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魔法学校の日常

 寮でログインする。

 朝の礼拝をすませる。


 教会が無いのだから、どこでも一緒だな。

 偽女神像アウロラレプリカを失ってしまった事はやはり大きかった。

 なんというかモチベーションが上がらない。


 ここ最近は、学校長用書庫プライベート・グリムに入り浸り、インテリジェンス系武器、道具の資料ばかりを模索していた。

 書庫は最早本の塔と呼べる代物なのだが、高い所へ行けば行く程、資料・本の価値は上がって行くらしい。

 だが、思った様に行かない物である。


 書庫はエリアごと、いや階層ごとに別れてあり。

 最下層部、下層部、中層部、上層部、高層部、頂部。

 そこにアクセスする為には、学校長の許可がいる。


 Sクラスのアリアペイでは、下層部までしか開放されていない。

 尤も、学校長のプライベートエリアを開放されているだけでも一般の目から見て非常に有効であるからして、一体許可とはどのように取りに行けば良いのか。

 因みに、即行申請は出してみた。


『儂の部屋に入り浸っとるんじゃなくて、迷宮ダンジョンにでも行ってみたらどうじゃ?』


 との事だ。…う〜ん。

 埒が明かないから学校長の言う通りにしておく方が吉なのかな。


 迷宮とは、魔法学校にある施設の事である。

 全10階層、1階ごとにエリアボスが居て、それを倒すと次ぎに進めるというまさに異世界RPG仕様な画期的な物なのである。

 主に生徒の実践タイプの訓練として使われているという。


 もちろん死なないし、死亡扱いになると、1週間迷宮に行けないというペナルティが課せられて復活するといった画期的な仕様である。

 資料にも、もちろん書いてあった。


『アルケミスの世界冒険記を元に精巧に作られた我が迷宮を、楽しみませんか?』


 アトラクションかよ。

 テーマパークじゃないぞ。


 実際にも、RIOの世界には迷宮と言う物がある。

 迷宮の国『ラビリンス』である。

 ジェスアル王都の遥か西だね、海を越えた向こうだった様な気がする。

 未だ陸路での旅路。

 海を越える事は果たしてあるのだろうか。


 海を越えるなら、空鯨スカイホエールの飛行船に乗ってみたい。

 アレくらいの規模だったらラルドも馬車も持って行けそうである。



 で、気になるワードがある。

 『アルケミス』だ。

 書庫最下層部には、アルケミスの世界冒険記が所狭しと並べられている。


 学校長、ファンだろ。


 これは、ノンフィクションの冒険物語だった。

 この世界をひたすら旅したアルケミス。

 晩年になっても旅を続けるアルケミスは、未だ旅をし、新しい冒険記を書き綴っているとかいないとか。


 魔術理論的な物は理解するのが難しそうだったため、あまり読む気になれなかったが、これなら読めそうだととりあえず1巻から読み進めているのである。

 世界の全てを冒険したと書いてあるんだ。

 インテリジェンス系の発見や出会いが書いてあるかもしれない。


 でも大分古い本なので、情報量は桁違いだが鵜呑みにしてはいけなさそうだな。

 時代は刻々と進んでいるんだから。


 でも、ゲームだしな。

 いやいや、この運営は謎が多いからな。

 リアルスキンモードにしても説明一切なし。


 どんな裏を用意しているか判らないからな。

 油断は禁物だ。

 一体なんに対しての油断なんだろうか。





 寮と言うより、豪華ホテルの中庭で寛ぐラルドの様子を見に行く。

 ハザードが居た。

 走竜種ランバードに興味があるのだろうか、ラルドに何かの肉を与えていた。

 因にラルドは雑食です。


 挨拶をすると、彼も返して来る。

 彼は無愛想な口ぶりだと思うが、しっかり対話をしてくれる人だった。

 ここ最近のハザードの特待っぷりは半端無い。


 コイツも修行変態かよってくらい修行する。

 俺だってドラゴ○ボールくらい知ってんだからな。

 気合いを入れて作ったは良いが、誰も無い特別仕様の決闘場をプライベートルーム代わりに使用し、重力制御を自分に掛けて剣や杖を振るう彼の姿はまさにそれ。

 俺はその重力に耐えられない事もないが、亀並みに遅くなるだろうな。


 降臨フォールでも使用するもんなら。

 「バーゲンセールだな」と言われてもなんらおかしい所は無い。


「どうですか? 特待クラスは」


「いや、普通かな。元々俺はお前程人に好かれる質じゃない」


 むしゃむしゃと肉を頬張るラルドの隣で、俺達はそんな話しをする。

 賢人として特待クラスからもハザードは一目置かれていた。


 ってか、その格好を見ると誰でも奇異的な視線を送ると思う。

 ハザードの格好は、半袖長ズボンの兵服アーミースツにボロ切れにあちこち継ぎ接ぎした様なフード付きのローブを着流している。

 肌がむき出しになる筈の両腕はバンテージが巻いてある。

 以前バンテージについて尋ねたのだが、自分に縛りを加えるというドM仕様だった。


 そしてそれプラス常に肌身離さず持っている長剣と大量の杖だ。

 これを変態と呼ばずしてなんと呼ぶ。


 まぁ本人の前では絶対に言わない。

 余計な波紋は絶対に起こさないぞ!

 俺は気の良い神父で通っているんだ。


「特待クラスは個性が強いですからね」


「そうだな。レベルが上がるだけで強くなれる世界とは違って、個性が強く出るからなハイレベルになればなるほど、我も強い奴が多い筈だ」


 判るぞ、判る。

 俺の親友とかな。


「まぁ例外も居るけどな」


 彼はそう言って締めくくる。

 ラルドをひと撫ですると、彼は「召喚サモン・リージュア」と一言。

 見た事も無い大きな鳥を呼び出すと、その鳥の足を掴み5階の自分の部屋にひとっ飛びして帰って行った。


 いちいちカッコいいな。

 召喚魔法か…憧れるな俺も!


 魔法の才能がないと魔女にも神にも言われる程だ。

 俺は諦めざるを得ないだろうが、諦めない。

 無限大な世界だからな。

 きっとあるだろう他のやり方が。





「お、神父クボヤマじゃないか。何をしてるんだこんな所で」


「ヒューズさんですか、先ほどまでハザードさんとお話していたんですよ」


 餌に満足し横になって丸くなるラルド。

 その中で俺も瞑想して昼寝と行こうじゃないかと思った時、中庭の入り口から声が掛かる。

 ヒューズだった。

 あの賢人とか。と彼は俺の目の前に腰掛ける。


 彼はヒューズというらしい。

 フルネームは知らない。


 魔法陣や魔法道具の研究をしていて、このグリモワール魔法学校一の情報通だと言う。

 特待クラスであって、その魔法陣の研究で様々な分野で貢献して来たという。


 例えば中長距離転移魔法陣『ポータル』の開発や、その他口伝で伝わる魔術を魔法陣・道具として開発したりだとか。

 ポータルって、お前が作ったのか。


 個人的に、目的に限りなく近い人なのかもと思っている。

 ちなみに、アホな事も限りなくやる。

 一般クラスの寮で悪魔を召喚した馬鹿は彼だ。


 だが普段は気さくで良い人なので、良き友人である。


「クボヤマ神父、天使って魔法陣で召喚できると思う?」


「どうでしょうね。祈っていれば魔法陣なんか無くても天使は降りて来ますよ?」


 危なっかしいな。

 コイツ次は天使降ろす気だろ。


 神を顕現させる時にはユニークアイテムでも10秒が限界だったくらいだしな、特殊な媒体があれば大丈夫な気がする。

 まぁ、絶対教えないけど。


「宗教はダメだってー。俺は無宗教なんだ」


「無宗教だってなんだっていいんです。人は等しくあるべきですから。女神よ、彼にご加護を」


 そういうと、彼は「ただでくれるんならもらっとくぜ〜」と軽く返すと、魔法陣を展開し消えた。

 ポータルか。

 もう見慣れた光景だな。




 次に話しかけて来たのは可愛い声の持ち主だった。

 何なんだよ瞑想中に。


「クボヤマ! こんな所で昼寝なんて良いご身分ですこと!」


「神父ですから」


「関係ありませんわ!」


 面倒くさい奴だった。

 エレシアナ・ケイト・アルバルトとは反りが合わない。

 どこぞの王国の継承権第7位なんだとか。


 俺の噂は予々聞いていたそうだ。

 で、国お抱えになりなさい。

 聖職者として取り上げてあげるだと。


 丁重にお断りしておきました。

 俺個人としてはすごく丁寧にお断りしている筈のに、彼女の中では断られると言った行為が気に入らなかったそうだ。

 それから、会う度に小言を言われる様になった。


 対応ミスったな。

 余計な波紋を生まぬ様、心を仏にして相手にしている。


「その劣竜種を退けなさい!」


 その一言にラルドが起きる。

 聞こえていたんだな。

 だが落ち着けラルド。落ち着くんだ。

 コイツに会わなければここは害もないし居心地は凄く良いんだからな。


 ラルドの鬣を撫でてやる。

 キュロロと鳴き声が聞こえると、ラルドは再び目を閉じる。


走竜種ランバードです。草原を走る立派な竜種ですよ」


「飼いならされた竜種ペットなんかに竜種としての誇りなんてあるのかしら?」


 彼女は毒づく。

 ある事無い事を押し付ける様にして発言する彼女は凄く印象が悪い。

 学校中からも要注意人物とされていた。

 異国からこんな国に来るなんて、まるで継承権の争奪戦争に負けたって感じだよな。もしかしたらそれかもしれないな。


 可哀想な事に。

 彼女にも、神のご加護があります様に。

 主に性格矯正の方でご加護を分けてあげてください。


「私の国ローロイズでは、竜とは誇りよ、民を守る神よ!」


「そうなんですね」


「そんな飼いならされた劣竜種なんて目じゃないわ!」


 そう言うと彼女は嵐の様に過ぎ去って行った。

 よく耐えたぞラルド。

 今度ビッグピッグの一番良い所を食べさせて上げよう。





 なんだか精神的に疲れた俺は、瞑想を辞めてラルド共に昼寝にしけこむのであった。





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