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無秩序区の迷宮、第一層

『ルビー・スカーレット:人種族(中欧大陸系)

 才能:無属性魔法【魔素恒常マジック・ステイシス

 ※ステータス表示は商業アップデート時に消滅しました。

 【魔素恒常】

 魔法、魔術を行使する事が出来なくなる代わりに、変換・増幅・消費など魔力として活用する事しか出来ない魔素をそのままの状態にしておく能力。』


『エヴァン・後藤:人種族(中欧大陸系)

 才能:【魔性胃袋マジックストマック】→【魔力貯蓄マジックストック】、【竜魔法ドラゴンマジックⅡ】

 ※ステータス表示は商業アップデート時に消滅しました。

 【魔力貯蓄】

 【魔性胃袋】が【竜魔法】を習得した事により【魔力貯蓄】へと変質した。食物から魔力を得る魔性胃袋の特性をそのままに、限界魔力保有量は増加していないが別の体内器官へ魔力を蓄積させておける能力。

 【竜魔法Ⅱ】

 ローロイズの護国竜から授けられる魔法。使用時、全ステータスがINT依存になる【竜魔法Ⅰ】が魔法入門によって応用力の増した【竜魔法Ⅱ】となった。INT依存の他に幼竜程度の魔法を行使できる』




 聖核化してから使えなくなったと思っていた鑑定魔法であるが、一部仕様を変更して使える様になっていたのである。これで精密鑑定と同レベルの鑑定能力な様だ。


 何故使えたのかというと。

 いつの間にかスキルアップしていたフォルの【運命の女神の眼差し】と言う能力を俺が限定的に利用できたからである。


 限定的と言っても、フォルが許可を出した時となっている訳で、実質俺は神の目を得たと言う事である。


 因に神様の力というのは、その信仰度によって変わって行く。いつの間にか大きなギルドになり、有名になってしまったウチのギルド福音の女神の影響で順調に格を上げて行ってるらしい。


 偉いぞ。

 流石フォル。


 精神空間プライベートエリアに存在する彼女達の部屋なのであるが、そろそろ一人部屋を作ってやるべきか悩み中である。どんな部屋と規模にすれば良いか、今度彼女達に聞いておこう。


 未だ真っ白な空間に、家具等が置かれたシンプルかつ面白構造になっているのでね。模しているのはエリック神父の黒壁から行けるプライベートエリア。俺の部屋は狭い個室だからあるからな。


 彼女達のスペースは、さながら豪華な花見大会みたいな感じ。

 桜は無いが。




 開示された能力を視ると、エヴァンはハンターランクよりも更に強キャラ感のある印象であった。竜車に乗る前に大量に飯を食べていた所を目撃した俺は、彼と能力の因果関係を容易に察する事ができた。


 そしてルビーなのであるが、最早何も言うまい。その姉から貰った(お情けで)と言う初心者用の杖は完全にお飾りなのであった。


「え? 魔素恒常? なんか強そうね。私レアキャラの予感!」

「やっぱ護国竜の言った事に間違いなかった。ほんで道理で腹が減るスピードが速い訳だ……」


 勘違い馬鹿は放っておいて。エヴァンが言う腹の減るスピードと言う物は、魔性胃袋と関係が深そうであった。食べた物をエネルギーの他に魔力へと効率よく変換するわけだから、その分のエネルギーへと吸収される量も邪魔されてしまうので、結果的に身体が足りないと叫ぶ様に腹の虫を鳴らす。


 奥が深いのか、浅いのか。

 よくわからんゲームだな。


 俺達三人は迷宮一層目を進んでいる。出現する魔物は大した事無い。迷宮の外で右往左往している浮浪者やチンピラと同じ様なゴブリンとコボルト。そして、無秩序区の人が身につけている様な小汚い服を身に纏った骸骨やゾンビ達である。


 これ、ここの住民の変わり果てた姿とかじゃないよな。そうだったらここの設定を考えた奴出て来いと、メタ発言的思考。


 恐らく、迷宮出現初期に興味本位で入って行った人物か、ゴールドラッシュ時期にお宝目当てで入って無事養分となった人達も含まれているのだろうな。


 迷宮さんも、このご時世リサイクルに余念がないのである。


「なんだか凄く汚いのだけど、迷宮ってどこもそうなのかしら?」


 足下には糞尿。壁には血や腐った肉片含め魔物の死骸やそれ以外の物が散乱している箇所が多々あった。


 一層目でこれだぞ。

 治安の悪さが映し出された様な感じが見て取れる。


「一体どれだけの乞食がここで死んだんだろうな」

「ちょっと、止めてよ」


 何かに縋る様に道のど真ん中に倒れ、内臓を貪り尽くされた乞食の死体がそこにあった。十字をきって呟くと、少し鳥肌を立てたルビーが俺の袖を掴む。


 遺物や死んだ人は迷宮に吸収されて、とかそう言う類いは無い。ただ事実が散乱しているだけである。この世界の人は死ぬ。


「俺達プレイヤーみたいにベッドの上で目覚める事は無い」

「そう……」


 少し冷たい声で、事実を呟く。迷宮の腐臭に満ちた空気とはまた違った雰囲気なってしまった空間で、ルビーは察した様に短く言った。


「実は、私も見てたの。あの戦い。最後だけだけどね」


 俺が最大の失態を犯した箇所をか。


「ゲームだからと言って、目を背け過ぎだと思うの私達。リアルスキンモードにして気付いたのだけれど、この世界は生きている」

「……そうか」


 俺はそれ以上何も言わない。それはルビーも同じだった。


 リアルスキンプレイヤーは、基本的にプレイヤーキルをしない。それはこの世界をもう一つの現実として見ているからだ。故に、現実のモラルを当てはめて行動する。


 だが、未だゲーム感覚を持って楽しむプレイヤーが大多数居る事も事実であって、ただ純粋に楽しむのもありなのだが、ゲームだからといって悪戯にプレイヤーキルに手を出す人々も存在する。


 運営も対策を考慮する程、このゲームでそれはかなりの危険行為である。


 でも許される。

 いや、許されないのだが、誰も裁かない。


 プレイヤーキルは、俺達プレイヤー間でのモラルの問題でもあるからだ。自己小意識の範囲だと思うんだが、そう言う行為を楽しむ人の中では、この世界の人々に手を出すのはNGだという固定認識があるものの、死なないプレイヤーだったらOKだというふざけた考え方が存在するんだ。


 一番始めにあった剣士のプレイヤーを思い出した。初期、リアルスキンモードプレイヤーが少数だった時期である。


 まぁ彼のお陰で今がある訳だがな。


「俺は赤髪のロッソを許さないだろうな」


 守れなかったあの時の自分に皮肉を込めて呟く。赤髪と聞いて、ビクッと肩を震わせるルビー。君の事ではないのだが、俺の心の中でその髪の色を見ると何処かモヤモヤした気分になるのは否定できないので仕方ない。


 公然の場で、唯一この世界の人を殺した人物である。

 知られている中では、唯一の『人殺し』なのである。


 彼は去り際にこう言った。


『ここから先は完全な敵同士だ。徹底的に邪魔してやるぜ?』


 去り際のあいつの顔が。

 今も俺の心の片隅で邪魔をしている。


「俺は引き金を引いた」


 あの時大衆の目の前で行われた人殺し。これによってプレイヤーキラーは本当の人殺しとしてこの世界に生まれ変わったのだ。ロッソはプレイヤーキラー間の最後の壁を取っ払ったのだ。


「守りたい物があるのは良い事だが、全てを守るには手が幾らあっても足りないぞ」


 エヴァンが言う。


「この世界をもう一つの世界だと。生きていると本当に思っているなら、俺達が暮らす現実リアルでの戦争や紛争、身近な所なら犯罪だな。それはどうなる?」


 その通りだ。

 現実リアルでの俺は、戦争や紛争・犯罪それこそ人殺しがあったとしても、テレビのニュースでそれを知った所で何の感情も抱かないだろう。


 自分は力が在るから。とかそんな中途半端な気持ちで気安くこの世界を見ていたからこそ。救えるかもしれないとか範疇を超えた事を思っていたからこそ。


 まるで悲劇のヒロインを気取る奴の様に、俺もこの世界の主人公を気取っていた。全く持って烏滸がまし過ぎる。


「特別視し過ぎた。この世界も現実リアルも変わらん。俺達はそんな中で生活プレイしている。より、この世界の人との差が無くなっただけだ」

「全くその通りだな」


 エヴァンという男は、思ったよりも深い人物なのかもしれない。そう思わせる程、彼の言葉には現実味が籠っていた。


「ま、赤髪のロッソだっけ? 俺も耳にはしてるぞ。胸くそ悪いのには変わらんからいつか出会ったら殴っとくよ」

「ボコボコにしといてくれ。そして俺が生き返らせてからまたボコボコにするから」


 そう、あの一件から。

 俺達プレイヤーはまた一つ、この世界の人達に近づいた。


「アップデートが来たら俺達も殺されたらリスポーンしなくなるかもな!」

「ちょっとエヴァン! 不吉な事言わないでよ!」


 笑いながら言うエヴァンを、ルビーが顔を青くしながら否定する。まぁ一番リアルスキンモードの恐ろしさを知っているのは彼女だからな。


「多分特殊状況における強制キャラデリートは存在するぞ?」

「うお、マジか?」


 ベヒモスの腹の中に居た頃を思い出す。無数の腕がガリガリと身体とその内側にある存在を削り取って行った。


「俺は一回捕食ペナルティを喰らっているからな」

「何だそれは? まさか、食べられたのか?」

「冥王プルートと戦った時? ファンサイトで読んだわよ」


 ファンサイト、誰から情報を仕入れているんだ。あの時居たのはフルパーティにマリアとジンを加えた八人。俺を抜いて七人。


「倒す方法が一緒に食べられるしか無かったんだよ」

「そんで、ペナルティって?」

「能力全部半分になって、才能が消滅した」


 俺が、本当の意味で能無しになった時である。まぁ才能も特に大した事無くて、複利の様に精神修行すればする程MINDが上乗せされて増え続けて行くだけなので気にもとめていない。


「どーせ精神の塊になったしな。ってことでそんな物があるんだ。絶対に強制キャラデリートもあるに決まっている」

「なるほどな。この世界は常に危険と隣り合わせだってことだ! 燃えて来たぜ」

「ちょっと怖い事言わないでよ。一人でトイレ行けなくなっちゃったじゃない〜!」


 ルビーが下半身をもじもじとさせ始めた。だから言っただろ、迷宮に行く前に獲れは必ず済ませておけって。


 俺みたいに身体が特別製なら良いんだけどな。

 そう、精神体はトイレをも凌駕する便利機能を持っている。


「まぁ人間だから仕方ない」

「な、なんで貴方達は大丈夫なのよぉ」






「多分高効率で食物が吸収されてるから、残りカスが少ないんだと思うぞ」

「俺はもはや構造が違うらしいしな」


 あっさりと述べる。

 本当に彼女はついていない。



 鑑定で視る事が出来る使用が変更されています。そりゃいつまでも初期使用のまま便利能力を垂れ流しするなんて、運営はしませんからね。基本的に覚えた技術は忘れる事によって使えなくなります。

 そして思い出す事によって再び使える様になる可能性もありますが、前の様にそれが使えるかといったらブランクがあった分自分の技術も下がっている訳で、そんな事の無いのです。


 ルビースカーレットは、ノーマルプレイヤー時代馬鹿みたいに無属性魔法というよりもマジックボルトを使いまくった結果、どうしようもない能力が身に付いてしまったのである。笑

 一様レアスキルだが、人は呼吸や生活活動をするうちに魔素を魔力として取り込んでいる、それが魔素のままである故に、魔力に変換使用できないので、落ちこぼれクズの魔素女と化した。笑


 エヴァン・後藤は、リアルではフードファイターだったのかもしれない。リアルスキャンに都合良く食事から効率的に魔力を得る魔性胃袋を獲得した。そして竜魔法の習得によって、それを溜めておける器官へと変質。レアキャラ通り越して強キャラへと歩を進めている筈なのだが、実際は「あれ? 今日は身体の調子がいいな。ソロボス討伐よっしゃああ!」としか思っていなかったりする。


 不運な女と、幸運な男。


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