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女神聖祭 Battle of Crusaders -7-

 最近更新が遅れがちですね。頑張ります!

 ヴァックス・ハードハートは、第七都市を治める枢機卿である。性格は厳格その物。法王エリックからの紹介では、頭の固さが売りの人物だと言う事だった。スライムよりも柔らかい脳みそを持ったエリック神父と正反対の人物なのである。


「クボヤマさん。今、失礼な事を考えていませんでした?」


 体格は中央に済む人種の中では比較的大柄な体格に入る方で、彫りの深い顔立ちと白い素肌が、北の大地へ赴いていた頃を思い出させた。確か、ハードハート家のルーツが期待の大地にあるんだったっけな。


 聖門に沿って北へ赴く事が枢機卿試験の中では重要視されているので、北国ルーツの人が居た所で些か問題なんて存在しないか。


「枢機卿会議振りだな。特務枢機卿」


 俺が到着した途端、席を立ち上がって出迎えに来た法王と違って、席に座ったまま顔をこちらに向けるだけの第七枢機卿。視線をこちらに向ける動作の一々がいかにも偉い枢機卿であると思わせる。


 実際に表向きは法王の右腕だと言われる偉い人なのである。俺も特務枢機卿と呼ばれる枢機卿位に居つつ、枢機卿を物理的に捌く権利を持つのだが、厳格で実直、余計な金策等せずとも、第七都市を運営しうる程、民という名の信者に好かれているこの人に剣を向ける事は無いだろう。


「メッセンジャーを使えば今の所、誰からも聞かれる心配は無いと思うんですが、第七枢機卿も交えてお話ししたかったので」

「……何かあったんですか?」


 幸い、この空間には敵対勢力は居ない。もう一人の枢機卿を除いて、残りの枢機卿は基本的に第一都市の枢機卿の息がかかっているが、本当に謎の中立が居るくらいだ。


 もうすぐ始まろうとしているジュード=アラフ対アクシール戦の煽りによる熱狂に紛れて会話は誰にも聞き取れない筈だ。


 念には念を重ねる様にこの空間限定で聖域を発動する。


「ほぅ……」

「また新しい技を開発したんですね。流石愛弟子」


 これで問題ない筈。

 話を進めよう。


「単刀直入に、ジュード=アラフとは一体どんな人物だか判りますか? 第七枢機卿」


 第一枢機卿の虎の子とも呼べる彼について、俺は一つの情報もまともに収集して来なかった。ただただ漠然と注意すべき相手であるという事と、いずれ決勝で打つかり合う人物であるという事を想像していた。


 そう、この大会は俺と彼に準備された物であると勝手に想像していた訳である。戦いの最中に見極めれば良いやなんて、甘っちょろい考え方をしていた俺が憎い。そして、絶対優勝するぞとか餌に釣られて参加を決めた俺も憎い。


 エリック神父が一枚岩でない体系を取っていた教団の意味すら履き違える程に、俺は妄想の世界へとスパーキングしていた訳だ。


 色んな事情を耳にして、今気付く。

 人間同士で争ってる場合じゃねぇ。


「やっと気付いたのか」


 その言葉と共に、第七枢機卿は短く告げた。


「彼もまた、一人の神父である。第一枢機卿も同じだ——」

「——ヴァックス。ここからは私が引き継ぎます」


 結論を一つひとつ並べる様に口にする第七枢機卿に割って入る様に、エリック神父が口を開く。


「敵を騙すなら先ず味方から。第五都市へ向かってもらった時、貴方達が行った戦法でもあります」


 旅商人に紛れて邪将達と戦った時だな。

 あれは俺が考えた訳じゃないけど。


「事実、敵対勢力に対して不覚を取ったのは私のミスです。邪神勢がまさかここまで広範囲に攻めて来ているとは全く持って気付いていませんでしたからね。幾つか私の封印した邪神教跡地を廻って行ったんですが、何者かによってその一つが破壊されていたんですよ。いや、封印が解かれていたと言った方がよろしいですかね?」


 息が詰まる。

 それって、アレか。国境の寂れた教会か?


「事が起こってしまったので、仕方ありませんが。私の疑惑はそこから生まれ始めていました。いいえ、クボヤマさん。貴方だけを責めている訳ではございませんよ?」


 そして、バレてる。


「サルマンの件もありますし、例えそれがたまたま偶然起こりえた結果であっても、それ以上に作為的に封印が解かれている可能性の方が断然大きいですからね」


 そして、説教タイムも終わる。


「魔王襲来によって私は痛手を負いました。ですが、敗北を認めた訳ではありません」


 エリック神父の目に強い力が生まれる。この聖域すら自分のフィールドに変えてしまう程の力がその眼孔から発せられている。


「いや、その。自分の老いを認めた上での選手交代みたいな感じじゃなかったんですか……?」

「貴方が無理矢理物事を解決するとき良く使う手ですよ。パフォーマンスっていう奴ですね」


 ニコニコしながら良い腐るエリック神父。

 この目は! この顔は! 何度苦渋を舐めさせられた事か!


「———負けず嫌いなのは既に理解されているでしょう?」















 口元を押さえて笑いを堪える第七枢機卿。

 せっかくの荘厳さが台無しだぞ糞が。


「…………チッ……」

「舌打ちは失礼だと思いますよ? 私法王」


 馬鹿笑いし終えたエリック神父は、痙攣する様に震える腹を押さえながら俺に指摘する。俺はぶすくれた顔をしながら頬杖ついてジュード=アラフ対アクシール戦の開始を待っていた。


「まぁ、無理も無い」


 未だ元の表情を思い出せないのか、笑っているのかそうでないのか判らない表情を向けながら要らないフォローをする第七枢機卿。


 あの後、俺は理解した。スライムが何で身体を構成されているのか謎に包まれている様に、この法王の頭の中もスライムの様に謎に包まれているという事を。


 と、言うか。

 本当に脳みそスライムなのは、俺だった。


「一体俺は何と戦っていたんだ」

「謎です」

「はぁ〜〜〜」


 大きな溜息が漏れた。



 そりゃそうだ。


 邪教徒という人類の敵を前にして、教団内部で争っている暇はない。枢機卿会議を開いたのも、次期枢機卿を決めるためではなく、本来の敵を浮き彫りにする新体系を作る為の物だった。


 実際に時期枢機卿を決めるつもりだったようだが、これによって話の分かる枢機卿は、自分が何をすれば良いのか自ずと理解できるらしい。


 知らんよ、俺特務だし。

 所詮特務だし。


「まぁ、第一枢機卿は人類の為に尽力しつつも、上手い具合に民衆を斡旋して自分の利益をかすめ取って行くと思いますし、野心もそこそこ持っていると思いますけど、私は別に反対ではないですからね? それもまた良し。っていう訳です」

「うむ、サルマンの様に本当の意味で小賢しい奴も居るが、第一枢機卿は、法王の左の席だぞ。シンボルとは別に、上に立つカリスマ性も持ち合わせているものだ」


 要するに、俺はピエロさ。

 第五都市の復興と聖王国の経済活性化の主軸を担ったに過ぎないのだ。


 どこのオリンピックだアホ。

 せめてどこぞの枢機卿にこの利権を横取りされない様にセバスに注意を計らってもらわないと行けないな。


 エリック神父の描くシナリオ(俺の個人的な感情含む)は、自分は無事に隠居し、リアル技術を取り入れた最新式の第五都市へと移り住み優雅に暮らす事だったのだろう。クロスたそをちらつかせておけば俺は意地でも優勝するので、内政への口出しもし放題。


 エグい。

 エグ過ぎるぞ。


 さて、冗談はこのくらいにして。

 本来の目的は"本当の敵を誘き寄せる事"である。


「魔王サタンは必ず訪れるでしょう。彼が邪域から出れないなんて迷信はもう無いを確証を得ましたのでね」


 深い痛手を負った訳ですが。


「戦力も万全だ。奇跡の子ジュードもようやく動かせる体勢が整っていると第一枢機卿からも連絡が入っている。法外な寄付金を要求されたのだが、請求先はどうしたら良い?」

「福音の女神でお願いします」


 エリック神父の空気を読まないポロリ発言に、気分を変える為に飲んでいた紅茶を思わず吹き出してしまった。


「ちょっと待て! なんでウチなんですか?」

「お金持ってるじゃないですか?」

「私の金じゃございませんけどね!」


 ってか第七枢機卿。

 請求先は普通教団でいいだろうが、何故前振りした。


「まぁ、第一枢機卿なりの冗談なのでしょう。彼も私とは全く違う方向性で人々の事を常に考えていますからね。ミカエルをジュードへ譲ったのも覚悟の現れでもあります」

「判りました。とりあえず、お金は無理ですが地位だけなら良いですよ。法王の座は私が優勝した後に彼に上げますので」


 あたかも、他人が言った冗談の様に話を濁すエリック神父。もう騙されない。こういう風にまるで自分とは関係無い他人が冗談を言ってる風に語らう口調はマジで質が悪い。


「貴方も言う様になりましたね……」

「ぷっ……まるで親子を見ているみたいだ」


 荘厳だった第七枢機卿のイメージも。笑うと顔が耳まで真っ赤になるただのダンディーなオッサンであると証明された。


 お金も地位も全力で回避しなければ。

 もう神父止めようかな。


 一癖も二癖も。いや、千個くらい癖がある人物の狭間で、俺の心は今にも折れそうになっていた。






 ようやく自分がエリック神父の上で踊らされていた事実に気付いたクボヤマ。

 彼は今後どうするのか、法王就任を回避できるのか!?


 事の顛末やいかに。





 しばらくの間、クロスたそが空気になっています。

 ヒロイン復活までもうしばらくお待ちください。



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