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一方その頃

召喚サモン・リージュア」


 賢鳥リージュアを呼ぶ。

 そして俺は、魔法都市の空を翔る。


 最近の楽しみは、彼女に乗ってこの世界の大空を飛ぶ事だ。

 飛行機よりも高度は出せないが、それでもこの身体に直接感じる風は素晴らしい爽快感を与えてくれる。

 神父の所の走竜種も、彼等に同じ楽しみを与えているんだろうな。


 最近は学校長用書庫プライベート・グリムと特待クラス用の決闘場に籠りっぱなしだ。

 廃プレイは慣れてるからな、この程度の籠もりプレイはお手の物だ。

 この学校の特待クラスには、魔法属性それぞれに特化した生徒が居るらしい。


 実に羨ましい事だ。

 俺は全属性魔法の適正がないからな、無属性魔法しかまともに扱う事が出来ない。

 まぁ、だからって属性魔法を諦めた訳じゃないけどな。


「…む! リージュア左に回避だ」


 耳に付けてるイヤリングが、攻撃魔法を感知する。

 賢鳥リージュアを急に回避させたため、彼女の上から振り落とされるが足を掴んで事なきを得る。

 やれやれ、一体誰だ。


「ハッハー! 賢人さんよォッ! 悠々と俺のシマに入って来るなんて良いご身分だなーァ!」


「…なんだエアレロか。俺はお前の相手をしている程暇では無い」


 俺に不意打ちを仕掛けて来た奴。

 それは特待クラスで風特級魔法を納めるエアレロ・スミスだった。


 コイツは、何かにつけて絡んで来る奴で正直ウンザリしていた。

 ちなみに、典型的な俺様野郎な訳で気に入らないとすぐ喧嘩を吹っかけて来る。


「前々から気に入らなかったんだよォ。お高くキメやがって!」


「それは俺に関係無いだろう。いいから消えされ」


 そう言えば、一般クラスからは『キレたナイフのエアレロ』と呼ばれているコイツに、前々からちょくちょく『次空を飛んだら殺すぞ』と言われていたが、シカトしていたな。

 来るなら相手になるぞ。

 特待クラスだ、相手には申し分ない。


「黙らァァアアア!! 全属性に適正の無い落ちこぼれクズが賢人名乗ってんじゃねーよ! その名を俺に寄越せや! ウィンドカッター!」


 彼から飛来する風の刃を、身体を振って賢鳥リージュアの上に再び舞い戻って回避する。


「そう言えばお前、わざわざ俺の相手をする為に飛ぶ技を身につけたのか。意外と努力家なんだな」


「うるせェッ!! 俺様は天才だから、こんなもんフロートの魔術を弄れば簡単なんだよ!」


 なるほど、フロートの魔法か。

 ただ浮かぶ魔法なだけだと思っていたが、特待クラスの奴が扱うと賢鳥リージュアの飛行について行ける程になるのか。


 まったく、天才はこれだから恐ろしい。

 天才ってやつにはまともにやり合うのは御法度だな。


「確かに俺は、全属性に適正が無いから無属性魔法しかまともに行使する事が出来ないが………まともじゃなければいいんだろう?」


 そう言って賢鳥リージュアを戻す。

 支えを失った俺は遥か下の魔法都市まで落下してしまう筈だが、未だ浮かび続けている。


 俺の足下には一本の杖だ。


「な、なんだそれは」


「狼狽えるな、少々特殊な魔道具だよ」


 そう言って剣を抜く。

 今俺が乗っているのは、浮遊の杖と呼ばれる俗に言う『フロートロッド』だ。


 安物で、現時点の場所に魔力が切れるまで浮き続けるという効果しか無い。

 だが、位置は関係無い。

 どんな高度であれ、発動場所に浮き続けるその性能はフロートのみに拘った品だろう。

 変に移動性能でも付けよう物なら、杖内の魔力はすぐ枯渇してしまうだろうな。


 ひたすら浮き続ける事だけに拘ったこの一品。

 俺は好きだ。

 制作者の一途な愛を感じるからな。

 因に買う奴なんて俺しか居ないだろう。


 これが二本あれば、あの神父からヒントを受けた魔力操作による念動で空中を歩ける。

 まるで竹馬だな。


「気持ち悪いまねしやがって、それと俺様の風魔法を避けるのは関係ねぇだろ!」


 ウインドカッターを躱すと、コイツは拳に風を纏って殴り掛かって来た。

 インファイトだな。望む所だ。


「トルネードブロウの餌食になりやがれ!」


 剣で受けるとキンキンキンと硬質な音が連続して聞こえる。

 強烈だ、刃こぼれしてしまいそうだな。


 何度か打ち合う。

 俺はその場から動いていない。

 それがコイツのプライドに触ったのか、顔を赤くしてプルプルと震え出した。


「てめェッ!!! 舐めてんのか!? …マジでぶっ殺しちまうぞ」


 エアレロは急に真顔になる。

 これだよ、特待クラスは本気になると急に集中力が増す。

 天才のそれって奴か。


「嵐の猛威に切り刻まれろ! テンペスト!」


 特級魔法か。

 む、この方向は人が巻込まれるな。


「やれやれ、面倒な奴だ」


 詠唱を待ってやる必要は無い。


「テレポート。ディメンション・炭坑族ドワーフつい


 頭上で今にも発動しようとしていたテンペストの魔法をディメンションで空間から出した巨大な石柱で纏めて押しつぶす。

 その後、召喚サモン・リージュアで彼女の上に着陸した。


 このまま押しつぶすのも忍びないな。

 石柱をディメンション内に戻すと、彼は気絶していた。


 この高度から落下すると特待クラスでも死ぬと思うので、賢鳥リージュアで追い掛け無事救出した。


 そしてコイツは、学校の特待寮の中庭に投げ捨てておいた。







———







「はぁ〜どうすれば中層階の許可が貰えるのかしら」


 あたしはそう言いながら本の山に寝そべる。

 最近は一日中学校長用書庫プライベート・グリムに籠もりっきりである。


 最下層部の本はほぼ読み尽くした。

 学校から帰って来ると、ログインして寝る直前まで書庫の中。

 休みの日はずーっと書庫。


 成績は大丈夫なのか?とセバスから言われるが、大丈夫。

 現実でも勉強はしっかりしてるから。

 今じゃそれしかやる事が無いってくらい勉強の、本の虫よ。


 世界大全エンサイクロペディア融合魔術概論フュージョンレポートを吸収してから更なる変貌を遂げた。

 元々、呪文の検索・自動術式発動くらいしか出来なかった世界大全エンサイクロペディアは術式の応用・改変をする様になった。

 そして、ここに来て図書館で吸収させた初級魔法の基本と中級魔法の基本を読み取り上級魔法に改変してしまった。

 まさに生きている様な。

 何か別の生き物に変貌を遂げてしまった気がする。

 今ではこの本を解明する事があたしの興味の対象である。


 鑑定は何度もした。

 精密鑑定もいつの間にか応用で出来る様になっていたこの本にさせた。


 最初のページにこの本の使い方と概要が載る様になった。

 実に本らしい生物だ。本だけど。


世界大全エンサイクロペディア

神智核マナスを持つ本。この本は思考する。持ち主の期待に応える様に思考し、自分で進化して行く本』


 精密鑑定でもこの程度しか出ないってことは、実質鑑定のしようが無いのと一緒である。

 だがこれを見て納得した。

 やっぱり生きているんだわ。

 この本。


 だが未だ、あたしの声には反応してくれない。

 クボヤマさんみたいにあたしは熱心に語りかける事は出来ない。

 あくまで興味の対象として研究対象として本を扱ってるからだろうか。


 その辺の線引きだけはしっかりできるわよ。

 でもそろそろ良いのかしらね。


 でも、変態の仲間入りを果たす事と同義なのよね。

 あたしの中では。


 もうこれは道具じゃない。

 本じゃない。





 ・・・。




 なんか、恥ずかしいわね。


「名前、呼んでみようかしら」


 ん?なんか少し反応があった気がした。

 名前、呼んでほしいのかしら。


 ん〜。

 世界大全エンサイクロペディアだから…。


「辞書ってのは味気無いわねぇ。…ウィズ…なんてどうかしら?」





 その時、世界大全エンサイクロペディアが光り出した。

 声が聞こえる。



『凪様。ようやく名前を呼んでくれましたね』



 え?


『疑問を感じている様なのでご説明致します。たった今、凪様から名前を頂いた事により、自我が芽生えました。以上です』


「いや、以上って。そんなんで判る訳ないじゃない」


『以前から自我の兆しはありました。兆候は感じ取られていたんじゃないですか?』


「そ、そうね。精密鑑定が生きている本って示しているわよ」


『今の私を精密鑑定。いえ、分析すると』



智慧の本・固有核ウィズを保持。

自我を持つ本インテリジェンスブック。余談であるが、彼の有名なアルケミスの日記帳もインテリジェンスブックである』



「余談がいらないわ!」


 自我を持つ本としか説明されてないでしょうこれは!

 なんなのかしら!


『ウィズです』


「そう言う事じゃないわよ! そういえば、あなたの性別はどっちなの?」


『私に性別はありません。凪様のイメージが形になります』


 そう言われてあたしは、中学生の時に愛読していた少女漫画に出て来る王子様の様な主人公『清水芳人』を想像してしまった。


『統合完了。少女漫画ですか? なるほど理解しました。凪様勘違いなさらぬ様、高校入学しても愛読なさってる様ですが? 記憶の補足を致します』


「やめて!!!!」


『私の事はヨシト・ウィズ・シミズとお呼び下さい』


「やめてってば!」









 変態仲間が増えましたよ〜!

 色んな物が色んな人が鬼変化中。


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