剣鬼誕生
さて試合が終わって、無様に倒れるDUOを放って置いて私が向かった先は、エリック神父の居る場所である。
俺は依頼完了の報告をする。
だが、返って来た答えは、
「見てましたよ。サマエルだったんですね。大方の予想はついていたのであなたにイヤリングをお渡ししたんですが、どうでした彼? 貴方が私の弟子だと気付いていました? どんな反応でした?」
なんだよ、神父。
俺を連絡手段として使ったって事?
ってか、たまにすっごい精神を抉って来るよな。
本当の敵はここに居たのか。
「…すっごく会いたがっていましたよ…」
そう言いながら俺は例に寄ってエリック神父の隣に用意されている椅子に腰掛けながら、頬杖をついた。
もう礼儀とかしらんわい。
大会は進んで行く。
エリーはagimaxに負けた。
雪精霊とのコンビネーションはバッチリであったが、agimaxの戦い方が一枚上手だった。
agimaxは場外狙い。
まぁこれは当たり前か。
タンク職と削り合うなんて馬鹿でもしないだろう。
翻弄され、ついつい熱くなってしまったエリーの凡ミス。
agimaxに誘導され、雪精霊の地面に張った氷に滑って場外転落。
まだまだ甘いな。
聖職者たるもの、その程度で動揺しては行けないぞ。
っと戦い中かなりの頻度でイラついてる俺が申しております。
で、ユウジンだが。
まぁあっさり勝って決勝へ足を進めた。
あっさり負けた釣王。
一応名前と装備を合わせて来ているのか、それとも狙っているのか、釣り竿を装備して試合に臨んでいた。
日曜早朝にやってる釣番組に出る釣りアイドルみたいだった。
絶対狙ってる。
いや、負けた後もなんやかんやファンを獲得していたから。
確実に狙ってやってるとしか思えないわ。
まぁ、トリッキーなスタイルで面白かったけど。
次の準決勝でも、ユウジンはagimaxを圧倒した。
そして、決勝は俺とユウジンである。
勝てるだろうか。
因みに俺がユウジンで勝てる事と言ったらサウナくらいしか無い。
他にもあると思うが、なんか例えが出てこない。
どういう風に勝利に持って行けばいいか考えてみる。
切り札の降臨はもうバレてるしな。
良いアイデアは無いだろうか。
お互い接近戦であるが、相手はINT,MND値以外そろそろ100越えしてそうな化け物ステータス野郎だぞ。
チートだチート。
俺なんて聖書さんとクロスたそと魔力ちゃんの力を借りなければノーマルプレイヤーにも勝てない雑魚だ。
あ、何かちょっとへこんできた。
何にも思い浮かばない。
魔法で遠距離戦を挑むしか戦い方が無い訳だが、思い出した。
あいつ魔力ぶった斬れるじゃん。
なんか全部斬られるな。
斬れない物って何だろう。世界大全しかないけど。
貸してくれるかな・・・。
ダメだ、アレは魔術クラスで広く知れ渡ってしまった。
バレるな。
うーん結局、降臨【フォール】使って短期決戦しか無いのだろうか。
それも、彼のどつぼにハマっている気がして何とも言えない。
結局。
良い案は浮かばなかった。
今の俺の中で考えうる最良の手段は、剣を奪って泥試合作戦だ。
対武器だったら対抗不可能。
素手同士だったら降臨使えばステータス的には届くと思うし。
まだ勝てる可能性が残っている。
よし、聖十字を飛ばして剣で弾かれた所を突っ込んで、クロスを剣で弾いて即行で降臨。
これで行こう!
ま、安直な考えだけどね。
決勝戦。
今回はやけに観客が多いな。
まぁ華の最終日。決勝戦だからだろう。
俺とユウジンは向かい合って、開始の合図を待っている状態。
『さてみなさん! いよいよ待ちに待った決勝戦だ! 剣豪ユウジン対戦う神父クボヤマ! 今日の優勝者が初代RIOナンバーワンの栄光を獲得する!! 最後に立っているのは誰だ!? 観衆よ! 瞬きするなよ! その一瞬を見逃すな!』
やけに気合いの入ったマイクパフォーマンスだな。
俺達は互いに相手に集中して行く。
歓声は聞こえなくなって行く。
皆も戦いに集中しているのだろう。
開始の合図を今か今かと心待ちにしているようだ。
よし。
初手は必ず貰う。
初手は必ず貰う。
クロスを握る手が強くなって行く。
ユウジンが俺の手を見ていた。
そしてニヤリと笑う。
開始。
やっちまった。開始早々手を読まれた。
ってかやっぱりなって顔してたから元々読まれていたんだと思う。
「せいn」
言いかけた所で「フッ」っと、彼の力を込める息の音が聞こえた。
慌てて横に飛び込んで逃げる。
避けるとかじゃない、逃げる。
獰猛な獣から逃げる様に。
彼の剣が、俺がさっき居た場所を一閃した。
剣に反射光が、その空間に置き去りにされている。
なんてこったい。
このままじゃ狩られちまうぞ俺。
クロスたんごめん詠唱とかしてる暇ない。
聖十字
聖十字
聖十字
聖十字
連発は疲れるな。だがそうも言ってはおけない。
死にものぐるいで連発したセイントクロスはあくまで足止め用の牽制にしか使えないなのだから。
ええ、全部ぶった斬られましたよ。
こんにゃろおおおお!!!!
意地を見せてやんよ!
まずは武器を落とす所から始めないと。
バックステップしながらいつも通り剣の横ばいにクロスを打つける。
剣速早過ぎて追いつきませんでした。
魔力ちゃんで鈍化しようとしても、シャンと音がして断ち切られる。
「オラオラどうした本気出せよ」
初めてユウジンからの声が聞こえた。
やってんだろ!
こっちは喋ってる暇なんて無いのに。
だったら使ってやる。
降臨!!!
「それは悪手だな。クロスと聖書を重ねる間に一瞬の隙が出来るぞ」
感づいて避けるが、間に合わなかった。
俺の左手首が切り落とされていた。
「グッ!?」
痛い。だが、降臨は発動した。
全能力が上昇しているのでもう痛くない。
そして自動治癒ですぐ止血。
部位欠損ペナルティは回避したぜ。まだ動ける。
「俺は武人だ、そしてお前もまた、武人である事を忘れたのか?」
知らん!
覚えてない。
「まぁいい。その降臨だっけか? それごとぶった切ってやる」
ここからは一発勝負だな。
体力の消耗が早い。
ってか降臨状態なのに、なんであいつの動きに着いて行くので精一杯なんだよ。
もっと根性見せろ俺。
聖書さんとクロスたそが光る。
いや、俺の周囲ごと光を帯びてる。魔力ちゃん!
皆が力を貸してくれてるのね。ありがとう。
臨界突破状態だな。長く持たなそうだ。
最短距離で俺は迫る。
制御できない速度だった。
ユウジンも変化に驚いた様に目を見開く。そして剣を合わせて来る。
左腕くらいくれてやる。
手首から先の無い左腕で防御する。VIT値も上昇している筈なのに。
肩から俺の左腕は消えた。
それでも、一発ぐらい噛み付いてやる。
俺はユウジンの首元に右腕を伸ばした。
届いた。
握撃の要領で彼の頸動脈に俺の指がめり込む。
五感も強化されてる俺にえぐい音が腕を通して伝わって来る。
ユウジンの口元からも血が出ている。
よし。
だが、それは飼い犬のほんのひと噛みにしか過ぎなかった。
ユウジンと目が合った。
彼の目はまだ死んでいない。
首元から血が吹き出ながらも、彼の目はまだ凛々と輝いていた。
ドッ。
身体が震える。
大方心臓をひと突きされたのだろう。
そっからは覚えてない。
起きたら負けていた。
プレイヤーイベントの決闘大会はこれで幕を閉じた。
優勝はユウジン。
準優勝は俺。
3位がDUO。
4位がagimaxである。
「届かなかったなぁ………」
「相手が悪かったですよ。あの『剣鬼』ですからね」
エリック神父が、隣の席で落ち込む俺を慰めてくれる。
そうだ、ユウジンの呼び名が、剣豪から剣鬼になった。
神父を容赦なく追いつめたりぶった切ったりひと突きしたりと、鬼の様な攻めを見せた様からである。
なんか、凄いな。
ってか俺、お前の噛ませ犬みたいになってないか?
「実際に最後噛み付いて来たからびびったぜ」
そう言いながら笑うユウジンは先ほどとは打って変わって別人の様な態度である。
流石廃人であって達人だな。
太刀打ちできなかった。
魔力ちゃん、クロスたそ、聖書さん。
また頑張ろうね。
次は勝とうと思う。
さてさて、優勝、準優勝だから商品が気になる所だ。
それぞれに見合った贈り物がされるという。
グレードで言うと、優勝準優勝は特級アイテムだった。
3、4位は希少級アイテム。
俺は何を貰ったかというと。
偽女神像
『神時代の彫刻師が作った女神像を模して、その彫刻師の血を引くという伝説の彫刻師アルマが作った女神像。持つ物に聖なる力を授けるという。中央聖都ビクトリアの大教会にある女神像のところへ持って行くと、何かが起こるかもしれない。破壊不可属性』
なんという。
なんという代物だ。
何かが起こるってなんだよ。
気になって来た。
凄く気になって来た。
これは魔法都市へ行く前に聖王国ビクトリアまで行かなければならない。
ユウジンは、木刀を貰っていた。
世界樹刀
『不殺の剣である。極東から世界の果てへやって来た鬼は、無駄な殺生をせぬ様に世界樹からひと振りの剣を作った。この剣を持って戦うと、振れぬ程重くなり、また斬られた相手は無傷で昏倒する。破壊不可属性』
なんじゃそりゃ!
要するに練習用竹刀ってことか。
地味に嬉しがってるユウジンである。
いや今のお前にはピッタリだけどさ。
ってか、意外とストーリーに拘ってるな。
ユニークアイテムって、この世界の神話とか逸話に沿って作られている様な気がする。
それを集める旅ってのもまた良いかもしれんな。
イベントの後夜祭は、大盛況を見せた。
イベント大好評だな。
これはまた、何かしらのイベントがあるかもしれないから。
公式サイトは逐一チェックしなければならないな。
今は喫茶ブルーノで皆と落ち着いている。
マジで、穴場みたいな場所だわここ。
ブルーノ氏も客が来てくれて嬉しいみたいだし、またイベントがここであったらたまり場として使おう。
あ、そうだ。エリック神父も連れてこよう。
そして、意外なメンバーの集まって来ている。
二三郎にギルド『リヴォルブ』のギルマスのロバストとハザードである。
例のストーカー女は来ていない。
「なんかお前らだけちげーと思ったら、そんな事になってたのか」
ロバストはあっけにとられた様に呟く。
彼等にはリアルスキンモードの説明をしていた。
ロバストとハザードは、このカフェにユウジンが二三郎を誘った時に、くっ付いて来た形だが。
ユウジンは二三郎との試合で彼と仲良くなっていた。
男は拳で語るものみたいな感じだ。
自分に近い者を二三郎から感じ取ったんだろうな。
「ロバストすまん。俺は強くなりたい。だからギルドをやめる」
ハザードがそう言い出した。
リアルスキンモードをプレイする事にしたらしい。
キャラデリを意味するからな、ギルドは当然辞める事になる。
「……いいだろう。だが、抜けてもまた入れるんだろう?」
「はい。システム的な補助は無いですが、同行自体はは可能なので」
俺は肯定する。
「だったら強くなってまた戻って来い。お前は俺のギルドに必要なんだから」
「ロバスト、お前も来い」
「いや、俺にはギルドがあるからな…また改めて別の方法を考えるさ。よし、ウチの最強アタッカーのお別れ会でもするか、俺達は居酒屋に行くぜ」
またどっかでな。とロバストとハザードは肩を組んで去って行った。
友情だ。
ロバストもいずれ、こちらの世界に来て、もっと広い世界を見てほしいな。
そう思う。
ハザードはリアルスキン初期でも苦労する事無く冒険を開始できそうである。
それだけの知識と実力を兼ね備えているから。
とりあえずアイテムを預けて持ち越せる事と、メリンダさんの所で基本魔法を覚えれる事だけは伝えておいた。
二三郎はリアルスキンモードにしたら、俺達を追いかけるそうだ。
典型的なソロプレイヤーだからな。
荷物とかどうするんだろう。
ま、上手くやるだろう。
さ、イベントも終ったし、『鍛冶の国エレーシオ』と『魔法都市アーリア』を目指す旅がまた始まる。
登場人物が増えます。
で、強プレイヤーが二人、ノーマルモードから居なくなりました。
新しい世界で、彼等はどんな成長を遂げるんでしょうか。
ロバストとハザード。
ノーマルプレイヤーとリアルスキンモードプレイヤーの絡みも乞うご期待です。