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洗礼

 目を開けるとそこは大きな噴水のある広場だった。俺の目の前には大きな掲示板が建っている、エリアマップだ。

 この噴水の広場は『女神の広場』と言うらしい。確かに噴水の中心に女神の像が建っている。太陽光を反射する水のカーテンに包まれた女神像はどことなく神秘的に思えた。

 ものすごく現実の中に居るような気分になって来る。バーチャルなのに。


 この広場が『始まりの街』の中心であり、広場から東西南北にメインストリートが伸びている。そこから枝分かれする様にそれぞれの施設への小道が続いている。なんつーか綺麗な街並だけど排水とかどうなってんだろ。

 地図通りの街並かどうかもあとでチェックする必要があるな。わくわくしてきた。


 マップから視線を外して回りを見渡すと、そこそこの人数が広場でくつろいでいた。これがいわゆるプレイヤーなのかな?

 相変わらずマップ前でキョロキョロしていると、近くから声が掛かる。


「あんたさっきからマップ前でキョロキョロして、邪魔なんだよ」


 帯剣に胸当てと額当て、いかにも剣士といった男が俺に喋りかけて来た。


「すいません。今どきます」


 言い方は辛辣だが、余計な波紋をここで起こしても仕方ない。なにより怒ってる暇等無いほど俺はこの状況を楽しんでいる。第一プレイヤー発見。しかも向こうから声をかけられた。


「ん?あんたその格好。たった今ログインしたのか?」


 彼は俺の格好を見てそう言った。どうして判ったのかと怪訝な表情をしていた俺に彼はさらに付け加える。


「その格好みれば判るぜ。俺も通った道だ。初ログインはわくわくするものだ」


「たしかに、初めてのVRゲームなんですが、ここまですごいとは・・・」


「あんた一発目がRIOなんだ? これに慣れたらもう他のゲームはできないぜ!」


 彼は、このゲームの他ゲームとの違い等を笑いながら語っている。口は悪いが実は良い人なのかもしれない。良かったらいろいろと教えてもらいたいと思い俺は彼に尋ねようとした。


「あの、初めの方で気をつけておくべきことなどはありますか?」


「あーそれね。あるある。このゲームは自由度が高過ぎてこんな事も許されてるんだよw」


 彼の笑い方が変わったと思ったら。彼の剣は俺の腹を貫いていた。


「町中のプレイヤーキル。あ、気をつけてね。その服来たままだと、面白半分で殺されちゃうからw」


 じわっと服に血がにじんだと思ったら。急に腹から剣を抜かれた勢いに合わせて血と内蔵が零れる。少し遅れて激痛が、俺は思わずしゃがみ込んだ。


「あれw普通は即死なんだけど、VIT極の人?w」


 まわりから「うわっ、そこまでリアルなんだ!」やら「痛覚高めに設定してんだ痛そー」やら「やれやれ」といった声が聞こえる中とうとう俺は力尽きてしまった。









 気付いたら大聖堂の中にいた。リスポーンというヤツか。ログイン場所がリスポーン地点じゃなくて良かった。またあざ笑う様に殺されていたかもしれん。


 それにしても。痛かった。

 今のは俺が悪いな。これだけ自由度が高いんだ。下手な制限なんて設けられてるはずが無い。現実の世界と一緒だと考えるべきなんだ。


 ゲームゲームだとずっと言っていた俺が恥ずかしい。即死だったらどれだけ良かったから、下手に生き残ってしまったから文字通り死ぬ程痛い思いをした。

 まぁでも、慣れてるし良いか。

 今俺に必要なのはやはりこの世界の情報と自衛の手段であると気付いた。


 それから衣食住という基本を照らして行こう。

 血まみれの服を眺めながらそう思った。


 足音と共に声が聞こえる。


「その傷、あなたも痛い目に合わされたみたいですね」


「はは、当たりどころが悪くって死に損ないまして、内臓が飛散して死んでしまいましたよ」


 悲しそうな顔をした神父さんに俺は苦笑いしつつ返す。それを聞いた神父さんは苦虫を噛み潰した様な顔をした。


「いくら死が訪れない人々だからといっても、安易に人を殺めてしまう行為は神に反しますよ。私たちは復活できないただの人なんですから」


 ん?NPCか。もしかして。

 えらい良く出来てる。ただの人間じゃないか。

 いかんいかん。ここは現実だと思わないと。実際に生きてる人なんだ。この人は。


「そうですね、今のうちはまだ私たちみたいなのしか狙われていないそうですし、自衛の手段は持っておきたい所です」


「その内神によって天罰が下るでしょうね」


「神父さん。よかったこの街の簡単な情報を教えて頂けませんが?なんでもいいので」


 なりふり構っていられない。協会内は安全なので神父さんにお願いしてこの街のことに付いて少しでも教えてもらおう。


自由度が高いと。必ずしもこうなる訳ではないが、いささか不憫ですね

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