兄妹
新作!!
覇拳-素手で魔物を狩る派遣社員(時給1300円)-
http://ncode.syosetu.com/n6741dg/
連日更新中。お願いします。
※三人称視点
《そろそろ到着致します——ご準備ください》
ウィズのアナウンスが鳴り響いた。アレからも、あまりよろしくない警報がウィズから鳴り響き、エリーと凪の胸中はすっかり不安で埋め尽くされていた。
《考えうる限りの安全域になりますが、くれぐれもお気をつけくださいエリー様》
凪は、自分がいるとして。
エリーは最悪の場合、守る事が出来ないかもしれない。
主人の「ちょっと私も心配しなさいよ」という声を無視して、ウィズは心から言った。
「大丈夫デス、私もすぺしゃるあーつを考えて来ましたから」
エリーは見てと言わんばかりに力こぶを作る。
そして彼女の腰には、しばらく見ていなかったサーベルが帯剣されていた。
「ほら、マッスルメモリーってあるじゃないデスカ? リアルスキンに変えた初期、まだ自分の身体がエルフ化していく前は、鎧だってつけれてましタカラ」
凪は、この女腹筋割ったのか。と衝撃を隠せなかった。
空気をあえて読まなかったウィズは、
「腹筋割れてるんですか?」
とぶっ込んだ。
「……もともと筋量は多い方デスシ、現実にフィードバックは無いと思いマシテ」
「……ふーん」
凪は改めてエリーの姿を見直したが、確かに前よりカッチリしていた。女子力が物理方面に割り振られた様な、そんな感じ。
「で、デモ! 新しく何かするとしたらこういう所しか残されていないじゃないでデスカ! 大体みんな勝手に先に進んで! わ、ワタシなんてヒロインポジションもポッと出の——」
「それで筋肉付けたら意味内じゃないの。もっと可愛くなりなさいよ」
少女漫画脳の凪は、大体そう言うが。
実際の所、最前線でクボヤマと絡む為には己の力をさらに増すしか無い。
そして、幸か不幸か——
クボヤマは自分より顔が濃く、それでいてアスリートの様な体系の女の子がめっちゃタイプだと自負している。
付き合う女の子が全員そうであるかはわからないが、いつまで経ってもグラビア界の黒船を追い求め、自室のクローゼットにはたんまりそれが隠してあるのだ。
気付かぬ所で、エリーは一歩リードしているというのに。
前線に立てないだけで、ヒロインの座も奪われたままだった。
頑張れエリー、負けるなエリー。
無理矢理クボヤマの実家に入ろうとせず、ドアを叩いてジッと待っていればクボヤマは開けてくれるというのに……。
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「ちょっとクボヤマ!!!」
倒れ込んだクボヤマに駆け寄るルビーだった。まるで死んでしまったかの様に沈黙するクボヤマ、どれだけ揺さぶっても反応が返って来る事は無かった。
「ギャハッ! 流石だぜ、愛してるぜぇ妹ぉ!」
そんな二人を嘲笑う様にロッソは近付いて行く。
正直彼は運気なんて信じていなかったが、今回ばかりは宝くじが当たったかの様に錯覚してしまう程、自分のラッキーを喜んだ。
「アンタなんかに—————キャッ!!!」
ルビーを蹴り飛ばしたロッソは、首を鳴らしながらクボヤマに近づく。
「半分神でも半分人間だもんなあッッ!!!!!」
そして大きく蹴り上げた。
聖核と言う物が心臓の代わりを務めているクボヤマの身体だが、その器である肉体自身は元々鍛え続けて来た彼の物なのである。
筋肉ダルマであるロバスト、ゴーギャン・ストロンド等と素手で渡り合える程の密度を持つ身体は、重たい音を立てて迷宮の地を揺らす。
「特別な力が無かったらまるでマグロだなぁ!! ぁぁ、いや、既にマグロみたいなもんか——もうとっくの昔に融合してると思ったぜぇ」
本来であれば、ロッソは次元を歪める程の力を初手で使い、奇襲をかけてクボヤマを殺すつもりだった。それは文字通り、シャドーに試した時と同様に。
明らかに、激昂していたクボヤマの力を恐れた魔王サタンの残存意志が、そう告げていたのだ。
気を抜けば殺されるぞ。と。
現に、ロッソはクボヤマの猛攻を浴びて一度消滅しかけている。
だがその心配はもう無い。
ロッソの余裕が生まれていた。
「ギャッハッ! 最高にいい気分だぜぇ、なぁ神父?」
当然ながら返事はない。
心を掌握してしまえば、いくらとてつも無い力を持っていようとも、意味は無い。人間が悪魔に勝つ為には、同じ様に悪魔を心に宿すか、一点の隙も内容に心をプロテクトを固めるしか無い。
「や、やめてよ!」
転がったクボヤマに蹴りを入れ続けていると、ルビーが間を割って入ってくる。ロッソは口を歪ませながら一度蹴る足を止めた。
必死にクボヤマを庇うルビーを見ながら言う。
「反吐が出るぜぇ、所詮男に寄生して生きるしかできねぇ奴らがよ」
ロッソはルビーの顔を見る度に、一つの記憶が蘇って腹の底から煮えくり返りそうだった。彼女は自分が殺した母親に似ていた。
「まぁ、俺を心底恨んでるみたいだがなぁ——それなら殺しに来いよぉ、いつまで待たせてんだよぉ」
嘲笑うかの様にロッソは言う。
ルビーは悔しさで口を噛み締める。
「探してたわよ、いつまでも逃げ回ってるアンタを、通報してやるんだから——覚悟しておきなさい」
「ギャッハハ!! 笑わせてくれるぜ。大体今回もその男に頼ろうとしてたんだろ。わかんだよてめぇらの魂胆なんかよッッ!!」
狂気の標的はルビーに変わる。
叫ぶ暇もなく彼女は蹴り跳ばされてしまった。
それも、大の男に思いっきりだ。
「あの女も——こうやって強がりやがったぜぇ!!」
その女とよく似ているルビーを見ると、どんどん記憶がフラッシュバックしてくる。胸くそ悪いが、殺しの快感を得たあの日の記憶が蘇る。
"あんた、何様のつもり?"
「ぎゃっは! 反抗的な目をするとすぐに殴って気やがった!」
"出て行きなさい、邪魔"
「ギャハハッ! ガキだから何も出来ないと甘く見てやがったなぁ!」
”冗談はよして、本当、誰に似たのかしら"
「親父なんて誰もしらねぇよなぁ!!」
"け、警察よぶわ——"
……気がついたら、ルビーの顔は痣だらけになっていた。
殴ってしまっていた。あの女に似てるから。
「ぁ」
笑いがこみ上げてくる。
「最高だったぜぇ……中坊で人殺して射精しちまったよぉ、どうだぁ、お前も見てるはずだぜ、ガキだったけど覚えてるはずだぜぇ? 同じ部屋の片隅で踞ってたんだからなぁ!! ギャッハッハハハ!!!」
「いやあああああああああ!!」
耳を塞ぐ。思い出した。と、言うよりもあの時母親に暴行を受けてフラフラだった、朧げだった記憶が、ロッソの言葉で鮮明に移り変わって行く。
——あの日。
中学生に上がったばかりの兄は、目の前で母親を殺した。
次回、ルビー回入ります。
一人の少女の物語です。
ツイッター@tera_father
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