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現実逃避に余念は無い

 基本的にリアルスキン勢には、プレイヤーがつきます。

 商人→商人プレイヤー

 農家→農家プレイヤー

 漁師→漁師プレイヤー


 ですが、基本的って言うだけであって、回り全てが使っている訳ではありません。ので言葉の中には出て来る事は少ないです。



 頭の痛い悩みなんぞ、ロキ○ニン(処方箋・痛み止め)でどうにか誤摩化してやって行くしか無い。小学生の頃は「痛くないもんね〜!」で済んでいた身体の不調も、中学生くらいになれば「部活の顧問が怖いから我慢しなきゃ」くらいになっていて、高校生くらいなると「あ、やばい保健室だわ。これは痛い奴だわ」と保健室へ休講し熱が無い事が発覚すると良く追い出された物である。大学生にでもなれば「あ、自主休講だわ。これは自主休講」と言う風になって居たに違いない。


 大学、通った事無いんですけどね。すっ飛ばして社会人へと駆け上がり、今年度でようやく二十三歳。早生まれだからな。


 既に社会に出ている訳で、責任がのしかかる。そして、体調不良を起こした時なんて目も当てられない。会社からは這ってでも来いと罵られ、病院に行く機会も無く、それこそ頭痛薬や痛み止めすら無い状況で、無理矢理誤摩化し用の無い状況を誤摩化しながらこなして行くしか無くなってしまうのである。


 え? 言いたい事がよくわからないだって?

 てやんでぃ!


 ゲームの世界でまで、責任を背負わされて堪るかって事だよ。俺は誤摩化しどころか、大きな問題はどこ吹く風の如く、それぞれの枢機卿に任せ切ってしまって、今まで拘束されて出来なかった事を行おうとリアルスキン旅商人パーティの行商隊の荷馬車に混ざって移動していた。


「お兄さん、確かローロイズまでだったね?」


 行商人プレイヤーが馬車の御者席から張り幕を開けて尋ねてくる。一応中に空気が籠らない様に後ろの部分を開けてもらっていたのだが、少々熱気がこもって辛かった所もある。空気の通り道がきちんと作られた事によって、それが一気に流れ、新鮮な空気に置き換わる。


 行商人プレイヤーさんよ、貴方は神か。もしくはそれに準じた人物か?


「何言ってるんだよ。あーやっぱり中は熱で籠るかい? 良かったら隣に座るかい? 少し楽になると思うよ」


 いつの間にか声に出ていたようで、呆れられる。だが、慈悲を貰えた。俺は二つ返事で御者席へと移動した。


「今の時代は竜車がメインだと思うんだが?」


 馬車の御者席にて行商隊の一列や、回りの風景を見回しながら呟く。それは隣の人にバッチリ聞こえていたようだ。


「ははは、アレは大手商会の高速流通用の物だからね。新規参入は無理だよ。俺は最近リアルスキンモードに切り替えたばっかりだし、せっかくノーマルプレイモードに培った技術も財産も、なかなか上手くは使えないものさ」


 この人はノーマルプレイで財産を溜めて、旅商人警護系のクエストをしながらノウハウを学び、リアルスキンモードに移行。そして新たな人生を歩み始めたハイブリッド勢だ。


「新聞読むかい?」

「売り物じゃないのか?」


 荷台からガサゴソ、商業新聞の様な物を取り出すと俺に手渡して来る。


「俺も読んでるしね、構わないよ」

「頂こう」


 青空の仕立て、馬車に揺られて新聞を読む。この商人プレイヤーは細かい流通を手掛け、上手く生き残っている様だった。大きな街から商品を仕入れ、その土地に点在する村々への小規模流通。


 それなら馬車で事足りるし、大きな商会からの援助もそこそこ受けられるだろう。実に上手いな。いや、ノーマルプレイから着実に自分のすべき事を考えた策略家だと言えよう。そう考えながら俺は新聞の文章に目を移した。


「何々? バースデー商会、アラド商会と業務提携。極東への流通経路を持つバースデー商会と提携した事で、東西の垣根が取り払われつつある……」

「ほぉ〜。東西がねぇ〜。でも俺には関係無い事だな」

「間違いない。でも誇りを持っていいと思うわ」

「ありがとさん。俺も上手い事やって行けそうだぜ」


 粛々と馬車は進む。平和な日だな。旅日和だ。馬車の車輪がガラガラなる音との中に、上空から飛竜の鳴き声が混ざり出した。そろそろローロイズへ着く頃だな。















 旅商人プレイヤーにお金を払う。そして物流都市へと発展を遂げたローロイズの中央街道を歩き始めた。様々な店が立ち並ぶ、それこそ以前来た時よりも更に店の数が増えてギュウギュウ感が増したと錯覚しうる程に。


 俺は着の身着のまま船着き場を目指す。今回俺が目指している物はそこから更に海を渡った先にある、魔大陸なのである。


 兼ねてからゴーギャン・ストロンドに一度来いよと言われていた魔大陸。結局向かうと見せかけて、相手が此方にやって来る事が多かったので、行けずじまいだった。次から次に問題が転がって来るからな。


 一つ一つ抱えてちゃ、身が持たないよ。と、言う訳で、いつも俺の傍に居てお目付役と化したあのロールプレイ三人衆(エリー、凪、セバス)がテスト勉強でお休みしているリアル時間一週間(この世界ではそこそこ長い)を利用して、全ての責任を第五都市の枢機卿へと放り投げて跳び出して来たのである。


 もちろん、セバスのみ。

 旅に出るとは伝えてある。


 さてさて、ハザードも既に先行して魔大陸の迷宮都市に向かっているようだし、色々人に会う為に魔大陸へ向かう。そんな感じなのだ。やまんもどうしているかね。相変わらず魔大陸の何処かで正義を貫いているのかな。


 北魔大陸直通の貨物船へと乗り込んだ。一般客として乗り込んだのだが、途中船内放送で呼び出しを喰らってしまう。ローロイズから西の海域を掌握する、釣王に。


「座って、いいから、はやく」


 今まで寝転がっていた8人一組の二段ベッドが四つ並んだタコ部屋から、一転してこの豪華な船長室へ。空間がゲシュタルト崩壊しそうだ。


 テーブルの上に並べられたのは、豪華な食事である。

 接待プレイは正直好みじゃないんだけど。


 旅根性が染み付いている俺は、何の裏があるかも判らないのに、釣王の言葉に頷くと食べ物に齧り付き始めた。美味い物は食べてしかるべき。


「なんで判ったんだ?」


 当然の様に疑問を打つける。


「客名簿。たまたま本船内での業務が堪ってたから。それをこなしてたら偶然見つけたのよ」


 運が悪かったようだ。こんな事なら、もっとボロい小規模な船にしておけば良かった。下手に人に紛れようと一番大きな船に乗らなければ良かった。後悔してももう遅い。


「別に呼び出す必要は無いと思うが……」

「いいのよ。私は貴方とお話がしたかったの」

「……西海域における養殖基盤か?」

「………………もうそれでいいわ」


 俺の切り返しに、釣王は少しの間をおいてから肯定する。

 おい、なんだその間は。無理矢理肯定しただろ。


「まぁ、海流の影響もあってあんまり養殖向きじゃないだろうな〜」

「でもスピードチューナだったら行けるって結果が出てるじゃない」

「いや、君の所の寿司屋、マグロだけじゃん安定して供給できる魚って」

「回転寿司屋はまだまだ遠い未来の話なのかしら……」


 あえて言っておこう。

 特に回転寿司屋である必要は無いのだ。


 握って出せる店があれば良いじゃんか。

 魚も時価で。


 まぁ大体釣王とかち合うと、こんな話になる訳で。エリーが沖縄デートだと捲し立てて来たあの一件も、本当にこういう話をしながら沖縄の綺麗な海辺を歩いただけなのである。


 ムードもロマンスもへったくれもあるか!


 俺が求めるのは、ロマンティックかつ情熱的で燃え上がる感じ。そう、まさにこの豪華客船(とは言い切れないどでかいゴツゴツとした貨物船-客室付き-)の甲板で、今日知り合ったばかりの人と将来を語らいだな。


 エンダアアアアアするのだ。


 そうと決まれば、この船内にも酒場があった筈だ。こういう海の荒くれ者しか居ない様な船ってさ、たまに宝くじで4賞を当てた様な、福引きで3等を引いた様な女が居るよね。


 楽しみが増えた。

 そう、俺は禁酒を止めたのだ。

 俺が法王となってからは俺がルールである。


 結局の所まんまとエリックの手腕にやり込められた感が満載なのだが、そこは後の祭り。権限を増した俺は、暴君と化す。


 その度にマリアやエリー、その他大勢から制裁を喰らうのは、また別のお話なのであるが、ポンッと振って湧いた休暇は自由に使わなくちゃね。厳密に言えばポンッと色々な物を放り投げて居るのだが、気にしない。


「はぁ〜美味しかったよ。面白い話も出来たしな。俺は酒場に向かうから、じゃ」

「あ、お酒ならここにも高級ワインが…ッ」


 何やら引き止める声も聞こえた気がしたが、無視して酒場へと洒落込む。俺が求めてるのは高級なお酒ではなく、酒場の雰囲気なんだよ。あの混沌とした空気感。ワイワイと皆友達という感覚。


 ルンルン気分でスキップする俺を見た人は一体何を思うのだろうか。

 僅かな美女への期待を胸に、俺は酒場の入り口を潜った。









 新たな門出である。

 いち、神父として身を清く守っていたクボヤマは、一周回ってこんな風になる。

 自分の中で何かを受け入れ、何かを線引きした結果でもある。




※5話更新でした!! お疲れ様デーっす!! 今夜多分また更新します。夜中3時頃。

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