表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/168

ロッソvsエヴァン2

「…………嘘だろ……」


 意識を取り戻したバンドは目を疑った。


 今まで共に戦って来た旅の仲間が、まるで廃人のように両膝をついて途方も無く上を見上げていた。


 そのすぐ前には口を大きく歪ませて笑うロッソの姿。


 どんな困難もその強運で生き残って来た猛者である。

 あのエヴァンが、やられちまった……?


「ギャッハッ!! いい気味だぜ竜の子!! そうか、読めて来たぞ。陸海空をおさめる竜は、相当馬鹿みてぇだなァ! こんな竜のなりそこないをこの俺様の元へ差し向けるなんてなァッ!!!」


 ロッソは大きく両腕を広げて虚空へ向かって叫ぶ。

 倉庫の天井は、戦いの顛末を表す様に穴だらけ。


「……ノーマルプレイは確かに厄介な安全装置だが、リアルスキンなら、魂だけなら消せるかもなァ。ゲームの世界から、二度と起き上がる事は無いと来た」


(何言ってるか全くわかんねーが、このままだとエヴァンが殺されちまう)


 どうやらロッソはまだバンドの意識が復活した事に気付いていないらしい。勝利の快感に、いや、殺戮の快感に酔いしれている様だった。


(……う、動け!! うごけえええ!!!)


 足が震える。

 すっかり感覚の無い下半身に違和感を感じた。


(な、情けねぇ……。俺は漏らしちまってるのか……?)


 今まで危険な目には何度もかち合った。

 荒くれた強大に奴隷の様に扱き使われて、大森林ではダークエルフや凶悪な魔族に殺されかけた。


 自身の事を臆病者で情けない奴だと、とうの昔から判っていた事だ。

 でも仲間のピンチに立ち上がれない程、情けない根性をしているつもりは毛頭なかった。




 全ての誇りを捨て去ってでも。

 無様に尻尾撒いてでも。




 この目の前の男とはやり合ってはいけない。

 本能が、獣人の本能ではなく、生物としての基本的な構造が警戒信号を鳴らしている。






「お? やっぱ、ガタ来てたか? 情けねェな、身体が崩壊してるじゃねーか……でも、このまま死に戻りされるのも厄介だな。——隣の世界を知らない理由は、まさに知らないからだ。だが、俺は知っている。って事は、それが理由(・・・・・)にはならねぇよなぁ!!」


 次元すらねじ曲げてしまいうる力がロッソの周りに集まって行く。

 悪魔の証明(デモンズプロパディオ)の真価が発揮されようとしていた。


 彼の過去に何があったのはか判らない。

 歪んだ性格が生み出した屁理屈だらけの歪んだ世界観。


 サタンと各レベルで融合を果たし、邪神へと生まれ変わろうとしているロッソは、鬼に金棒を越える程の力を手に入れていた。


 出来ない理由が無い(・・・・・・・・・)

 それは、万能そのもの。


 現実リアルを知り生きるロッソは、とんでもない事を起こそうとしていた。


「ケッヒャッヒャッヒャ!! これでれる。れるぞォッ!!」


 燃え尽きてしまった様に身体がボロボロ崩壊して行くエヴァンに向けて、得体の知れない力を集めた右腕を今……。


 ——————振り下ろす。


「動け、動け動け動け!! うおおおおおおお!!!」


 バンドは四足歩法を用いて、今の自分が持てる最大限のスピードでロッソに肉薄する。完全に気分が高ぶっていたロッソは、その侵入者に気付けなかった。


 いや気付く筈も無い。

 バンドは最初から登場していたのだから。


「あ? 何だ犬ッコロ。一体いつの間に……最初からいやがった奴かァッ!」

「ひいいい! 俺の一番槍は記憶にすら残ってなかったのかよ!?」


 エヴァンの襟元を加えると全速力で切り返し、倉庫の出口を目指す。

 崩壊しつつ有るエヴァンの身体は、既に先端からボロボロと零れ始めていた。


「もしかして住人(NPC)じゃね〜の? 丁度良い! この力を当てたらどうなるか試してみるぜェ〜!!」






「————それはさせねぇな」






 バンドを追うロッソの間に、一人の侍が姿を表した。

 ロッソの頭上に浮かぶ得体の知れない歪んだ力を一瞥すると。


「覇ッ!!!!!!」

「あ?」


 世界樹を削いで作り上げた木刀で、歪んだ空間を一閃した。


 不殺を誓ったとある鬼の傑作であるが故に、人を斬り殺す事は不可能だが、それ意外であれば斬るという意志がそのまま力になる。


 不完全な力の塊は、呆気なく霧散する。


「銀の子よ、こっちへ!」


 翡翠色の長髪が似合う妖艶なドレスの女性が手招きする。

 理解が追いつかなかったが、なりふり構っていられないバンドは、必死な思いで彼女の方へと走る。


「ユウジン!! こっちだ!! 飛ぶぞ!!」

「おう!」


 さっきまで女性が居た場所に、巨大な竜が翼を広げて待ち構えていた。

 侍は竜の背中に飛び移り、竜はバンドとエヴァンを前足で確り掴むと大きく翼をはためかせる。


「うおおおおお! 何だこりゃー!」


 巨大な翡翠色の竜は、一つ羽ばたいただけで遥か上空へと急上昇した。


「あっぶねぇー! アレはマジでヤバかったなガイヤ!!!」


 上の方から侍の声がする。

 ガイヤと呼ばれた竜は、低く唸りを上げながら言った。


「グルルル! 今は一刻を争う、ふざけてる場合では無いぞユウジン! 銀の子よ、詳しくはあやつの力の届かぬ所まで離れてからだ! 確り捕まっておけ!」


 竜は更に加速する。

 何らかの加護が働いているのか、風の衝撃をダイレクトに浴び続ける事は無く。


 まるで母の胎内に居る様な安堵が心の中に伝わって来る。

 暖かかった。


「何かわからねぇが……助かったぜ……」


 バンドは離れて行く迷宮都市に視線を向けながら、ホッと息をついた。









---


「……チッ。まだこの程度じゃダメかァ」


 獲物を取り逃がしてから、ロッソは未だ倉庫内に居た。


 手を握ったり開いたりしながら、

 さっき掴みかけた得体の知れない大きな力について思案する。


 感覚はまだ残っている。


「おい糞ガキ、聞こえてるか? もしかしたら叶わない願望が一つ叶うかもしれねぇぞ? ギャッハッ!」


 狂った笑い声と共に、ボコボコボコと赤黒い粘性を持った液体がロッソの足下に湧き出て来る。


 転移門を召喚する必要なんて無い。

 目指す先は下。


「まずはこの力でアイツを二度と生き返らない様にしてやるよォ……」


 迷宮都市の真下に無限に成長を続ける大迷宮へと、沈んで行く。









 ロッソの力が偶然にも大きく変質しました。





ツイッター↓

@tera_father

(小説と関係無い事も呟きだしました。笑)

何か有ればこちらで!


あと、平行してまた新しく書き始めました。

http://ncode.syosetu.com/n3555dg/

オッサンのドタバタほのぼのハートフルボッココメディーファンタジーです。

色々とカオスな世界観です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ