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不器用なドワーフ

※30話目です。掲示板回だと予定していましたが、1話で終らなかったので次回持ち越しです。

 急に一体何を言い出すんだと思ったが、話しを聞く所によると。

 今必要な物は販路だそうだ、量産する体系は既に出来ているので、それを捌くパイプを拡大する事が必要だとグランツ氏は言っていた。


 そんな事を言われても、俺に中央聖都ビクトリアに対するコネは無い。

 いや、よくよく俺のつながりの価値を考えると、エリック神父という方はとんでもない方なのだろうと思う。

 だが、それは俺のコネではなくエリック神父の力添えであって、筋違いだ。


 正直言って、中央聖都ビクトリアには行った事も無い。

 いずれは行こうと思っていたけどね。


 断ると、そうですかお時間を取らせてしまって申し訳ない。時間の無駄でしたね。と彼は去って行った。


 親子似過ぎだろ。

 気に入らない事があると毒づくとか。


 グラノフ氏、あんたの息子はあんたと一生反りが合う事は無いよ。

 神のご加護があります様に!


 ちくしょう。

 やっぱり早めにこの国でよう。


 ユウジンの事だ、別れの挨拶なんか要らないだろう。

 俺は宿に戻り、荷物をまとめると『魔法都市アーリア』のある方角。

 西に向けて街を歩き始めた。


 いや、その前に心を鎮めに教会へ行こう。









 教会はいつもより静かだった。

 だから礼拝をしてる最中、奥から響いて来る声に気付いたのかもしれない。


 グランツ氏の声だった。

 何やら口論をしているようで、彼の言葉の中に若干の素が出ていた。


「話しが違うじゃないですか! お布施は払った! 販売経路の融通はしてもらえるんじゃないのか!?」


「何を仰ってるんですか? 私はただ、神の御心に届く程では無かったと行っているだけです」


「何だって!? 横暴だろ! 俺は何の為に貴方達に毎回高いお金を払っていると思っているんだ!?」


「ご熱心な教徒だと私達は思っておりますとも」


 そんな声が聞こえる。

 口論しながらも、足音はこちらに近づいて来る。


 マズいな。

 隠れないと。


 丁度女神像の後ろに隠れた瞬間、ドアが開かれ、金糸の刺繍で彩られた司祭服に身を包んだ男が出て来る。

 その後ろから後を追う様にグランツ氏が。


「では、神のご加護があります様に…また来ます」


 そう言い残し、司祭服の男は教会を出て行った。

 出口を睨みつけながら悪態をつく彼は、礼拝堂の椅子に座り込み、ため息をついた。


「なんだってこんな…」


「貴方が熱心な教徒ですって? そんなバカな事ありますか」


 その溜息を聞くと、俺は居ても立っても居られなかった。


「笑いに来たんですか? あなたの思ってる通りですよ」


「そうですね、教徒にあるまじき姿です」


 だが、俺は知っている。

 グランツ氏が、本当に親父さんを大事にしている事を。

 そして超えようとしている事ね。


「そこまでして、貴方は父親を超えたいのですか?」


 諭す様に言う私に、彼はまるで懺悔をしているかの様に話し始めた。


「私は一生父親なんて超えられる筈が無いのです。親父には言っていませんが、私には鍛冶の才能がまるでありませんでした」


 鍛冶の才能が無いと気付いたのは、成人してかららしい。

 それまで鍛冶の国有数の鍛治師と言われていた父親の姿ばかり追いかけていたそうだ。

 だがある日、彼は自分の才能を知る事になる。


 回りの若い弟子達はどんどん先へ行ってしまうのに、自分はひたすら置いて行かれるばかり。

 我武者らに追い続けてもダメだった。

 大人になってから判る、自分は鉄を打てないんだと。

 つちを振り下ろすたびに、叩かれる鉄の音を聞くたびに自分の才能の無さが現れているようで、自分の心が打ち拉がれて行ったらしい。


 彼は諦めなかった。

 今ある彼の姿が、彼の努力の結晶を表している。


「私は、誇っていいと思います。諦めなかった結果が貴方の武器屋でしょう?」


「ですが、私は引き返せない所まで来てしまいました!」


 彼の口調が強くなる。


 今の鍛冶を学ぶ事ではなく、その先の鍛冶を学ぶ事に狙いを向けた彼は、人族の中で産まれた鋳造技術を学び始めた。

 ドワーフブランドでの鋳造を、人族の世界に売り出して行こうと考えたのだ。

 初めは少量の販売だけだったのだが、規模をどんどん拡大して行く。


 そして、とある司祭に話しを持ちかけられる。

 お布施を納めて頂ければ、私どものお墨付きを得て武器の販売に携われますよと。


 その話しに安易に乗ってしまった彼は、高いお布施を払う事で更に販路を拡大する。そこで目に付けたのが俺だったらしい。


 で、いつもより早い時期に来た司祭は更に高額なお布施を要求して来た。

 その場面が先ほどの司祭とのやり取りである。


「私はドワーフです。ドワーフには鉄を打つ事しか出来ない。商人の真似事なんてやらなければ良かったんだ」


 そして私はドワーフの中でも落ちこぼれ。と更に落ち込んでしまった。

 ちょ、全部自分で言って自分に跳ね返ってんじゃねーか。


 打たれ弱過ぎだろ。

 ドワーフって屈強ってイメージだったけど、コイツだけ違うのかな。


「いえいえ、許します」


「は?」


「もともと、宗教替えなんて微々たる物です。誰しも宗教を選ぶ権利はあるのでね」


 こういう手合い。悩み込んじゃうタイプ?メン○ラ?

 には、真剣に話しに乗ってやるというよりも、軽く受け流してあげるくらいが、思い詰めないので良いのである。


 


 やっぱり原因は彼のストイックさにつけ込んだあの司祭が悪いじゃないか。

 何か大きな問題が発生しない内になんとかしないとな。


 胸くそ悪いわ。

 なんだかんだ尻拭いをやりそうな雰囲気であるが。

 これはユウジンの刀を作ってくれてるグラノフ氏へのお礼ってことにしておこう。


「元々、私どもが悪いのでありますし、尻拭いはさせて頂きますよ。フフフ」


 彼の言うドワーフブランドで鋳造品なんて質がいいに決まってるじゃないか、まさにあの男が匂いを嗅ぎ付けて来るぞ。

 新しい商売の要素がブレンドされた匂いを嗅ぎ付けてな。











 俺は現在、礼拝堂で女神像に祈りを捧げながら、とある人物を待っていた。

 それはグランツ氏を騙し、高額なお布施を要求する司祭である。


 実際、色んな所でこういう宗教との癒着は起こっているのかもしれない。

 それを全て見つけ出せと言われたら、それは無理な事である。

 だがしかし、目の前で見てしまった事に対して、あいつは嫌いだから助けないという判断を下す事を俺は出来ない。


 それだけはどうしても無理なのである。

 目の前で困っている人が居たら救うと決めたんだ。

 救うのも俺のエゴかもしれない。

 だが、この手で拾える限りは拾うと決めてある。


 裏を読む事が苦手な俺は、今回も真っ向からぶつかり合うのだった。

 偽女神像アウロラレプリカを振り回したりぶん投げたり、マグマの中に投げ込んだりする奴は俺だけだ。


 今、鍛冶神ヴァルカンあたりが『お前だけだよ』と呆れている姿思い浮かんだ。

 あいつは今何をしているんだろうか、神殿の中にいるのかな?



 さて、聖書さんとクロスたそを魔力ちゃんで空中に制止させ、今日の俺の祈りは本気だ。

 本気と書いて、マジと読む。



「これはこれはクボヤマ様じゃないですか、エリック神父の愛弟子と呼ばれる貴方のお名前は、私の在籍する教会まで届いていますよ」


 来た。俺は荘厳な顔で言葉を返す。

 所謂、神父モードである。


「いえいえ、愛弟子なだけで私は何もやっていませんよ」


「いえいえ、噂はかねがね、お聞きしていますよ。本日はどういった御用でこの教会にいらしているんですか?」


「ああそれですか。とある噂を耳にしましてね」


 俺は教会と商人の癒着問題の話しを適当に考え、最近多いと付け加えて話した。

 もちろんそんな事はしらん。

 だが、嘘はついてない。屁理屈だが。


 それは神にも背く行為だ。とその司祭は金糸の刺繍で彩られたその着辛そうな司祭服をはためかせて驚いた。

 ネタを知っていると滑稽に映るな。


「あなたの所は大丈夫ですか?」


「ははは、お疑いですか? 私達の教会ではそのような事は万が一にも起こっておりませんよ!」


 そう豪語する。

 たしかに、お前んところの教会ではな。


「最近私はとある懺悔を受けましてね、彼は非常に悔いておりました。だがしかし、私は彼を許します。本当に捌かれるべきは、彼を誑かした私達にあるのですから」


 その言葉に、司祭は「一体何の話しだ」と返す。

 まだ白を切るか、まぁ権謀術数とでも思っているんだろうか。

 そんなもん正面から叩き潰す。


「エルマン司祭。正直に話したらどうですか?」


「な、何を言っているんだね。私どもの教会では…ハッ!?」


 司祭は目を見開いた。

 何故かというと、俺はこっそり降臨フォールを発動させていたからだ。


 今の俺の状態はと言うと、頭上浮かぶクロスと聖書が白く輝く光を空から注いでいる状態。

 そして例によって俺の身体も白いオーラ状に光り輝いているのである。


「女神の瞳はすぐそばで貴方を見ています。嘘はつけませんよ?」


 我ながら、荘厳かつなだらかな声が出たと思う。

 この一言を聞いた司祭は、跪く様に俺に猛烈な勢いで懺悔を始めたのである。


 これこそまさに、力技。













 両者痛み分けという事で、お布施の回収は行わなかった。

 余計な禍根を残さない為である。両成敗!


 エルマン司祭は、スッキリした様な目で「神が降臨なされた、降臨なされた。私は何をすべきか判った」と言いつつ、その後大きな孤児院を作り、将来を担う子供達の面倒を見続ける善き先生になった。


 グランツ氏はというと、幾分スッキリした表情になっていた。

 信仰は戻さないらしい。

 と、言うより鍛冶屋とまた別の商会を作り上げ、その中に鍛冶屋を組み入れた。

 グランツの商会は、鍛冶部は鍛冶神ヴァルカンを信仰し、商会本体は女神アウロラを信仰するという、新しい形態が産まれたのである。


 それはそれで、問題有りじゃないのかと思ったが。

 鍛冶の国では女神を信仰する人も多いので、特に問題ないらしい。


 そしていつの間にか『神と対等に取引する男(自称)』のアイツが、グランツ商会と業務提携を結んでおり、鍛冶の国一体の鉱山を占有する程の大商会になっていた。





『ドワーフの国から、安くて高品質な農具が出たらしい』

『へぇ! ドワーフの作った農具って高いんじゃないの?』

『それがすんげぇ安いんだよ!』


 無印○品? ユニ○ロ?

 どこの世界も似たか寄ったかなんだな…。

 まぁどうでも良いか。






 そういえば、宗教を変えない事であの親子がまたもめていたんだが。


「馬鹿野郎! 鍛冶神の加護が無くなったらドワーフはまともに鉄も打てなくなっちまうんだぞ!」


「ならなんで俺には鍛冶の加護が無いんだよ!!!」


 とかいう親子愛をモチーフにした物は割愛しておく。

 はいはい不器用なドワーフでした。


 そう言えば皆さんも判ってると思いますが。

 お布施とは仏門の言葉になります。が、『献金』という言葉よりも『お布施』の方が意味的に入って来やすいと思うので、このゲームの中ではお布施で統一されています。ゲーム内言語も日本語ですしね。


 クロスたそ、聖書さんぱわ〜が炸裂した!

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