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女神聖祭 Battle of Crusaders -5-

 このままジュード=アラフが順調に勝ち上がれば、決勝で俺と対戦する。準決勝の対戦相手が発表されているモニターを見ながら俺は自分の控え室にて紅茶を啜る。


 もちろん、いつもの紅茶な。


 準決勝戦相手であるDUOは、最早頭の片隅に放り捨てられている様な状態だった。それだけ、俺の注目はジュード=アラフとその対戦相手アクシールへと向けられていたからだ。


 ゴーギャンらから寄せられた情報は、懐かしき山田アランからの物だった。


 一応お互いの連絡先は交換した物の、基本的に"RSMPはリアルで連絡を取り合わない"。現実で交友関係のあるユウジンや、常日頃からプレイしている常勤メンバー達をのぞけば、プレイヤー同士の係わり合いに置いて現実世界の物事を出す事は御法度となっている。


 それで良いのかMMO。

 でもまぁ、そんなもんか。


 リアルスキンモードプレイヤーは、皆一様にこの"異世界"の様なゲームの中を思い思いに楽しんでいるのである。


 流通状況や最近この世界が便利になって来ているのも、それは大体リアルスキンモードプレイヤーのお陰だ。各々専門知識を持ったプレイヤーがいたり、それがこのゲームの中の人々と手を組むと恐ろしい程に発展する。


 話が蛇足してしまったな。


 山田アラン(俺達はやまんと読んでいる)からの情報を一言で言うと『水色の長髪の女には気をつけろ』だった。


 そのくらいテレパスで念話してほしかったのだが、やまんは未だテレパスを習得していない状況が目に浮かぶ。今度通信用魔道具メッセンジャーを彼にプレゼントしてあげよう。


 魔大陸での情報収集と邪神勢力の境界線を見張っていたやまんは、俺と同じく邪将の一人と対峙し、一瞬で敗北したらしい。当時の彼の実力を省みると邪将を相手取るのは少し無理があるだろうな。


 まったく、内部の問題も山積みな訳だが、ここへ来て邪神勢が素晴らしく邪魔に思えて来る。


 こないだ魔王が来たばっかりだろうが。

 もうちょっと待ってからくれば良いでしょ邪将。


 そもそも、魔大陸から出場している選手で、水色の長髪を持った女性は一人も居ない。魔大陸から参戦し、決勝トーナメントまで残った選手はゴーギャン・ストロンド、ルーシー・リューシー、アクシールの三人。


 その中で女性はルーシーとアクシールだった。共に金髪と黒髪。

 そしてボンキュッボンである。


 何となく怪しく感じるのがアクシール。だが、俺もゴーギャン達もこの女に関してはノーマークだった。彼女は一回戦で赤髪のロッソを下し、二回戦は急な用事で参加できなくなったユウジンとの不戦勝だったのだ。


 俺は、唯一試合として行われた赤髪のロッソとの試合。ぶっちゃけ興味なさ過ぎて見てなかった。ゴーギャンもトレーニングに集中し過ぎて全く見てなかったし、ルーシーもそんなゴーギャンに世話を焼いて気にしていなかったんだと。


 アクシール、謎率急上昇である。

 あやしい、とんでもなく怪しい。


 だがしかし、大会運営側からすれば一度出場を決めた選手を怪しいので降ろして調べ直すなんて恥ずかしい事は出来ないだろう。この大会への出場はそれだけ綿密な審査があったのだ。


 一先ず試合を全部見て研究してそうなバトルホリック野郎にジュード=アラフとアクシールの様子を聞く事にする。もうそろそろハザードも来る筈だし。


(クボ、世界の時間が止まったのを確認したの。思考は停止から逃れたけれど、クレアちゃんは耐えきれなかったみたい)


 頭の中にフォルの声が聞こえる。

 視界の端に俺の次の対戦相手が立っていた。


「久しぶりだな」

(ハロ〜愛しの彼はどうしてますか〜?)


 トーンの低い声の後から、茶化す様な独特の声が聞こえて来る。


「あの、時間停止を乱用するのは自粛してくれません?」

「時間停止じゃない。ザ・ワ○ルドだ」


 いや、そうじゃねぇよ。


(この演出をする為にわざわざ扉の手前でスタンバってました)

「おい、言うなよ!」


 なんだこの二人、何しに来たんだ?

 心の中でぼやいた筈なのに表情には確り出ていた様で、DUOがコホンと席を一つして喋り出した。


「サタンと戦ったんだってな?」


 何を喋り出すかと思えば、意外と最近の出来事でもかなり心にガツンと来た出来事の話だったので、一瞬だけ返事に間があいてしまった。その間を埋める様に一口紅茶を啜る。


「——どこでそれを?」

「そんな事はどうでも良い。神父、貴様は奴を倒したのか?」


 どうでも良いのかい。


 そう言えば元からこんな奴だったな。さっきからこっちの話を少しも聞いてもらえないこの状況に溜息がでる。


「負けましたよ。それも法王エリックと共に戦っている状況で」


 短く簡潔に告げた事実、DUOの眉間に一瞬だけ力が籠る。その一言で状況をある程度読み取ったのか、サマエルが口を開く。


法定聖圏セントリーガルはどうしたの? アレがある限り、彼は負けない筈じゃない?)

「それ故の、この女神聖祭ですよ」

(……ふ〜ン。彼も色々あったのね)


 サマエルは何かを知っている。含む様な言葉遣いからそれを感じる。それはDUOも同じだったのか、ムッとした表情はそのまま、いつもの言葉を打つける様な口調で尋ねる。


「おいサマエル。お前何か知っ——」

「待たせたな神父……ッ!?」


 微妙なタイミングでバトルホリック野郎事ハザードの入場である。ジュード=アラフとの戦闘の際に負ったペナルティを抱えているのか、彼はいつもの背中のリュックへと乱雑に突き刺してある杖の一本にて身体を支えながら。


 そして、DUOを視界に入れるや否や、全身の五感を引き締めてすぐさま戦闘態勢を取る。赤く鈍く目は、魔紋まで使用している様子が伺える。


 どうやら本気の様だ。


「何故ここに居る」

「何だお前、いつかの中途半端野郎か」


 DUOは振り向かずに言い放つ。それが自分を遥か下に見ていると感じたのか、ハザードは獰猛な獣の目つきでDUOに襲いかかった。まるでプレイヤーズイベントでの雪辱を晴らすかの様に。


「止めなさい」


 ハザードが間を一瞬で詰める程の速度で肉薄し、それにあわせる様にDUOの腕に力が入った瞬間、俺は天門ヘブンゲートにて間に入りハザードとDUOの腕を掴み静止する。


「邪魔をするな」

「向かって来るのは構わんが、迎撃だけはさせてもらうぞ」


 まるで駄々っ子の様に力を込めるハザード。

 と、挑発する様なDUOの言動。


 もうね、子供かと。

 そう言う子達には鉄拳制裁。


 再び時を止められたら困るので早めに対策を取っておく為に聖域クレリアを展開する。そして一言。


「"この部屋では止めなさい"」


 目線をキツくすると、ハザードは何か言いたげに口をモゴモゴと動かして鼻息を大きくついた後、まるで悪い事をした後の犬の様に後ろに下がってしまった。


 俺が掴んだDUOの腕もシュウシュウと音を立てて焼け爛れ始めている。彼は目で放せと訴えかけていた。喧嘩両成敗である。


 調度品いくらすると思ってんだ。

 詳細な金額は実際知らないけど、かなりすると思うよ?


(友よ。怒りに呑まれるな。そして————久しぶりだな、我が友よ)

(DUO。どのみちこの空間じゃ貴方に供給できる能力はたかが知れてますよ? そして————久しぶり、我が友よ)


 現在三人しか居ないこの空間にハザードともDUOとも違う声が響く。悪魔達である。二人の悪魔は、懐かしむ様な慈しむな声色にて互いを友と呼び合った。


(わぁ〜、ディーテさんハローなの!)

(お、お久しぶりなのでしゅ!)

(うむ、こうして話すのも久しいな。色々な友に会えて今日は良き日だ)

(なに耄碌ぶってるんですか貴方。ってクボヤマ貴方、そのかわい子ちゃん達は……なるほどね。ってますます彼に似て来たじゃないの〜!)

(あ、新しい人なの! よろしくなのです!)

(よ、よろしくでしゅ!)

(あらま〜! 可愛いですね! 食べちゃいたいくらい!)


「「「…………」」」


 ディーテの出現にテンションが上がって勝手に出て来たフォルとクレア。こいつらの絡みは最早爺と孫なのである。それに違和感無く混ざるサマエル。


 先ほどまでの剣呑としていた雰囲気から一遍。ガラッと変わってしまった空気感について行けない俺達は三人仲良く溜息を大きくついた。


 お互い苦労してるんだな。

 何となく判るよ。





 捕捉。

 前回のプレイヤーズイベントでは、DUOはクボヤマに勝つ事しか頭に無かったのと、勝利を味わいそのまま団体戦なのに引っ込んでしまったので、最後まで善戦したハザードの事を覚えていませんでした。


 神父視点なので描写がかなり抜ける部分がありますが、補足説明というよりも、書き足しをちょいちょい後書きにてやって行こうと思います。



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