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少女の元へ漂流者

お題:メジャーな戦争

 あるところに少女がいました。少女は一人で住んでいましたが、その家近くの海にはたくさんの人が流れ着いてきました。同じ国の人、違う国の人、同じ種族の人、違う種族の人、同じ世界の人、違う世界の人。それはもう、本当に多種多様な人たちが流れ着いてくるのでした。少女は生まれた時からそんな生活でしたので、色んな人が自分のところに流れ着いてくるのは慣れっこでした。

 その日流れ着いてきたのは、同じ世界の、同じ種族の、違う国の人でした。怪我と格好から、軍人さんらしいということが分かりました。少女は慣れた手つきで軍人をやや安全な場所まで引きずり、止血をして、薬を塗り、それからまた家まで引きずって、体を休ませました。ベッドまではさすがに引き上げられなかったので、床に敷いた毛布の上にです。甲斐あって軍人はすぐに意識を取り戻し、しゃべることが出来るまでに回復したのでした。

「……俺は、死んだのか」

 軍人は目を覚まして最初にそう言いました。少女は首を横に振ります。すると軍人は安心したような顔をして、立ち上がろうとしました。少女は慌てて止めます。今動いては、折角の少女の手当が水の泡です。幸いなことに、軍人はまだ立ち上がれるほど回復していませんでした。少女に押さえられるがまま、毛布に横になります。少女は安心して、軍人へ用意していた薬を飲ませました。その薬は、何週間か前に流れ着いた妖精に教わったものです。彼は割合素直にそれを飲みました。

 けれど軍人はすべてを恨んだような顔のまま、少女に言うのでした。

「俺を戦場に帰してくれ。どうなった。あの戦局は、あの戦場は、あの戦争はどうなったんだ」

 低く、地を這うような声に、少女はぱちくりとまばたきしました。そういう声の持ち主は、今までに何人かいたのでした。そう、例えるなら、幾月か前に流れ着いてきたドラゴンの声に似ています。

 少女は、ゆっくりと子どもへ話すように、自分にはその戦争とやらがどうなったのか分からない、と言いました。それから純粋な疑問として、どうしてそんなに戦場に帰りたいのか、と尋ねます。

 何を聞くんだ、と軍人は鼻で笑いました。初めて見せる笑顔でした。

「まだ暴れたりないんだ。まだ敵を殺し足りない。まだ味方も死に足りない。こんなスケールではいけないのだ」

 何がいけないのか、と再び少女は尋ねます。決まっているだろう、と軍人はまた鼻で笑います。

「もっともっと大きな戦争にしなければならないのだ。そうでなければ命を賭ける意味が無い。将来、俺もお前もそのまた子どもも孫も生きていないような将来、そんな遠い未来でさえ、誰もが知っているような有名な戦争でなければ、死んでいく意味がないじゃないか!」

 そこまで言って、ふと軍人は黙りこみました。少女が飲ませた薬の副作用が効いてきたようでした。ふっつりと、まるでロボットの電源が切れる時のように軍人は眠ってしまいました。以前流れ着いたロボットの電源が切れる様子と、本当にそっくりでした。彼の布団をかけ直し、少女は部屋を後にします。

 今日は海へ行きましょう。そう思って、少女は支度を始めました。食料と、薬と、包帯とを鞄へ詰めます。なんとなく、今日も誰かが海に流れ着いている気がするのです。今度は一体、どんな世界の、どんな種族の、どんな国の人なのでしょう。それを考えると、少女は少しだけ心が躍るのでした。

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