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人生ゲーム

お題:1000のぬくもり

 あるところに、愛に飢えた少年がいました。彼はひたすら愛に飢えていました。どれほど求めても満たされることがありません。ゲーム脳だった彼は、これを「レベルが低いからだ」と考えました。あの頃の彼の一日はひたすらゲームばかりでした。

 愛とはきっと、レベルをあげたら手に入るアイテムなんだろう。何かイベントが起こって、そこで手に入る特別なアイテムなのだ。そう信じて彼はレベルを上げることにしました。大丈夫、レベル上げは大得意です。彼が持っているゲームはたった一つで、彼は魔王を倒した後も延々と勇者のレベル上げばかりやっていたのでした。レベル上げならお手のものです。

 でも、どうやったらレベルがあがるのでしょう。彼は少し考えて、ぴこんとひらめきました。愛を得られそうな行為、つまり、ぬくもりに触れることでレベルがあがっていくのだ、と。

 少年はまず小学校の生き物係になりました。校舎裏のウサギとひたすら触れ合って、彼はピコーンとレベルがあがりました。けれどこんなもんじゃまだ足りません。愛を手に入れるには、もっともっとレベルが必要なのです。

 それから彼は人と触れ合うことにしました。それは大変難儀でした。彼はもともとゲーム脳のインドア派少年でしたので、アクティブに外で遊ぶ男子とは壊滅的に趣味があわないのです。けれどこれもレベル上げのため。辛いのは当たり前です。少年は四苦八苦しながら、隣の席の男子や同じ係の男子と徐々に触れ合っていきました。

 やがて彼は、クラスメイト全員と日常的に話せるようになりました。男子とはじゃれあって遊んだり、女子には告白されることもありました。たくさんの人のぬくもりに触れて、彼のレベルはピコーンピコーンピコーンとあがりました。けれどまだまだ足りません。

 中学校にあがって、少年はますますたくさんの人と触れ合うようになりました。人の多い部活に入って、職員室にも積極的に質問に行って。おかげでますますレベルは上がっていきました。それでもまだまだ、愛には到底足りません。

 ところで、そんな少年を「ばかじゃないの?」と罵る少女もいました。彼女はクラスから妙に浮いていて、いつでもひとりぼっちでいました。彼はその子を、たくさん経験値を落とすレアなモンスターポジションなのだ、と思い、むしろ積極的にふれあいに行っていました。経験値を得られたことはありません。

 そのまま彼は高校、大学と進学していきました。件の彼女は、偶然にも彼と同じ高校、大学に進学していました。彼はめげずに彼女へ触れ合いに行くのですが、彼女はやっぱり「ばかじゃないの?」とすげなく言うばかり、経験値は得られません。

 彼女から経験値は得られませんでしたが、他の人からは惜しげも無く経験値を奪い取っていました。ピコーンピコーンピコーンピコーンピコーン。彼のレベルは上がりにあがり、得たぬくもりはおよそ1000にもおよぶでしょう。彼はそろそろ、愛が手に入るだろう、と思いました。いくらなんでもレベルがカンストしそうです。

 それでも彼は愛を得ることができませんでした。イベントなんて何もおこらず、誰もアイテムをドロップすることもありません。こんなのあんまりだ、と彼は悲しくなってしまいました。どうしてぼくは愛を手に入れることができないんだ! ついにはそう叫んで泣きだしてしまいました。

 そんな彼をなでる手がありました。彼女でした。

「ばかじゃないの?」

 彼女はそう言って、彼をそっと抱きしめました。その瞬間、彼は唐突に、しあわせだ、と思いました。それから、愛が手に入ったのだ! と強く強く思いました。今ようやっとイベントが起こったのです。そのことがあんまりに嬉しくて、ずっと求め続けていた愛でついに満たされて、彼は余計に泣きだしました。彼女は微笑んで彼をなでながら、「ばかなんだね」と言ったのでした。

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