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女神聖祭 Battle of Crusaders -8-

前話のセリフを修正しました。

「事が起こってしまったので、仕方ありませんが。私の疑惑はそこから生まれ始めていました。いいえ、クボヤマさん。責めている訳ではございませんよ?」



「事が起こってしまったので、仕方ありませんが。私の疑惑はそこから生まれ始めていました。いいえ、クボヤマさん。貴方だけを責めている訳ではございませんよ?」








 エリック神父は俺が思ったよりを極めて特殊な人物である様な気がしてならない。それもその筈だ。出会った当初はただのお助けキャラだった記憶もあるんだが、いつの間にかゲームのストーリーを進めて行く上での根本的なキャラクターとなっている気がした。


 法王ルート。

 これだけは回避しなければならない。


 彼の法王の行動を見て行くと、第一・第七の枢機卿の行動が極めてまともに見えて来るだろう。極めて独善的だ。だが、その独善がこの平和を作り出しているのもまた事実だった訳だ。


 こういう人が生まれて来るのは天文学的数字による確率じゃないのだろうか。法王の法王たる由縁も、そこから判ってしまうのだ。




 話がそれた。奇跡の子と呼ばれるジュード=アラフと恐らく邪神勢であるとされているアクシールの戦いが今、始まった。今回は控え室モニターではなく、特設席からの生観戦。隣にはエリック神父。その隣には第七枢機卿が座って戦いの行く末を見据えていた。


「容易く私を凌駕するレベルまで、魔王サタンは強くなっていました。一番厄介な私が守る邪神の欠片を手に入れて、意気揚々と帰って行きましたが、私の性格から考えて、そんな事をさせると思いますか?」

「絶対に、絶対に無いですね。それこそ、その欠片は偽物で、尚且つベロベロに酔っぱらったマリアの嘔吐物でも袋詰して偽装し数日熟成させた物をお見舞いしそうですよ」


 魔王は本当に来るのか。と、言う質問に対して帰って来た答えである。質問に質問で返すな馬鹿者が。嫌みを込めて数段破壊力を付加させた返しを答えて上げる。


「流石に私もそこまでエグくは……」

「特務司書が可哀想だ」


 マリアのゲロ。この二人も容易に想像できるスペシャル精神攻撃呪文だ。第七枢機卿はこのイメージを払拭すべく、しかめっ面をして頭を振りながら一応ではあるが、特務司書マリアのフォローを付け加えた。


「私がね、北への旅路でどれだけ彼女のゲロ掃除をしたと思ってるんですか」

「それは誰もが通る道です」

「その通り。人として、酒は嗜む。だが何事も限度が大事だと言う事を、彼女は我々に指し示してくれた」


 それは、あの狡猾でかつカリスマ性を持ち、左席まで上り詰めた第一都市の枢機卿までも心に刻んでおく程だったという。レジェンドオブマリア。皆の聖母だね。それを判らなかったサルマンは、今回の様な結果になってしまったと言う事か。


 さて、上手いオチもついた所で、話の続きである。


「欠片は二つに分割し、片方を第一都市の枢機卿に預けてあります」


 邪神の欠片と言う物は、言わば教団の中の膿である。これを背負いきれる者は限られて来る。


「ヴァックスは真面目過ぎます。彼の心の片隅にそれがあると、必ず排除しようとして痛手を負うのが目に見えてましたから、彼が手を出せない私と第一枢機卿。彼に預けたのです。ミカエルも付いていましたからね」


 何より、膿をヴァックスに持たせるなんて私には出来ません。と付け加えたエリック神父。法王よりも人々の近くに居る枢機卿の中でもシンボルとされている第七枢機卿を汚してしまう事を躊躇した様だった。


 あえて汚れた部分を背負っても上手くやって行けるだろうと、第一枢機卿に渡したのだろう。牽制の意味も含めてな。迂闊に邪神の欠片を利用しようとすると、サルマンの二の舞。いや、それよりも悲惨な事になっていたかもしれない。


「って事は、自ずと残りの欠片に気付いた魔王は再び聖王国へやって来る。そう言う事ですか?」

「その通りです」


 今すぐって訳じゃないんだな。

 随分と間があいた様に思える。


「魔王は私が持っていると思ってましたから。他の可能性を考えて各地を探すと思います。だが、見つかる筈もありません。ここにありますからね」

「そうか、魔王は面倒事を回避する」


「その通り」


 一度攻めた場所をもう一度攻めるなんて面倒な事をアイツはやらない。ここにしかないという確証があってからでしか動かないだろうな。そこで、様々な人が集まる女神聖祭を開く事で、手下を送り込める隙をわざと作る。


「無事、釣れましたよ」


 ニヤニヤとほくそ笑むエリック神父。普段からは全く想像できない程の腹黒さに寒気がした。負けず嫌いもここまで来ると何処か別次元の存在に感じる。


 負けたら負けた分だけ自分を強化して新たに戦いを挑むユウジン、ハザード、DUOとはまた違った方向で動く彼を見ていて、絶対に敵に回しては行けないタイプの人間だなと思った。


 第一枢機卿もそれを理解して居るのかもしれない。それを考慮して動いているのだとしたら実に天晴である。逆に敵対勢力として振る舞わさせられているのかも……。







 試合が始まってすぐ、ジュードは目を開眼させた。最初から本気な証拠だと言う事だった。何かを察知して横跳びに回避しようとするアクシールだったが、十字架の形に輝く瞳は、アクシールを掴んで話さない。


「彼女は、神を欺けるのか? ———それは、否」


 その途端、アクシールの体面からパリッと覆っていた何かが割れて剥がれる様な感覚。そしてその後に、巨大な魔力が浮き彫りになり、それに比例する様長くも地味な黒髪が、鮮やかな水色に輝き出した。


「あらま……気付かれちゃった? それとも……もうとっくに気付いてたのかしら?」


 そう呟きながら、チラリと視線をこちらに向けるアクシール。そして、彼女の変化に騒然とする観客。ある程度戦いを経験し実力を持った高レベルの者は、臨戦態勢を取る。彼女魔力に当てられ意識を失った人も居るだろうか。


 だが、会場は魔力を感じ取れない人も多い。何かの催し物だと思った観客が大多数を占めているようで、歓声が大いに沸いている。


『トランスフォームだ! 美女だ!』

『俺は黒髪も好きだが、今の色もぶっちゃけ好みだ!』

『うおおおおお! りびどおおおお!!!』

『ああああ!! ああああ!!!』


 頭が痛い。それもこれも実況が『ああああ! ジュードの不思議な攻撃を受けて、髪が水色に!? これはどういう事だ!? 感じ立つ強大な魔力、これが彼女の真の姿なのか!? まさか、手加減して本戦までやってきたのか!?』とか観客を煽る実況をするからだ。


 だが、まぁ丁度良いだろう。ここから多分魔王降臨イベントが起こる。下手に恐慌状態に落ち入るよりも、見せ物としてやっておいた方が良いだろう。インパクトも大きいし、何よりもイベントとして楽しんで頂ければ幸いなのである。


 ってことで、早速セバスに事の顛末を報告し、そのまま実況にもこれからの流れを伝える様に言っておく。


『了解しました、手配しておきましょう。あと、第一枢機卿ですか。面白いですね。そっちの方も準備しておきましょうか。本当、貴方様は騒動を引き寄せるのが上手ですね』


 な、なんだ? 嫌みか? それは嫌みか?

 セバスにそんな事を言われると傷つくんだけど。


 一度呼び出されて再びステージ状に戻って来た実況は、顔色が少し悪そうに見えた。だが、戦う者の一挙一動に合わせて観客を煽って行くその姿には、プロ根性を感じた。


 観客の警護には自ずとウチのギルドが配備されるんだろうな。混乱時の避難誘導等含めて。そうすると、自ずと魔王完全包囲体勢が作られて行くのが判る。


 法王め、これを見越して……!?


「邪神の手勢。先に言っておこう———欠片は私が所持している」

「あら。手間が省けて助かるわよッ」


 ジュードの言葉に目の色を変えて腕を振るうアクシール。腕の動きと一緒に、幾つかの魔法陣が浮かび上がり、そこから水がかなりの勢いで放水される。


 ガリガリとせっかく復元されたステージのパネルを削りながら、迫る水魔法を前にしてジュードは至って変わらなかった。


「人々の祈りは、神へと届くのか? ———それは、是」


 全ての水は、ジュードに届かない。


「私の祈りは届いたようだ」


 アクシールは舌打ちする。そう、奇跡の子ジュードの能力は、神との対話である。大天使ミカエルを介して様々な奇跡を発現させる物らしい。


 一件最強じゃないかと思ったが、やはりこう言った力には制限がある様で、限定された空間における、自分の在り方を望む者の意思を統括する事によってその在り方が決定される。


 例えを上げると、死にかけの人が居る。天使を介した対話によって、その人を救いたいと言う物が多かった場合、彼は息を吹き返し。そうでない場合は、祈りは届かないとう。


 何でも出来るとも言えるが、そこに彼の意思決定は存在しない。まさに枢機卿その物を体現しているのかもしれない。基本的な意思決定は全て上の者なのだ。


 これを踏まえれば、彼に勝ってほしいと言う者が大多数居る限り、彼は負けないのだろう。そしてその信者を扱う事に長けている神父であるからこそ、成り立つ能力なのだろう。


 相応の落とし穴もあるのだがな。


 その能力を知るエリック神父や、俺には絶対勝てない。そして第七都市の枢機卿にもだろう。知名度が、信用度が大きく違って来る。


 まぁこの時点では強キャラだろう。ぽっと出のアクシールなんかに知名度も何も無い。変身した時点で、ある種熱狂的なファンが出来たとする。


 だが、出来たとしても一介の神父と比べちゃ行けねーぜよ。もしかしたら、魔王サタンにだって一人で勝ててしまうレベルの能力でもあるんだ。対人類の敵用最終兵器だ。


「ディープトレンチ。球体の中心は海溝並みの水圧よ。魔王様の外敵は溺れ死んでしまいなさい」


 攻撃が当たらないと理解したアクシールは、戦い方を変えた。腕を振るうと大きな魔法陣がジュードの足下に出現し、大量の水が溢れ出て取り囲み、球体を作る。中が見えるのかと思われればそうじゃない。


 海溝に言った時の頃を思い出す。光が届かないどこまでも深い水の底。ジュードの姿もそれに包まれた。


「貴方達の切り札はこれでオシマイ。さ、次の方いらっしゃいな。構ってあげるから」


 此方を見ながらニヤリと妖艶な笑みを浮かべるアクシール。一部の自分たちに向けられた顔だと勘違いした変態共が熱狂の歓声を上げる。今にもステージに飛び出してしまいそうな勢いだった。


 だが、俺達は動じない。

 未だ球体の中から彼の存在を感じたからだ。


「さぁ!」


 アクシールも目立ちたがりやなのだろうか。確証は無いが、邪将クラスである事は変わりないだろう。それもベラルークよりも格上。どうしてハイレベルな奴らは変態が多いのだろうか。


 彼女が勢いづいて声を上げた瞬間。

 水の球体が弾けちった。


「ッッ!?」


 実況が良い感じにアクシールによって閉じ込められた観客を煽った結果。当然の如く観客はジュードの味方になる。マスコミの煽動と一緒だな。


「勘違いしているな? ———私が喋らなければ力を使えないと」


 独特の言い回しで、彼は弾けた球体の中から姿を現した。彼の着用する司祭服からは一切の湿り気も無い。


 お喋りはパフォーマンスだろう。人々の意識をより此方に向ける為の。


「それは否」


 そう言いながら、ジュードは十字架の輝く瞳をアクシールに向けた。目が合ったアクシールは怯えた様に身体を竦ませる。


「う、嘘ぉ〜。何で生きてるわけ?」

「人々がそれを望まないからだ」


 人々が今望むもの。大技を見に受け劣勢だと思われた彼の逆転勝利だろう。


「神は、私に微笑んでくれるのだろうか? ———それは、是」


 バゴンッという岩を削る程の衝撃が、天からの稲妻が彼女を包む。


「浄化の槍」


 それを一言に、彼はアクシールに勝利が決まったと言わんばかりに背を向けるのである。パフォーマンスなのだろう、観客が大いに沸き立った。俺はエリック神父と視線を合わせて動き出す準備をする。


 これが試合だとしたら、彼女の敗北を求めるまでも、彼女を決して殺してしまう様な事を観客や人々が望むのであろうか。


 彼の口調を借りるとするならば、それは否。

 アクシールはまだ死んでいない。


 そして俺は経験している、敗北した邪将の元へ魔王サタンが襲来した事を。


「……アハッ」


 仰向けに倒れたアクシールは笑い始めた。


「とんでもないわねぇ。奇跡の子。必要なのは奇跡すら通用しない絶望よねぇ……」


 目だけが、ジュードでは無く此方を向いていた。


「ベラルークのひよっ子ちゃんは、偶然にも発現させたみたいだけど、格上の邪将は、絶望を呼び寄せる事が出来るのよ」


 一人喋り出したアクシールに会場が騒然としている。


「奇跡とは違って、絶望は偶然起きる訳じゃないんだから」


 空が曇って行く。ゴゴゴゴという唸る様な音を響かせて、想像できる全ての絶望を塊にした様な鈍色が空を覆い尽くしていた。普通は絶望する所だが、実況が『アクシールまだ何か隠していた!』と言う風に演出の域であると観客に錯覚させているので助かった。


「アハハ!! アハハハハハ!!! アハハハハハハ———魔王降臨!!!!!」


 曇天から降り注いだ稲妻の一撃によってアクシールは消滅した。

 この稲妻は見た事ある。






 最初にクボヤマの主観的な意見を述べていますが、法王に慣れる器として何が必要なのか、ここからわかると思います。


 そして、ジュード最強説浮上。(嘘)


 さらに、再びクソガキ襲来。


 もういっちょ、未だクロスたそ出ず。





 やっとここまで来れた。

 2ヶ月くらい掛かった気がする。

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