復職だと思って頂いて結構ですよ?
本当の事ですし。
別に高密度に魔力を凝縮させていると思っていた物が、実はそれの劣化版だと判ってへこんでる訳じゃないんだからね。
使い用は何かしらある筈。
ほら、現にこうして攻撃を受け流す事に利用できてるしね。
また一人、また一人と悪魔を葬り去って行く。
エンドレス狩り。
エンドレス組み手。
あれ、俺なんでここに来たんだっけ。
そうだ、いずれエンカウントするであろう。
暗黒迷宮の頂点に君臨する悪魔に契約って何なのか聞く為にだっけ。
あと修行。
そんな事を考えながら俺達は更に奥まで進んで行く。
中級悪魔達が群がらなくなって来た。
そろそろ、上級に近い悪魔もしくは、上級悪魔が出て来るのか。
「上級悪魔だ。一体だけだが、どうする?」
「では、私が」
上級から上は、格が違って来るらしいがどんなもんなんだろうね。
悪魔鉱人形を思い出す。
アダマンタイトという神鉄に憑依したあの悪魔は、強敵だった。
実際に追いつめられてたし、神の力を借りない限り倒せなかったからな。
上級悪魔はこちらに関心が無いようだ。
はは、俺はお前らの脅威だぞ。
…ハッ!いかんいかん、クレイジー思考に落ち入る所だった。
中級以上の悪魔は、人形を取る事が多い。
上級になれば、大抵は人形。
気合いが入る。
イカレタ小動物みたいな悪魔や、ボロボロの亡者みたいなの。
群がって来るので迎撃のやりがいはバッチリだがな。
だがな?
まず腕を取る。
そして引っ張る。
そして転がしてフィニッシュのつもりだったが。
逆に驚くべき程の腕力で引っぱり返された。
そして上級悪魔は腕を振り上げて振り落とす。
そんな動作をした。
俺は掴まれっぱなしである。
人ひとりを軽く振り上げれる程の力である。
マズい。
当たりどころが良くても、全身の骨がバラバラになる。
だが、悪魔の首が消えた。
「油断するからこうなる」
「ありがとうございます。焦りました」
ハザードが首を跳ねた。
危なかった!
マジでグッジョブ!
改めて、上級悪魔の格と言う物を感じた。
これからは気合いを引き締めて進まなければならないな。




