表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

「どうして貴様がここにいる!」

 激しい憤りの声に、透子は耳から我に返った。

 気が付けば透子は、母屋の一室に横たえられていた。額には冷えたタオル。頭の熱が、タオルにゆるやかに吸い取られる。


「私がここにいてはいけませんか?」

「貴様のせいで透子が倒れたのだぞ!」

「どうでしょう? あなたが透子になにも言わなかったからではないですか?」

 ぼんやりとしたまま、透子は薄く目を開いた。

 なにげなく声の聞こえる方を見やれば、透子を間に挟んで罵り合う、二人の男が目に映る。激昂する栄吉と、怖いほどに冷徹な涼平だ。

「透子に自分が何者か、伝えるべきです。今のままで、透子が無事でいると思いますか?」

「透子はわしの娘だ!」

 透子の目覚めに、二人は未だ気が付いていないらしい。透子は身じろぎもできず、言葉を挟む隙もない二人を見上げていた。

「貴様は二度と透子には近づけさせない。出て行け!」

「ええ、あなたたちがこの神社から出て行くのなら、私も身を引きましょう」

 透子に見せていた表情をすべて消し、涼平は冷たく言った。その変貌に透子は震えた。

 普段の親しい態度に慣れてしまっていたが、彼はやはり、自分たちを追い出しに来たのだ。そのことを透子は実感する。

 突き放すように冷たい涼平。怒りに熱くなる栄吉。――二人とも、透子にはまるで知らない人のように思えた。

 ――何の話をしているの?

 怒鳴り合う声が、頭に痛い。


「ここの妖怪たちも、あなたのことを追い出したがっているようですしね? 神の住処と言うのにずいぶんと騒がしいみたいですが」

「…………ここは、神の住む土地だ。妖怪どもがどう騒ごうが、わしらは動かん。ここに、わしらの神がおわすのだ」

「そう言って、また神を殺す気ですか」

「本当に神を殺したのは貴様だ! 忘れたとは言わさん!」

「あなたは意固地になりすぎているんですよ。私の話も、妖怪たちの声も聞こうとしない」

「だま」


「――――黙って!」


 栄吉の言葉を遮り、透子は叫んだ。これ以上黙って聞いているのは堪えられなかった。

 自分のことなのに、なにを言われているのかわからなかった。神とか、死んだとか、そんな話は聞きたくない。

 ――――私が、何者か、ってなに?

「起きていたのか……透子」

 涼平が戸惑ったように声をかける。しかし、透子はぎゅっと耳を押さえて首を振った。

「聞きたくない。私、その話いやだ」

 頭が痛くてたまらなかった。さっきまでの幻覚が、まだ頭に残っている気がする。

 ――――子供の泣き声と、地鳴り。遠くから響く重たい音。それから、悲鳴――。

 知らない何かを思い出しそうだった。


「出て行って。お願い、私、知りたくない――――」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ