農業大国『アラド公国』へ
ふぅ。疲れたな。ログアウトしてVRギアを見つめると、あの世界はゲームなんだなと感じる。世のノーマルプレイヤー達は、一体いつになったらリアルスキンモードの魅力に気付くんだろう。
いや、すでに何人かはリアルスキンモードの世界を渡り歩いているんじゃないだろうか?
そう考えるとその人達と出会う時がすごく楽しみである。いったいどんな成長を遂げているんだろうか。
ってか、あの商店街、よく福引きの商品にRIOと推奨ギアを持って来れたな。今後とも贔屓しよう。とりあえず、軽食を挟んでログインしよう。
その前に、何かしら使えるファンタジーの知識を勉強しておく。
キラータイガー・ダークの立ち位置は、裏エリアボスといった形なのだろう。俺たちは森を抜ける直前に殺されたフォレストウルフリーダーの死骸を発見した。こういう対立も有るんだろうな。たまたま活動エリアが被ってしまったから殺されたんだろう。
皮は魔力を帯びていたので保存状態は良好だった。その他素材として仕える部位を剥ぎ取った。
で、森を抜けて馬車道沿いを進み、たどり着いた国境の街はというより、砦と行った方が良いかな。そんな感じだった。
街としての最低限の機能はあるが、兵士の駐屯地といった具合に、国境を守る兵士が住んでいる。
なんか、派遣社員って感じ。もしくは左遷された社員。または単身赴任。まぁ家族を連れて来ている兵士も多かったので、公務員の出張先だな。うん。
入り口で止められないか心配していたが、無事に通る事が出来た。だが、国境を通る際に、この砦に派遣されているアラド公国からの使者に入国用の印を貰わなければならなかった。
まるでパスポートだな。木の棒に巻かれた羊皮紙を広げそこに判子を推してもらう。よく見ると『パスポート』って書いてあった。パスポートかよ。
俺たちの様なただの旅人は銀貨10枚で通る事が出来る。商人であれば金貨1枚になるんだと。
まぁそんなものか。
ってことで、些細な問題も無く、俺たちはアラド公国に入国した。
国境の街から、やや北東に進路をとりながら平原を進んで行くと、アラド公国の最南端の街に着く。この国は平地が多く、農業に力を入れていた。街に近づくに連れて、ただの草原が牧草地から、耕作地域へと変化して行った。
遮蔽物が無く吹き抜ける風は気持ちいいものだ。
旅商人の馬車に同乗できた俺達は、それほど時間をかけずに初めの街へたどり着いた。
昼間はその街で補給をして、その他諸々観光をした後。夜はこの町の宿で行ったんログアウト。現実時間で1時間ほど休憩してから、集合になった。
俺とエリーはまっすぐ教会に向かう。
「師匠、二人っきりデスネ。フフフ」
いきなり何を言い出すんだこの子は。
聖騎士を目標としている彼女は、まだ16歳だそうだ。外国の女の人って年に似合わず大人びてるよね。俺だって最初は同じ年くらいだろうと思っていた。
まだ少女である。そんな少女が己の目標に向かって必死に頑張る姿を見ると、此方としてもほっこりするのである。
それはユウジンの『聖職者と騎士の修行を積めば聖騎士と名乗れるんじゃん』の一言から始まった。
俺のとなりで決まって聖書をよんで、聖職者として精進しつつ。騎士になる為のトレーニングをユウジンから学び始めている。彼がアタッカーなら彼女はタンク。攻撃する彼を必死に捌く彼女は、その玉の肌に傷がつこうとも一切気にせず耐え抜いていた。
セバスチャンは、自分の領分を弁えているのか、ただ黙々と自分の仕事をこなしていた。クラスメイトだっけ?心配だろうな。従者としても。
大丈夫だ、そんな彼女の傷は俺が直してやる。傷んだ髪もリカバリーで可能な限り修復してやる。
「もっとやりたい事をしてもいいんだぞ。観光とか」
「イイエ。ワタシも聖職者として常に規律のある心がけを持ちたいのデス」
「そっか」
まぁどんな規律か判らないが、彼女なりに聖職者としての在り方を探しているんだろう。いや、俺は聖職者とかじゃないし、別にお布施貰って半分寄付してるのだって、世間体気にしてるからだよ。
教会で礼拝を住ませて帰路につく。幾分まだ時間があるので、この町をぶらつこうかな。この町はジャスアルからの商人が必ず通る街なので、意外と楽しめた。
露店で魔術の指南本が無いか漁るのも良いだろう。威力は低くてもそろそろ攻撃魔法を覚えないと、この先やって行けるか判らない。
いや、別に聖書さん。浮気する訳じゃないよ!
違うんだからね。
なんか胸元の聖書さんが不機嫌になった気がしたので、そう思っておく。なんだこれは、これが聖書萌えと言うヤツなんだろうか。
どこまで毒されているんだろうか。俺は…。
露店に来たら、凪がいた。そして何やら騒がしく話していた。
「おねが〜い! あと少し銀貨まけてくれないかしら? その本がど〜うしても読みたいのよね!」
彼女の才能の探究心は、気になる事が有るとどうしても止められない。
まさに辞められない止まらない。っていう感じになる。
彼女の魔術本だって、私の聖書が元で出来た物だ。彼女は意外と行き当たりばったり試す事が多い。今の彼女は燃える様な真っ赤な髪なのだが、本当は黒だそうだ。リアルスキャンのバグか?と思ったが。
なんとも、リアルスキャン前に染めていたそうだ。何かしら試せる事が無いか試した結果だろう。そして、ノーマルモードで使っていた呪文が仕えなくなるのを見越して、ノーマルモードのヘルプ機能が本形式なのを利用して、先にリアルスキンモードでキャラ作成していた二人に渡していたのだ。
そして、その試みは成功し。まんまと彼女は取得していたスキルを持ち込み、尚かつ、破壊不可属性の付いたとんでもない物を手に入れたのである。
その時、ヘルプ本は名前を変えて『世界大全』となっていた。
ウィ○ペディアだ。項目は未だ知ってる魔法しか乗ってないらしいけど。
話がそれたが、なんだかもめている様なので穏便に解決すべく介入した。
「どうした凪。回りの皆が見てるぞ」
「あ、いけない。ごめんなさいおじさん。アタシどうしても気になっちゃう事が有ると止まらない性格になっちゃったの」
そうだな、全く持って止まらないな。本の使い方が判らなかった彼女は、俺が聖書を魔力で動かし文を魔力でなぞらえるトレーニングをしている事に閃き。
その日使わなかった魔力を本に与える事にしたそうだ。本に魔力溜まるのか知らないけど、馴染むのは確かだ、重さゼロで浮かせられる様になるからね。
そして元々高めのINTでも足りないその知識欲は彼女のINTの成長を促しているようでね。世界大全はあっという間に魔力を帯び、貯める様になった。因みに他の本で試してみたら消滅したそうだ。
それ、俺が一番欲しいヤツじゃん。何なの。マジで。
「ま、まぁ勉強熱心なのは良い事だと思いますよ」
絡まれていた旅商人のおじさんは、若干引きながらも笑って受け止めてくれる。
「でもお金が足りないの! 後銀貨3枚足りないの!」
すがる様に俺を見て来る凪に。やれやれと思ったが、埒が空かないし商売の邪魔をするのも行けないので銀貨を3枚たして上げた。
「ありがとうございます神父様」
旅商人の人にお礼を言われる。
「もう少し粘られてたら此方もまけてしまう所でしたよ。店じまいをしていましたから」
え、何だって!止めなきゃ良かった…。
幾分がっかりした顔色が映ったのか、商人は俺の手を握って言う。
「まぁまぁそんながっかりした顔をしないでくださいよ」
手渡された物は、紙切れ。なんだこれは。
「私はアラド中央都で商いをさせて頂いてます、ブレンドと言う者です。是非中央都へ立ち寄った際は、私の所へ、ブレンド商会へお越し下さい」
何と。意外なコネが出来た。
ニコニコしながら去り際に、彼はこう言った。
「その紙は私の支店である程度融通が利く証書ですので、是非ご利用ください。それでは、私は中央都で待っていますので」
去り際の笑顔に身震いしてしまった。アレが本当の商人ってヤツなんだろうな。いつの時代でも生き残るのは商売人だって。資本主義社会。ばっちゃがいってました。とんでもないな、でも信用問題、何か有るとマズいので顔だけは出しに行こうと思う。
出さなかったら後が怖そうだ。
ご満悦の凪と、「師匠の人脈…」と感心するエリーを無視して宿に戻った。
先ほどの件をセバスに話し、これからの進路予定を決める。
「アラド中央都は通って行きましょう。それまでにお金を貯めなくては行けませんね。それほど大きな商会というなら、旅の足になる様な何かも融通できると思います」
セバスが言う。俺たち一同その意見に賛成である。なんだかんだ馬車は良い物である。何故現代社会に車が出来たのかよくわかる。
「竜車! 飛竜車! あるんじゃないかしら!」
凪のテンションが上がる。最近こんな感じだなこいつのキャラ。
「たしかに、乗ってみたいなドラゴン」
ユウジンも珍しく興味を示す。
「デモ恐ろしく高そうデスネ」
そりゃそうだろう。ドラゴンとか。高そうだ。
でもファンタジーとしても譲れない要素だね!いいねいいね!
足の他にも色々と珍しい物が売ってそうで、大都市は楽しみである。アラド中央都に少し滞在する事も場合によっちゃありだろうな。
なんだかんだウキウキしてしまうな。あれかな、空を飛んで移動とか出来そうだな。でも気球、飛行船くらいだったらもう少し栄えてる所まで行けばありそうだな。
期待大。
んじゃそろそろログアウトしよう。
スムーズに渡れた背景にエリック神父の直弟子を守る聖騎士とその従者集団だと思われていた事は内緒。
ノーマルモードでは国開放イベントがアップデートごとに行われる予定です。まぁノーマルモードではまだまだ先の話ですがね。国開放イベントが終れば、わざわざ徒歩で行く事は無く、何かしらの手段で国を渡れます。




