ルビーは再び攫われる
「もー! なんでいつも私はおいて行かれるわけ!?」
ボロボロになった小料理屋【逸れ馬のモツ煮亭】の前で憤慨する。視線の先には、彼等が走り去って行った道。往来する人々によってその残り香は既にかき消されてしまっていた。
「あ、これ……魔道具の?」
騒動の余波で液晶に破片がブッ刺さってショートしていたクボヤマのマギフォンを手に取る。
まだパチパチと音を立てていたそれは、ルビーが触れるとまるで止めでも刺されたかの様にピュンとひと鳴きして今度こそ本当に動かなくなった。
「……何なのよ一体」
うんともすんとも言わなくなった魔道具を片手に、ルビーは初めて自分の体質と言う物に対して疑問視する。
「……マジックボルト!」
虚空に手をかざし、ノーマルプレイヤーだった時代、一番使い慣れていた魔術スキルを行使する。
だが、補助を受けて成り立っているノーマルプレイヤーモードと全てが己の練磨次第であるリアルスキンでの魔術は、文字通り枠組みから違っている。
未だにノーマルプレイヤーが大勢居るのは、ゲームをゲームとして楽しみたい他にも、そう言った面倒な部分が嫌な人達が多いからでもあった。
「マジックボルト! マジックボルト!」
ルビーは今一度、自分の無力を実感する。
そうなるとただの女性でしか無いルビーに取って、荒くれ者が多いこの迷宮都市は、酷く恐ろしい物に見えて来た。
「プクク……昔からそうだけど、本当にあの子ってば、後先考えないのよねぇ」
「自分の妹なんだからそう笑ってやるなよん、付き合ってて何だが君ってかなりのドSだ〜?」
聞き慣れた声が二つ。
ルビーはハッと後ろを振り返る。
「……何しにきたのよ? お姉ちゃん」
お姉ちゃんと呼ばれた女性は呆れた表情をしながら言い返す。
「家と全く同じ事を言わないでもらえる? 興が削がれるわぁ」
隣に立つ男はニヤニヤしながら、
「あれあれ? そこまで仲良しじゃないのん? でも端から見てて面白いからオッケー!」
そう言いながらテンションを上げていた。
「何言ってるの、姉妹愛は確かな物よ? ああ私の妹、無一文でこんな大陸までやって来て、挙げ句の果てにこんなにボロボロにまで……」
ルビーの卸したての服は、喧騒の余波で既にあちこち綻びが生まれていた。そんな様子に涙を溜めながら、姉であるガネッタ・スカーレットはルビーに抱きつこうとする。
「近寄らないで! いやみったらしいわよ!」
「ちぇ、せっかくの再開なのに、ルビーは私を拒絶するのね。ああ堪え難い現実よほむらぁ」
「やれやれ、姉妹喧嘩は余所でやってくれないかなぁ……? これもこれで面白いからいいんだけどん?」
気合いの籠った泣き真似を終えたガネッタはルビーに見せつける様にほむらと呼ばれる男に抱きつくと言った。
「あんたさぁ、英雄捕まえた気になってたみたいだけど、随分と金払いが悪い英雄みたいね?」
抱きつかれた男が「おふぅいつも以上に過激なスキンシップぅ!」と言っているのは聞いちゃいない。
「別にそんなんじゃないわよ」
「いい? 男を捕まえるならお金持ちにしなさいと何度言ったらわかるの? ウチの家訓は代々そうだって言ってたでしょ?」
男は「俺を目の前にそのセリフ……そこに痺れる憧れるよガネッタ!」と言っているのだが二人の耳には届かない。
「うるさい売女! 淫売! 売春———」
ルビーの目の前でけたたましい音が鳴り響く。顔のすぐ真横を何かが高速で突き抜ける感覚して意識を置き去りにする。
「ッ……!!!」
男の向けた銃口からは煙が上がる。
それには明確な殺意が籠っていた。
「まぁこんなでも昔JOKERにいたし、ガネッタの妹ちゃんだから甘く見てたけど、些か口が悪いな」
"全く誰に似たんだか"
男はそう言ってたため息をついた。
「貴方も私の妹に銃口を向けるのは関心しないわねぇ」
「え、いや、あまりにも口が悪いもんだからちゅいちゅい?」
「お小遣い減らしてほしいのかしらぁ!?」
「いやああ! ちょっと人前で縛り上げるのは……! ぁ!!」
ルビーは未だ耳鳴りがする左の耳に触れる。
今、本気で当てるつもりだった。
(理解できないわよ!)
目の前で起こる亀甲縛りプレイも、突拍子も無く明確な殺意を向けて来た由縁も何もかも、クボヤマが居なくなったルビー・スカーレットはトコトン不幸な一般市民。
ただ、それに尽きるのだった。
クボヤマは受け皿と言う物を想定し、別次元の力で構成される自分自身の特性を生かしてルビーの強烈に何かを呼び込む力を相殺していたつもりである。
それでも騒動に巻込まれるのはクボヤマの天命みたいな物。
SMプレイ勃発の最中、足早にこの場を立ち去ろうとしたルビーに、やや頬を染めた姉であるガネッタが言い止める。
「あら、そういえばすっかり忘れてたわ。——お兄様がお呼びよ?」
「お兄ちゃんなんていないわ!」
ルビーは突然の発言に激昂する。それの意味を知ってか知らずか、ガネッタは悲しそうな声色で「貴方酷いわね、忘れてしまうなんて」と言いながらも、その表情は酷く歪んでいた。
「あら、貴方。酷い顔よ?」
ルビー自身も、ハッとして顔を触る。
その様子を見てガネッタは更に高笑いする。
同じDNA。
こればっかりはどれだけ唇を噛み締めて神に願っても何ともならない現実だ。
「ん〜男と女は騙し合い。凄い縁だよねこれ? まぁJOKERもいずれ西の覇権は取りに行くつもりだったからさ、敵の敵は味方。味方の敵は敵っていうから?」
「あら? 騙し合いだなんて。私との情熱の日々は全て嘘なのかしら?」
「はっは! 事実は事実だよ! 君ならあるがままで受け止めてくれるはずさ」
トップギルド、JOKERの中でも特にくせ者と言われている男。焰の属性を関する魔導士ほむらはいつの間にか亀甲縛りから脱出すると、一つ笑ってガネッタを抱きしめた。
他人のラブロマンスなんか見てる余裕は無い。
そして、
「私は"犯罪者"にあうつもりなんて無いから」
ルビーはバッサリ斬り捨てると踵を返す。
だが、ガネッタの鞭がルビーを捉えしめ上げる。
「貴方、自分の置かれている立場がわかっていないようね」
鞭を引っ張るとルビーは悲鳴と共に顔面から転んでしまう。そしてそれを悦に入った様に見ながらガネッタは言った。
「これは命令よ? さぁ、久々に兄妹全員揃うわねぇ。家族会議の時間よ?」
「ねぇねぇ、それには俺っちも同行していいのかなぁ? 未来の家族だからさ?」
「ふふふ、もちろんよ」
不適に笑うガネットとほむら。
今回も、連れて行かれる自分自身を助けてくれる人はいない。
ただのルビーには何も出来ないのだ。
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「なんか、あちこちで進んでるみたいだ」
「それより我が子がどこに居るのだ?」
迷宮都市の中でも一際大きな建物。迷宮都市から出た産物を扱う事で名を上げて来た商人の豪邸の上に立った二人の男女が眼下を見下ろしながらそれぞれ別の話しをする。
「……ぶん殴れなかったか。一足遅かったみたいだな」
物騒な事を言うのは刀と木刀を腰に下げた着流しスタイルの短髪の侍。
「いやしかし、余り関わるのも甘やかし過ぎ……かもしれん」
頭がスパークしてるのは翡翠色のドレスを身に纏った翡翠色ストレート美女。
「JOKERが彷徨いてるな。セバスは把握してるのか……? まぁ大丈夫だろうな。それより攫われちまったぞあの女」
「使い魔が追ってるようだが、一応我も目にかけておくか?」
ようやく会話が成り立つ。
美女の瞳に魔力が循環するが、侍が手で制す。
「その必要は無いみたいだぜ」
顎をしゃくる彼の視線の先を見てみると。
遠くから一直線に彼等の方へと疾走して行く銀狼に乗った黒髪長髪の男の姿があった。
「じゃ、邪神の影響で増えまくった魔物を蹴散らしに行く……か?」
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ———。
「おおおお! 我が子ー! その勇姿ー! 念のために望遠レンズのオプションを購入しておいて良かったぞ」
隣を見ると、撮影用一眼レフ魔道具-竜仕様ver-を持った美女が規制を上げながら連射モードの撮影ボタンを押し続けているのだった。
侍は鼻で笑い呟く。
「はっ。もう使いこなしてら」
とある幼女の質問
Q.りゅうしゅはおばかなのですか?
とある幼女の回答
A.なにをいっておる! 世界を守るべく日々戦い続けているのが竜種と言う物じゃ! いいかの? 我も親から受け継いだこの海域を守る為に日夜……あ、まっくぅーん! え? もうデートの時間? ごめんなさいぃぃ! うん、うん、すぐ行く!
あ、すまんの!
ちょっとこれから西の海域を救いに行かねばならん!
またのー!
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