女神聖祭 Battle of Crusaders -終-
リアル回。
今まで隠し通して来たつもりのリアル話がメインになっています。
女神聖祭は滞り無く終了した。
俺は法王就任を独断で放棄して、女神聖祭が終了してから即ログアウトした。
色々あった。個人的にかなり長いゲームプレイ時間だったと思う。
アレから数日間、俺はまだ一度もログインしていない。
ログインする気が起きないのだ。
ゲームの世界では英雄と呼ばれていても、現実世界じゃただのサラリーマン。だ、なんて良くある事だと思うのだが。
ゲームの世界でも俺は自分自身を英雄視出来る自信が無い。
本当に助けたかった人。
そして助けれる距離だった人が、全然救えてないじゃないか。
異世界感覚て感情移入してしまったばっかりに、失意のどん底である。
エリーの首が飛ぶ瞬間を見てしまった頃よりも激しく後悔していた。
でも、運営のホームページはたまに見るんだよな。
ゲームに、あの世界に未練はやっぱりあるようで、まだまだ試し尽くしてない事だって、見た事無い世界だって、沢山ある。
だが、VRギアをセットして起動する事が未だ出来ないでいた。
本日も、仕事前に公式HPだけはチェックするのである。
邪神アップデートだなんて巷では呼ばれている。
んだよ。確定路線だったのか?
マジで、俺は運営にも踊らされていたのか?
プレイヤーは基本的に運営に踊らされるもんなのだが、擦れてしまった俺の心はひねくれた事しか言わない屁理屈発言機と化してしまったのである。
自宅書斎にて、本日仕事で使う資料の確認を行う。
今日は午後のみ。母校である龍峰学園で講師を行う事になっている。
出ないやる気を無理矢理切り替えながら、一周回ってまたグダってしまう精神に喝を入れながら、バスに乗って龍峰学園を目指す。
乗車して十数分。意外と近い場所に入り口はあるのだが、ここから更に学園内モノレールへと乗り込んで、A地区A校舎を目指す訳である。
皆は授業中なのだろうか。来賓だったり、通り抜けで利用している人しか居ないスカスカのモノレールの中で座りながら、今日の晩飯の事を考えていた。
ぐぅぅぅぅ。
(あ、昼飯すら食べるの忘れてた)
やる気が出ていた頃が懐かしい。そんなに前の話でもないんだけれど、ゲームの世界に居ると、遠い前の話の様に感じる。蓄積される時間の幅が違うからかな。
A地区へ入った所で、モノレールを降りる。
(確か区内地図では、A地区にも軽食を食べるスペースがあったと思うんだが、どこだっけな?)
キョロキョロと辺りを見渡せど、生徒数2万強を誇る龍峰学園でも、授業中と重なれば人はあまりおらず。寂しい風景が出来上がっていた。
たまたま急ぐ様に道を歩いていた金髪の女の子に声を掛ける。急いでる所悪いが、俺も腹が空いていて堪らんのだよ。
「すまん。この地区に軽食が食べられるスペースって無かっただろうか?」
「し、」
「……ん?」
「いえ、ナンデモありまセン」
片言の日本語を喋りながら、俺の知ってる人にどことなく似ているブロンド美女は微笑んだ。そして俺に残酷な現実を告げる。
「この地区は完全学区ですカラ、遊具施設すらアリマセンよ?」
「ええ〜! マジか。そうなのか……」
気を落とす俺に、ブロンド美女はこう告げる。
「貴方、卒業生じゃないんデスカ?」
「なんでしってるんだ?」
「あ、いや、なんでもアリマセン!」
若干喰い気味に話を遮られてしまう。それにしても、目、鼻、雰囲気。俺の良く知ってる人物に凄く似ているな。
ゲームの世界でよく引っ付いて来たエリーの事を思い出す。懐かしい。彼女も龍峰学園だって言ってたっけ。
「何か、顔に付いていマスカ?」
「ああごめん。俺の良く知ってる人に凄く似てたからさ」
と言っても、2万強を誇るのこ学園内で、探し人を見つける事は非常に困難だろう。他人のそら似さえもコンテストとして学園祭で一大コンテンツになってしまう場所だ。
ドッペルゲンガーだって探せば一人や二人見つかる筈なんだ。
「所で、お時間は大丈夫なんでスカ?」
彼女にそう言われて我に返る。
そう言えばそうだ。
「す、すまん! 呼び止めた俺が悪いんだが、ちょっと急ぎの用事があったんだった! じゃ!」
俺は駆け足でその場を後にした。
講義室まで向かう途中、俺は何度か道に迷い、十分程遅刻してしまった。しかも、そのまま腹が減った状態でな。
マイクで俺の腹の虫が何度叫んだと思ってる。
何度気まずい雰囲気になったと思ってる。
そして、あのブロンド。
お前も講義受けてるんだったら一緒に連れて行ってくれよ。
ここ最近、やる事成す事全てが上手く行かない。
そう言う時もある物だが、少し受け入れがたいよな。
肩を落として帰路につく俺を呼び止める声がする。
「クボヤマ先生」
「ん? 俺は講師として招かれてるが、先生じゃないぞ」
そう言い返しながら振り返ると。
ブロンド美女がそこに居た。
「浮かない顔デスネ?」
相変わらず覚束ない日本語が、少し笑いを誘う。
思い出し笑いだな。俺の知ってる女の子は、日常会話はいつまで経っても覚束ないのだけど、ヲタク知識というか。自分の興味ある事に関しては誰よりも勉強熱心で、アニソンとかゲーム主題歌だったりすれば凄く流暢な日本語でこなせるのだよ。
「今度は逆に笑ってイマス?」
「ああ、君にそっくりな子を知っていてね。まぁ、ゲームの世界の話なんだけど、思い出し笑いしてしまったよ。すまん」
そこで、俺の腹の虫が限界を訴えるかの如く激しく鳴り響いた。
「…………」
「フードコートでも行きまショウカ?」
「ああ、そうしよう」
彼女に手を引かれるまま。モノレールへと再び乗車し、C地区にあるフードコートと呼ばれる系飲食店が立ち並ぶ学区へとやってきた。
因にA-B-C-D~と地区と学区は段階毎に別れていて。それぞれ教えているレベルの幅も違っていたりする。もちろん、Aが一番頭がいい。
まぁ生徒の学校の楽しみ方は人それぞれで、不良の吹き溜まりの様な学区もあれば、優等生が立ち並ぶ学区だってある。
A地区A学区を歩いていた彼女は、かなり勉強ができるタイプの人間なのかもしれない。見習わなければ。
「あ、お金。ロッカーに忘れて来てしまいマシタ」
「いや、案内してくれたお礼に、俺が出して上げよう。こう見えてそこそこ持ってるんだからな?」
年長者は年下に対して威厳を保たなければならないという日本独特の考え方で、俺は彼女に軽食をプレゼントしてあげる。財布に幾ら入ってたか覚えてないけど。
C学区のフードコードだぞ。学生の範囲内だ。安いもんだ。
「ヤッタ! ならおすすめのお店がアリマス!」
そう言われてやって来たのは、コースで一人1万3千円するお店だった。
「なんでこんなのが高校にあんだよ……」
「最近は高級思考を持つリッチ生徒目線のお店が増えてるらしいんデスヨ。生徒会でも良くこのお店を使って会議している程デス」
解説どうもありがとう。
どうせアレだろ。会議のお金は学園の予算だろ。
項垂れる俺の顔を覗き込んで、ブロンド美女が悲しそうな目で呟く。
「お、お口に合いまセンカ……?」
「そんなことないない。高いから上手い筈だ。是非行こう。俺の驕りだ」
口車に乗せられてしまっているのだろうか。
完全に美人局に引っ掛かるタイプの人間だと思われてないだろうか。
だが、これでこの子の笑顔が取り戻せるなら。
「……安いもんだ」
「その、ゲームで知り合ったワタシと良く似ている女の子について知りたいデス」
彼女と何を話したかと言えば、それはそれはたわいも無い話だった。
ふ〜ん。高校生に振る舞う料理でこの質なら意外と実利を兼ね備えてるかも。なんて言う料理を真面目に分析してみるくらいの適度な間で話しつつって感じ。
あら、意外と一緒に居て違和感を感じないな。この子。
「ん〜。ゲームの中じゃ大分会ってないからな。俺が今インしなくなっちゃってるから」
「どうしてデスカ?」
これを話して、伝わるのだろうか。という風に言葉がのど元で詰まってしまうのだが、まぁ知らない人だし、今日だけの付き合いだし別に良いだろうとのど元からゴーサインが出た瞬間。
俺の溜まりに溜まってしまっていたゲームへの感情が爆発する様に流れ出て来て、止めるのに一苦労するのである。
「……そう言う事だったんデスカ……」
「ははは。まぁ苦痛を感じて逃げちゃったんだけど。いまいちモチベーションが上がらなくって。でもゲームをプレイしたいフラストレーションが溜まりに溜まってね? 悪循環さ!」
少し重たい話になってしまったみたいなので、空気を一変させるべくおちゃらけてみる。だがしかし、彼女は真剣に悩んでいる。
え、そこ悩むとこ?
だってゲームの話だよ!?
「例えゲームでも、それだけ感情移入してるんデス。真剣デス!」
「そんなもんか? いや、まぁ、そうだよな……」
ゲームの世界を全力で楽しむ為に俺は何をした。結構色々な事をして真剣に楽しもうとしてたな。ゲーム内の事はゲーム内での連絡手段で済ませてたし、旅をする際は一度装備をリセットして最初から挑んだりだ。
やっぱり、思い入れが強いよなぁ。
未だゲームキャラじゃなく、向こうの世界の人を確り人として見てしまう自分が居るんだ。
でもそう考えると。
ジュード、彼の事が。
「ワタシが思うに、ゲームの世界で個人を作り過ぎてたんじゃないデスカ? 大体、敬語の時点で無理してる感がプンプンしマス! 更にはMMOなのにプレイヤーとの関わりが無いじゃないデスカ! そのワタシによく似た子? もっと大切にして上げるべきデス。あとロールプレイは無理矢理する物じゃないのデス!」
わーお。ろ、ロールプレイ? でるよでるよ。
ここまで真剣に考えてくれるのは嬉しいのだが、着実に彼女は毒されている。
そんな気がしてならないのよ。
最後に、彼女は俺の手を握りしめながら透き通った瞳でこう言った。
「ギルドの皆様も、その世界で関わりを持った方も、何より貴方のパーティの方々もそして、傍にいようとしてくれた、いや、傍に居てくれたその女の子も。皆、貴方の事を待ってイマス。きっとデス」
そんな風に優しく言われてしまったら。
泣いてしまうじゃないか。
「ええいやぁ、この涙は不可抗力で」
「良いんデス。支えてくれる人は、沢山居ますカラネ……師匠」
は?
涙が一瞬で引いた。
「お前、エリーだろ」
その一言を聞いた彼女は、テヘペロっと下を出して巫山戯た様に言う。
「バレちゃっタ☆」
何が透き通った瞳だ。前言撤回だ。
コイツの瞳は現代社会の汚れに大分浸食されてやがるぞ!
「おいもう付いて来るなって。俺んちまで来たら俺が掴まるだろ」
「いーやーデース!」
得てして顔見知りにとんでもない自分の恥部を曝け出して、そして泣いてしまった俺はこの日を黒歴史にして封印しようと心に誓った。
だが、その心の中は澄み切っていた。
懐かしいエリーとの絡みも、まさかゲーム外へと波及する勢いにまで至とは思わなかった。
でもなんだかんだ嬉しいのは内緒。
照れ隠しだふざけんな馬鹿野郎。
「ほらもうここ俺んちだから。もう玄関だから帰れよ!」
「お、大きいデス」
「そう言うの止めて!! ご近所さんに誤解されちゃうでしょ!!」
「デモデモ! 釣王とは沖縄デートしたんでショウ!?」
「アレはデートじゃねーよ! 俺は仕事で行ったからたまたまオフ会しただけだ!」
「デートジャン!!!」
「ノオオオオオオオオオオ!!!」
こういうのは最早じゃれ合いの一部である。
要するに、慣れだ。慣れ。
埒が明かないので、俺はエリーを夜が危険を誘き寄せるとどうたら。と適当に言いくるめてわざわざ来た道を戻って送って行く事にした。
エリーもなんだかんだ満足そうで、良かったよ。
やたらを大きなエリー邸の玄関(ただし、ドアまでは100mくらい距離がありそう)にてお別れの挨拶をする。
お別れの挨拶って想像してみ?
大抵がキスだろ?
俺等の場合はこうだ。
「じゃ、帰ったらすぐログインしてくだサイネ!」
「あーったあーった」
「本当!?」
「本当だよ!!!」
ムードもロマンスの欠片もねぇ。
だが、このくらいの距離が丁度良い。
今日はいい日だ。
不調気味だったけど、最終的に有終の美を飾れたと自己評価する。
帰宅して。キーケースに着けていた合鍵が一つ、こつ然と消えた事に対して猛烈な恐怖を感じながらも、俺はVRギアを頭に装着した。
「飯も食べた。明日の準備も終わらせた。何より、このVRギアの為に購入した椅子。入念に手入れもしたからバッチリだな。何より仮眠も取ってたし」
仮眠によってログイン時間が2時間遅れたのは内緒。
まぁ、別に良いだろう。学生もまだログインできる時間範囲内だし。
俺はVRギアのスイッチを入れる。
ブゥン。一昔前のブラウン管テレビを付けた時の様な音が響く。
『ようこそ、RIOの世界へ』
『 』
『 』
『 』
『 』
…………。
『遅い!!! 貴方はまたそうヤッテ!!!』
『クボさんお帰り〜! 長い休暇だったね。魔法学校の書庫制覇しちゃったよ』
『お帰りなさいませ。本日お帰りになられるお聞きしたので、色々と準備をして来ました。もちろんフードコートの食事より豪華ですよ』
『やっと戻って来たか……』
『迷宮行かないか? 迷宮』
『食堂の新メニューとか試食してみないか?』
『ケンちゃんと私とエリーさんで考えたのぉ〜』
『アンタねぇ…教会の仕事ほっぽり出してどこ言ってたのよ。お陰で禁酒してまで仕事付けよ!?』
『おかえりなさい。クボヤマ』
『あ〜神父さまだぁ! また兎のシチューつくってよ!』
『よっクボ! 第五都市も細かい部分まで全部終わってっからよ、今度立ち寄ってくれや』
『寿司屋、オープンした』
エリー邸前。
クボ「お、大きいです」
エリー「アーッ!」
クボ「止めろ。振った俺も悪いけどさ」
次から第三章です!
やるせなくなってプチ引退。ネトゲでは良くある事ですよね。
久々にインしてみたら、意外と友録消してない方が多くって、色んな方からお帰りって言われる事が凄く嬉しかった記憶があります。
クボヤマの失意を長々と描いてもしょうがありませんし。更なる渦中へと引きずり込む予定です。
そしてやっとMMOっぽくやって行きますよ。今までゲームの世界の人との繋がりを含めて描いてみたんですが、第三章からは邪神アップデートと呼ばれる物に挑戦するクボヤマを含めて様々なリアルスキンプレイヤー達を描いて行きたいです。
第二章。終
新作投稿しました!
「奈落に落ちた俺が超能力で無双する」
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ぜひ一度ご一読を!
この一年ずっと更新しています。
グローイング・スキル・オンライン
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