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結局の所、類は友を呼ぶ

 ひょっとして私は、活動報告の使い方を間違えているのか……?

 改めましてコメ乞食です。皆様もっと私を蔑んでくださいませ。



 月受け取り指定にするには、パーティを自分で集めなくては行けない。それこそ、誰かのパーティに入ってみろ、自分の自由はおろか、毎回固定メンバーで迷宮探索に強制連行されてしまう。


 鉱山で働かされる過酷労働者の様な立ち位置は、ご勘弁願いたい訳である。いやだから休暇中だって何度も言ってるだろ。


 だがしかし、現実は恐ろしい程に冷め切っていて、北の大地ヨロシク、極寒の吹雪の様に容赦なく俺達を襲う。ただの神父と魔法の使えない魔術師と一緒にパーティ組んで迷宮に潜ってくれるお人好しなんていなかったのだ。


 そしてだ。

 最終的に折れて、パーティ募集の方々に話しかけてみるも、回復魔法が使える俺はまだ需要があるのかもしれないが、完全なる市民プレイヤーであるルビー・スカーレットは、まるで腫れ物の様な扱いを受けあえなく全滅。


「何なのよ! 私はCランクの魔術師なのよ!」


 何にキレているのか全く判断がつかないよ。プリプリと怒り出すこの女はシカトして、俺は緊急対策を一人で練る事にした。


「おい、本当に魔術入門も持ってないのか?」

「ある訳無いでしょ? 私が今持ってるのはこれだけ」


 そう言いながら、テラス席のある喫茶店のテラスのひと席を不法占拠(勝手に座る行為)して、彼女はテーブルに持ち物を広げた。


 空間拡張されていない荷物袋には、僅かな下着類と銅貨が少し。お前はこの荷物量で本当に魔大陸まで来たって言うのか。ピンク色のシルクで出来た高級そうなパンティを摘んで持ち上げながら、俺はため息をついた。


「ちょっと見ないで! ってか乙女の下着を目にしておいて何その反応? ショックなんですけど」

「うるさい黙れ二十三歳」


 二十三歳にしては物の捉え方が幼過ぎるだろう。現在俺が持っているのは大銅貨七枚(銅貨70枚分、7000ダリル)、そして今彼女の荷物入れから跳び出して来た大銅貨一枚と銅貨七枚(合わせて1700ダリル)。女子高生のお小遣いだってもう少しあるぞ。


「一先ず魔術を覚えろよ、腰巾着。話はそれからだ」

「え? どうやって魔術覚えれるの?」


 俺は大枚叩いてメリンダさんに無属性の魔法を教わった。だがしかし、確り身に付いたなと自覚できるのは、魔力操作のみだろう。しかも間違った捉え方で覚えている訳だ。


 この世界で魔術を覚えるには、このように人に教わるか、自分で文献を調べて学んで行くしか無い。俺は魔術に置ける才能がとことん才能無し、聖書以外の本は何の実利も無い。


 だがコイツは元魔術師系ノーマルプレイヤー。必ずと言っていい程魔術の素質がある訳だ。


「ノーマルプレイヤー時代は、どんな魔術を多用してた?」


 かなり色々ある属性魔法である。火、水、風、土の四大元素と呼ばれる物から、光と闇の二極。そして上位属性とされる氷、雷などの派生魔法。希少魔法もあるぞ、影魔法や、最近ハザードが発見したと言われる霧魔法。


 それを人種が使いやすく改良を施されたのが魔術であり、技術な訳だが。まぁ色々とそれに対しても線引きがある訳で。


 ハザードはこう言っていた。

『扱う術が確立されているのが魔術で、魔法というのもは力その物だ』


 話がそれた。

 さぁ言え、言うのだ。


「マジックボルトよ!」


 ぷるんと胸を張りながら、そう高らかに叫んだ。

 何だその魔術、知らんぞ。


「それ、強いのか?」

「煩わしい詠唱を克服した無詠唱魔術で、尚且つ魔術の中でも瞬間最高展開速度を誇り、ありとあらゆる魔術の随を結集させたというのが、このマジックボルトなの!」


 す、素晴らしい。


「それで、属性は何だ?」

「無属性よ。この魔術に属性なんて余計な入らないわ……」


 フッ。と儚く視線を逸らすルビー。

 前の俺ならば、ここでコイツはすげぇぞ、逸材だぞ。とやいのやいの勝手な盛り上がりを見せて爆死して来た訳である。過去の経験から言って、物事を慎重に確認するのは大事だ。


 俺はメッセンジャーを取り出して、ハザードに通話をかける。


「え、何それ、ケータイなんてこの世界にあるの? 欲しい!」


 我が侭を言う子供の様に、テーブルに身を乗り出して訴えて来るこの女は放っておこう。我が侭なのはその胸だけにしとけ。メッセンジャーにハザードの顔が映る。薄暗い石造りの部屋に居る様だった。


『おう神父。いや、今では法王か。……なんだ?』

『(友よ、これは我のこれも聞こえるのか?)』

「バッチリ聞こえているよ。ちょっと聞きたいんだけど、マジックボルトってどんな魔術か判るか?」

『ああそれか……』


 つばを飲む。言葉を一瞬溜めたハザードは、自分の記憶を掘り起こす様に視線を若干右上に向けてから話し出した。


『確かノーマルプレイヤーは、チュートリアルで必ず覚えさせられる無属性魔術スキルだったと思う』

「は? 無詠唱で最高速度を誇る魔術の粋じゃないのか?」


 俺の問いに、何言ってるんだコイツという様な顔をして、ハザードは答える。


『どこで聞いたんだ。身体にある魔力の感覚を掴む為の基礎魔術だぞ。ノーマルプレイヤーはその魔法で魔力感覚を掴み、様々な属性魔術へと発展して行く。いや、最早魔術の中でもかなり魔法に近い魔術になっているな。あ、そうか。故に詠唱を必要とせず、余計な物を省いた結果、最高速度の展開率を誇るのか? そう考えるとなかなか興味深い……』


 魔術について語る時のハザードは妙に饒舌になるのである。画面の中で蘊蓄を語り出すハザードを、俺の後ろまで回り込んで来て、肩口に胸を押し付けながら興味深そうに眺めるルビー。


「誰よこの人?」

「友達のプレイヤーだよ。確か彼も魔大陸の迷宮都市へ着ていた筈だから、その内合えると思うぞ」


 ルビーの存在にハザードは気付いたようで、眉を歪ませながら言った。


『……神父。俺は怒られても擁護できないからな?』

「どういう意味だ」

『そのままの……ッ! すまんが切るぞ! 俺は迷宮都市に居る。何かあったら来い! 南魔大陸だ!』


 画面越しに見える。ハザードの後ろから装備を身に纏った骸骨が襲いかかって来ていた。それに剣と杖で応戦するハザードを映しながら、メッセンジャーの通信は途絶えたのである。死亡フラグの様な物を臭わせながら、ハザードとの通話は終了したのである。


「……迷宮ってなんだかヤバそうね」


 一部始終を見ていたルビーがそう呟いた。だが、俺は通話が終わってから冷静になって改めて理解した事に、否応の無い感情を抱いていた。


「お前それ初期魔術だろ!」

「え、そうよ?」


 あっけからんと事実を肯定するルビーがいる。

 この馬鹿女。事態は思ったより深刻である。


「チュートリアルで誰でも覚えれる雑魚魔術じゃないか」

「失礼ね。そんな事無いわよ。お姉ちゃんだって、貴方はこの魔術の才能があるからっていつも私の後ろで微笑んでくれたのよ。それを馬鹿にするつもり?」


 その話を聞いて、俺にはどうしてもその絵が想像できない。ひたすら頭を過るのは、初期魔法のみで魔物を狩る妹の姿を見てダークに笑うそのお姉さんの姿である。


「つかぬ事尋ねるけどさ、お姉さんはどんな魔術師なんだい?」

「炎専門よ」


 俺は頭を抱えてテーブルに突っ伏した。

 ホント、同情するよ。


 御愁傷様です。と彼女の肩を叩く。「え、いきなりなによ」と言う彼女を放っておいて、俺は席を立った。


 目指すべき場所は、港町の市場である。

 そこで掘り出し物の魔術本もしくは横流しされた魔術入門を手に入れなければならない。パーティを集めるよりも先に、この女をなんとか自立させなければこの先やって行けそうも無いと感じたから。


 喫茶店の店員が後を追って来て、何も注文しなかった代わりに、席料だけ払わせられた。残り、大銅貨五枚と銅貨七枚である。















 再び、ゴチャゴチャと人が行き交う港町の大通りへと繰り出して、その中でも露天商が敷物の上に各々の品物を並べる行商エリアへとやってきた。さながら、フリーマーケット状態。店舗が建ち並ぶメインストリートに比べて、幾分人通りも少なくなっている。


 そんな中、俺はとある露店で一先ずお目当ての物を発見したのである。その露店は、元は上質な灰色をしていたであろう汚れ塗れでほぼ焦げ茶色に染まったボロ切れを身に纏った小汚い男が座っていた。


「なぁこれ、本当に大銅貨一枚でいいのか?」

「んあ?」


 耳が遠いのであろうか。それとも寝ていたのであろうか。よくわからない奇声を発しながら顔を此方に向ける小汚い露天商。


「もういいや。この本をくれ」

「持ってけ持ってけ。この世界の人々は俺のお宝の価値に気付かない逝かれた奴らばっかりだまったく」


 薬でもやっているのかコイツ。もしくは、アルコール中毒者。


 ちなみにルビーは、鼻を摘みながら俺より数メートル後方で事態を見守っていた。綺麗好きは良い事だけど、その行動はもはや差別だぞ。お前は俺にとんでもない弱みを握られているのを既に忘れているようだな。


「ちょっとまったぁあああああ!!」


 大銅貨を露天商に手渡し、お目当てのボロボロの本を受け取ろうとしたその時。大声と共に俺は何者かの突進を背中に受けた。露天商を巻込んで、俺は彼のお宝というがらくたの中に盛大に突っ込む。


「……あ、すまん」


 事態を目の当たりにした男の謝罪が一応帰って来る物の。


「俺のお宝があああああ!!!!」


 がらくたに命を掛けているであろうこの露天商は、絶望したかの様に頭を抱えて絶叫していた。む、惨い。


「一体なんなんだ」


 そもそも、誰なんだ。

 俺は起き上がると、紺のズボンと白いワイシャツに赤茶色のチョッキを重ね着している人物を見据えた。


「俺はエヴァン・後藤。俺も訳あってその魔術入門が欲しい、譲ってくれないか?」

「丁重にお断りだ」


 別に名前を馬鹿にしている訳じゃない。だが、このエヴァン後藤とゴロの悪そうな名前を名乗った男から、そこはかとなくルビーと似た様な雰囲気を感じるのだ。そこをなんとか!と、暑苦しさを倍増させながら大声で頼み込んで来る男を一瞥する。


「そもそもだ、俺はもうお金を払ってるから。なぁ?」


 この本の所有権を主張しながら、俺は当然とばかりに露天商の方を向く。


「……あんたはいくら出すんだ?」


 こ、コイツ!

 マジか!


 衝撃的な手のひら返しに、俺は言葉さえ失っていた。


「俺の全財産! 銅貨三枚だ!」


 俺と露天商は、二人揃ってずっこけた。そして転んだ場所は露天商の自称お宝と呼ばれるがらくたの上。露天商は、レゴブロックの上にボディプレスをした痛み(たくさん尖った小物が並べられていたので)に悶絶するより先に、この世の終わりの様な絶叫を再び魔大陸の大空に向かってぶちまけるのであった。






「何故そんなボロ汚い本が、大銅貨一枚もするんだよおおおおおお!!!」







 悲報。馬鹿増える。

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