とある街の教会で。
大体初めの街から二日程で一番近くの街にたどり着いた。
遠くない?と言っても、北への進路はこんなもんだった。一番隣国に近い経路と言った風に、ジャスアルの国は南に向かって伸びているからだ。国境までは2週間程である。直線距離はもう少し短いと思うが、そこまでレンジャープレイで強行する気もない。
因みにノーマルモードはエリアポータルが設置されていて、ある程度省略されているらしい。セーフティーエリアと言うそうだ。別に使わなくても行けるらしいが、大抵のプレイヤーは使っているんだと。
ま、ゲームだしな。そこまでリアルなロールプレイするんだった俺は推奨ギアを購入する事をお勧めする。
街に入ったら次の北行きの馬車を見つけなければならなかったが、セバスが代行してくれた。必要な物はセバスが準備するらしい。
まぁ、道中出て来たモンスターを倒した素材、魔石もだね。彼が管理している。って言うより、それが出来そうなのが彼くらいしか居なかったのだ。
廃人と呼ばれるユウジンは、そう言ったコモン系の魔物に興味ないらしい。やるなら強敵、レイドボスだと言っていた。
まぁみんなのお金として旅の資金としてセバスに預けておこう。そう言う事でみんな合意した。
で、ふとやる事が無くなった俺はどこに向かったかというと。
教会である。
やっぱり足を運んでしまうんだよな。癖なんだよもう。
後ろからキラキラした瞳を向けながら付いて来るエリー。何故か彼女も付いて来た。まぁ特に迷惑でもないし、美人と一緒に歩くなんてまるでデートみたいじゃないか。悪くないね!
「ロールプレイを忘れナイ心。素晴らしいデス師匠」
ちょっと話しかけるのやめてくれないかな。一日一回は聖書読まないと落ち着かないんだけど。まぁ今朝読んだけど。それとこれとは別だ。
教会でこそ礼拝は真価を発揮するんだ。
「君は、聖騎士になりたいのだろう?」
そんなにロールプレイに拘るならちょっと付き合ってやろうじゃないの。と思ったら自然に荘厳な声がでた。自分でもびっくりである。
「エッ…」
急な変貌に戸惑いを隠せない様なエリーだ。
「清く正しい騎士で有るべきなら、そこに突っ立ってないでただ真摯に祈るべきじゃないかね?」
ああなんか今の俺すっごく気持ち悪い。すっごい死にたい。死んでも生き返るけど。すっごい死にたい。
彼女はキリッと真剣な表情になる。俺の言葉を受け止めた様だな。
「配布されている聖書を手に取り、毎朝と就寝前に必ず読みなさい。騎士と言え、聖職者の一員だという意識を培いなさい」
「ハイ、神父」
俺は聖書の一節を彼女に読み上げてあげる。教会に必ず有る女神の像の前で跪き、片方の手を胸に当て、もう片方はクロスを握りしめ目をつぶる。聖書は念動で浮かせて、読み上げる速度に合わせて開いて行く。
まぶたの裏が白くなった。たぶんステンドグラスの光が俺を照らしているんだろう。今の俺はまさに神々しいはずだ。
俺の口に合わせて、彼女も同時に読んで行く。若干ぎこちないがまぁ彼女のひたむきな祈りは伝わって来る。
祈りは終了した。
目を開けてエリーを見ると。キリッとした顔の中、その瞳はウットリとしていた。ロールプレイと感じている間はまだまだだな。
俺は何を考えているんだ。
ちがうちがうロールプレイじゃない。でも恐ろしく自然に祈りを教える事が出来ていたな…。ああもう。どうにでもなれ。
立ち上がると拍手が聞こえて来た。後ろを振り向けば、椅子に何人もの人が座っていて、聖書を片手に俺の祈りを聞いていた。
その顔は皆神を見る様な羨望の眼差しを感じる。新手の宗教家よ。お前らからすれば俺は一人の信者なんだけど。
「どこの高名な神父様でしょうか。その少女に対するお導き、そしてその祈り。素晴らしかったです」
同じ様な神父服に身を包んだてっぺんハゲの男性が手を握って来る。たぶんこの教会の神父なんだろうな。
あと同じ様な神父服じゃないな、語弊が有った。俺の神父服は戦闘用にポケットやらなにやらが多くなっている。一枚布で出来たチープな物じゃない。戦闘服だから戦闘服。コートみたいな感じ。ズボンもはいてるよ。
「いえ、私は修行の身なので名前はありません。ですが私をお導きくださったのは始まりの街の教会の神父様であるエリック神父です」
荘厳な声が出る。なんだこれ。あと私ってなんだ一人称違うぞ俺。
「ははぁ! あの、エリック神父! とても素晴らしい方に導かれたのですね!」
さすが、エリック神父だ。こんな所まで名前が広がっているなんて。そしてそのやり取りを見たエリーは、「神父モード…」と呟いていた。
ちげーよ!いや、違わないけど、違うんだよ。
この後、礼拝に来ていた方々にお布施を頂いた。結構な額になったので、恥をかかない様に少しだけ頂いて残りはこの教会に寄付して来た。
そのやり取りを見て、さらに感激した様にハゲ神父は手を握って振って来た。
もう行けねーじゃねーか。あの教会。目立つって得意じゃないんだよね。苦手でもないけど。
「神父様」
「名前で呼べ」
「じゃあ師匠」
「もうそれで良いよ。なに?」
「聖騎士って何が必要なんデスか?」
能力値的にはVITとMNDとSTRが必要だと思うが、彼女は心構えの事を言っているんだろうか。
「神父が人を救うなら、君たちは人を守るんだ。俺たちの手が届かないところもあるだろう、救いきれないからな。その間人々の希望を守る騎士。それが聖騎士なんじゃないだろうか」
我ながら臭い事を言ってしまったが、それでも彼女には響いたらしい。そんな事を話しながら集合場所である宿に向かった。そして彼女はそれからロールプレイという言葉を発しなくなった。俺と同じ時間に起き、聖書を読み。クロスを握っている。
彼女のクロスは、道具屋で買ってあげた。ネックレスにして常に鎧の胸当ての中に閉まってあるらしい。
いやいらんがなそんな情報。胸とか。意識してまうやろ〜。
さて、夜が開けた。ベットだったのでぐっすり眠れた。
そう言えば前日にセバスから報告が有った。馬車が見つからなかったそうだ。次の馬車が来るのは5日後らしい。森を迂回する馬車道を歩くより、三日掛かるが徒歩で森を抜けるルートも有るらしい。馬車道を歩いても五日で着くそうだ。
微妙だな。ちなみに馬車で向かっても三日だと。
で、みんなで話し合った結果。特にこの街には見る物も無いので次の街に向かう事になった。徒歩で森を抜けるルートでだ。
まぁこの状況とくに問題は無いんじゃないか?みんな、戦闘は申し分無いからな。さすがノーマルプレイでそこそこいいとこ行っていた連中である。
俺はほら、初心者だし。ど畜生。
自室で早朝の祈りを行って。宿の食堂に向かう。もうみんな荷支度を済ませて集まっていた。俺も混じって朝食を食べる。固いパンとうすいスープだったが、大分慣れた。世界の文化レベルだとこんな物だろうと思う。むしろ味覚がある事がすごい。
この程度なら自分で作った方が美味しいが、まぁ郷に入っては郷に従えって事だ。
ここからは徒歩での旅だ。戦闘になる事が多いと予想されるので、みな一様に準備だけはしている様だった。
俺としてはこの森で上手く行けば一稼ぎできるんじゃ無かろうかと期待してる。パーティの金欠もこれで解消できると良いが。
あ、俺は自分のお小遣いくらいは持ってるよ。
昨日のお布施が少し残ってるからね。だからといってそれだけで稼ごうとは思わないけど。まぁ何かしらの事は成し遂げたいな。
まず先にオリジナル武器だ!インテリジェンス魔本?インテリジェンスブック?
一日中魔力の修行を行っているが、しかりステータスは伸びてるのかな。まぁだいぶ自由に魔力を動かせる様になったから、成長はしていると思う。
昼間は特に問題なかった。時折出て来るモンスターを狩りながら進む。南は動物系のモンスターが多かったな。草原なんてほぼ動物。食用だしね。北は魔石持ちのモンスターばかりである。
魔物ってやつだね。そろそろ相見えるんだろうか。ゴブリンやオークというファンタジー恒例の魔物達と。
「なんか〜不思議だわ。森の中なのにこんなに平和なんだもん」
ラビットの皮をちくちく裁縫しながら凪が言う。
今は休憩中である。この時間はもっぱら俺は魔力ちゃん、クロスたそ、聖書さんと組んず解れつしていて、ユウジンは荷物入れに入っている超重量の鉄のかたまりを括り付けた練習用の刀を振っている。
セバスは基本的にラビット解体してご飯の仕込みをしていたり、道中集めた野草を調合していたり、俺に混ざって聖書を読みふけっている。あれはハマったな。
そんななか凪は手芸部にも入っていたそうで、様々な縫い物を行っていた。
「昼間はね。それより凪は何を作っているんだ? 見ようによってはお前の方が平和なんだけど」
誰に放たれた言葉か判らなかったので、とりあえず俺が返しておいた。
「確かに! 最近なんかやる事が無い時はこうしてると落ち着くのよね」
判る。その気持ち判る。俺だって暇があれば聖書読んでるし。
「職人みたいだな。その道に進んでみたら?」
「そうそう。それ考えてたわ。ドワーフの国でしょ。細工師に興味あるのよ。ほらアタシって手先だけ無駄に器用だから、工芸品とかチャレンジしてみたいなって」
なんだかんだ皆何かしらの目標を持って生きてるな。そこに珍しくユウジンが口を挟んだ。
「細工師ってことは付加魔法みたいなことができるんじゃないか? 武器や装備に描く細工でその武器の性能が上がるみたいにね」
なに?そんなのも有るのか?これはためになりそうだから詳しく聞いておこう。戯れながらも俺は二人の会話に耳を傾ける。
「盲点よ! 忘れてたわその存在。それなら私でも役に立てるわね〜。どうするのかしら」
「ん〜まぁ俺も詳しくはしらんけど。とりあえず知ってる魔法の呪文でも何かに刻んでみたら?」
「そんなもんよね…。模索してみる事にしようかしら」
なるほど。呪文を書くのね。始めようかな聖書の書き取り。まぁ最初は指先に魔力を載せて聖書をなぞる事から始めよう。ペンとインク無いし。
ちなみに凪は役に立ってないなんて事はない。俺の服は自動修復だが、他の人達の服は彼女が直している。そして、魔法も器用にこなすし、連携に差し支えのない魔法で支援してくれる。
なんせ、前衛が俺、ユウジン、エリーだからだ。その内ユウジンがアタッカーでエリーがタンク。俺がサブアタッカーでサブタンクといった構成を作っているらしい。これはユウジンの原文ままである。
セバスチャン、凪の居所は、まさに痒い所に手が届く。といったところだろうか。
っていうかまぁ俺がモロパーティー向けのプレイヤーじゃないからね…。ユウジンが言うには前衛に出て来るくせにMND極の変態育成らしい。
ご、ごめん…。でも個人技が多いのは仕方ないと思うよ。うん。
書いてて全然VRMMOじゃないと思う。無理矢理ステータスの横文字を出して軌道修正しています。笑
ぶっちゃけ適当に書いてたらこうなっただけです。その内Onlineになります。多分




