女神聖祭 Battle of Crusaders -6-
「法定聖圏は、今機能していません。各都市の結界は機能していますが、肝心の法王エリックへのダメージがどうしようもないからです。肝心の法定聖圏も、魔王サタンの策略によって破壊されてしまいました」
(エリックは大丈夫ですか!?)
本題に入った所で、サマエルが焦った様に口を挟む。あまりにも声が大き過ぎたのか、DUOの顔がかなり険しくなっている。
「大分回復していますが、この責任を取って彼は法王の地位を返上する様です。そのお陰で此方は大変ですよ…」
法王位選を含めたこの大会の運営。
それに対して邪神の勢力が入り込んでいるなんてね。
「いや、運営してるのは執事のセバスだろ」
溜息をついた所でハザードからの茶々が入る。一瞬息が詰まるが、どうにか吐き切って話を進める事にする。
「私の話は良いんです。肝心なのは貴方達からのお話ですからね」
そう言うと、とことん打つかり合う二人は同時に声を上げた。
「アクシールは危険だ」
「ジュード=アラフは危険だ」
声が被ったが確り聞き取れているので、あんまり喧嘩しないでくれ二人とも。互いに睨み合いながらメンチを切り合う二人にもうどういう顔をしたら良いか判らなくなってきた。
「俺が先だ」
「俺だ」
そんな二人を尻目に、仲の良さそうな中の人達が勝手に話し始める。
(相変わらずなんだからDUOも……私が先に話でも良いですか?)
(うむ、譲ろう)
普逆じゃないですかね。昔の因縁とかさ、ゲームのストーリー的にそういう風な感じが主だったと思うんだが。
(これは私が感じた事なんですが、あのアクシールという女。臭うんですよ。きな臭さとかそんなもんじゃなくて、邪の掃き溜めに居た様な、ジャリガキ魔王とそっくりの匂いがね)
「魔王サタンの息のかかった物だと言う事ですか?」
(そう。時を司る悪魔である私だからこそ、巧妙に隠された"存在"を感じ取る事が出来る訳です)
「と、言うか。何故貴方達がそれを私に報告しに来たんですか? わざわざ時を止めてまで……」
気がかりだった部分でもある。確かに何度も戦っているが、それで俺達が仲良くなったとか認め合ったとか言う事実は存在しない。
互いにゲームを全力で楽しむという根底はあるかと思うが、家は家で余所は余所を地でいく様な人達である。彼等の居るギルドもな。
(貴方の気持ちも判るけど、今回はたまたま目的が重なっただけね。彼も気になっていたみたいよ。自分が完膚なきまでに敗北した魔王相手に迎撃戦を繰り広げた貴方が)
「結果は負けてしまいましたけどね」
(魔王は面倒事は避ける癖がありますからね、負ける事はしなくても長引くと思わせた事は相当な物ですよ。誇って良いです、ええ)
DUOもどうやら個人的に動き回っていて、俺が魔王と対峙する前に一戦交えていたようだ。自ずと荒野とかした第五都市への道中で魔王と対峙した時を思い出す。
彼の言葉の端に、どことなく俺達プレイヤーの存在を知っていたのは、DUOと戦っていたからだったのか。
敗北したDUOは、戦いの情報を聞き出す為に俺の元を訪れ、大会の運営たる俺に魔王の匂いを漂わせるアクシールの情報を聞き出そうとしていたらしい。
「なるほど、わかりました。それで、ハザードの方は……?」
(友よ、過去を気にするのはいかんぞ。まぁ戦いの全容は我が語ろう)
どうもDUOが気になるハザードである。彼に変わってディーテが話し始める。
(今回の重要人物の一人だったかな? 今回我らが敗北したジュード=アラフと言う人物は)
「そうです、彼は法王候補として約半数の枢機卿の推薦を受けエントリーしています。エリック神父も彼の目には危険視している様でした。実際戦ってみてどうでした?」
『奇妙だった』
ハザードも向き直り、一緒に発言した。ハザードの声帯を使って発音するディーテの声は少し特殊になる。声色は一緒なのが、雰囲気や質が全くハザードと違うからな。ダブって聞こえる。
「俺の攻撃方法は知ってるよな?」
「ええ」
高所からの質量兵器とワイズ・デバイス。手っ取り早いので最近はその攻撃方法しか見てないが、本来ならば様々な属性武器を利用した魔術、剣術展開にて無限の攻撃方法を持つハザードである。
才能をまるっきり持たない彼だからこそ人一倍努力し、その過程も俺は見て来ている。だからこそ、彼はパーティの中でもほぼトップの戦績を誇っている。
俺とユウジンなんて基本的に趣味に生きてるし、高確立負ける事が多いからな。
「だったら俺が全力で高所からの質量攻撃をバトルステージ全域に行ったとする。避ける事は可能か? 迎撃方法も一緒に答えるんだ」
ハザードにしては珍しく饒舌だ。まるで自分の攻撃の絶対性を確かめる様なものぐさ。
「避ける事は不可能でしょう。迎撃は可能ですが」
「だろうな? ——だが、奴は立っていたんだよ。それも、まったく微動だにしないでな」
モニターから見ていた風景が蘇る。確かに、彼はあの攻撃の中立っていた。我が目を疑ったが、どうにか辛うじて迎撃し、避けた物だとばかり思っていたのだが。
「攻撃が当たる直前、奴は神に祈ったんだよ。神頼みであの攻撃が避けれるとでも? こんなふざけた話があるか!」
興奮したハザードが、身体を支えていた杖を床に打ち付ける。
「自分でも信じれないが、あれは奇跡の類いだ。神父、奴はあんたに限りなく近い力をその身に宿している」
(それについてだが、彼は攻撃もしくは防御する際に祈る様な仕草をする。その時、その瞳には十字架が宿る。そしてその目はまるで中に存在する我をも見通しているかの様だった)
『やられる直前。俺の(我の)魔眼がある物を映し出した。——盾と槍を掲げた大柄の天使の姿を』
話を聞く限り。ジュード=アラフは、神に祈る様にして戦っていたらしい。まさにホンマモンのエクソシストみたいじゃないか。モニター越しに見ていた様子に対してハザードが捕捉して行く。
『奴は奇跡を扱うぞ』
ハザードの一言には、説得力がある。
そして、ジュード=アラフ。彼への謎は深まるばかりである。今更ながら、教団の反対勢力に関してもそこまで有力な情報を仕入れて来なかった俺も悪い。
っていうか、ギルドの情報の要であるセバスチャンが『第五都市の復興指揮』と『女神聖祭の運営の準備』に手間を取られていた事も災いしている。
セバスにも限界があるんだな。
あ、高校生か。アイツ。
そろそろ脱セバス宣言をしなければならない時が来るのだろうか。俺も情報に強くなろうと今心に誓うのである。
ふと気付けば、いつの間にかDUOは居なくなっていた。ハザードは、ジュード=アラフとアクシールの試合を見る為に既に身内用の特設席へと向かって行った。こういうのはモニター越しではなく、自分の目で見るのが良いんだそうだ。
そりゃ、魔眼全開で見れば一目瞭然だろうな。
戦闘の分析は一部彼に任せておいて、俺はポケットからメッセンジャーを取り出してエリック神父を呼び出す。最初は謎の人物と化していた彼の法王も、今では隠居目前のおじいちゃんに近い訳で、心配事が少しでも減る様にとギルド内で匿っている時からメッセンジャーを持たせておいたのだ。
「ほうほう、これが貴方の知人の工房で作られている噂の品ですか」と意気揚々とスマートフォンにどことなく形が似ている小型通信用魔道具を弄り出すおじいちゃん。今では俺よりも機能について詳しくなってしまった事が、素晴らしく嘆かわしい。
『どうも、クボヤマさん。どうされました?』
彼は教団の要人の為に用意された特設席に居るのだろうか。メッセンジャーから聞こえて来る音に試合で興奮した人達の罵詈雑言や奇声が全く入っていなかった。
『何だそれは?』という男らしいテノールが聞こえて来て。『これは弟子が作った魔道具です。素晴らしいでしょう?』と言うエリック神父の自慢げな声が入る。
ビンゴだな。どうやら第七都市の枢機卿も近くに居るようだ。
「今からそちらへ向かいますね」
俺は手短にそう言い残すと通話を切り、足早に彼の元へ急ぐ。
念話じゃダメなの?と、魔法を扱える人は思うだろうが、実を言うと魔力のパスが繋がる行為はセキュリティが無いネットに繋がったパソコンと同じ行為だと言えば判りやすいだろうか。
あとはあれだ。
まだまだ普及率が低いから宣伝用に使ってるだけ。
なかなか更新できずに申し訳ありませんでした。
今後の展開に悩みます。
更新期間が空くと、どんな内容で話を進めていたのかすら判らなくなりますね笑
頑張って更新します。




