ショートショート 「パズル」
※この話はフィクションです。
葬式に行った。幼馴染が交通事故にあったという。
今年36歳を迎え年男となった身にはいささか堪えるイベントだ。
故人は小学校時代からの友人。妙に喧嘩をした記憶が多い友人だ。
だがその分仲直りも多かったから覚えが多いのかもしれない。
近所付きあいとしてはそんなに多くない。住んでいた住所、地区が遠く、
お互いの家に遊びに行き始めたのは高学年を終え中学に入りだしてからだ。
不良に憧れていた時期、ボタンの裏のアクセサリーに凝り、親のお金をくすね合った時、
お互いの親に一緒になって謝り合ったのは会うたびに笑い話になっていた。
その頃からだろうか?彼がジグソーパズル、ではないタイプの
ピースタイプのパズルに興味を持ちだしたのは。
ジグソーパズルは多すぎる。ヒマつぶしにやれればいい。とふざけ半分で幼児用の
キャラクターパズルを購入したのがきっかけだった。
初めのうちは単純にバラしてははめていく作業をえんえん繰り返した。
キャラクターの絵の入ったパズルはピースも独特な形。絵も大きくわかりやすい。
およそ中学生のやるものじゃない。が、彼は2年の2学期頃まで
30種類ものキャラクターパズルを収集していた。「付き合いきれないな」
そう言って離れていった友人も少なくない。が、別段それだけが趣味な男でもなかったため、
そこは個人の趣味だ。と割り切って付き合う連中もまた自分も含め少なくなかった。
高校に入り自分は進学校、と言えば聞こえはいいが、よくある地方の中流の収まる学校に入ったが、
その友人は東京の有名進学校に入った。これは仲間内でも評価はまっぷたつに割れた。
中学生にもなってキャラパズルをやっていたような奴が・・・が半分。
パズルやる奴はどういうのであれ頭がいいんだな・・・というのが半分。
自分がどっちだったかはあえて伏せておこう。
お互い高校が、というか生活の状況が変わり会うことはおろか接点を失い、
お互いの環境の中、別々の生活でそれぞれの友人、恋愛、失敗に成功。様々な出来事をこなし
お互いが「懐かしい」という言葉の中にお互いを収めかけているだろうと思い始めたとき、
その友人からパズルが自分にだけ届いた。自分にだけ。と知ったのはのちの話ではあるが、
ともあれ自分を覚えていてくれたことに嬉しかったというのと
まだやってたんだ。という呆れと半分半分の気持ちがわいた。
紙に包まれた平面な荷物。サイズからしてそれだ。と直感した。案の定それだった。が、
さすがに漫画のキャラクターというのは卒業していた。中学時代、友人5人で
地元の山へ初日の出を見に行った際に撮った写真でできたピースパズルだった。
ただその時の写真と違ったのはその初日の出はなく、後ろ背景が赤いだけの
5人のふざけながら並んでいる部分を切り抜いた写真で作ったパズルということ。
手紙が添えられていたので読んでみると。そのパズルは今完成しているやり方とは別に
あるやり方をするとその別のやり方でちゃんと完成できるパズルだという。
頭のいいやつは考えることが違うな~。と感心してしまった。が、
そんなものをなぜ自分だけに送ってきたのか?それをどうしてほしいのか?
そういったことはたいして書いてなく、ただやってみてくれ。と書いてあるだけだった。
普通の高校で普通の高校生活を送ってきた自分に有名進学校に行ってるような友人が考案した
特殊なパズルなどできるはずがない。思い出の品として持ってればいいや。そう決め付けて
そのままのまま押し入れの奥にしまって・・・20年近く経ったこの日それを思い出した。
中学の頃を最後に20年ぶりに訪れた友人の家。
友人の両親は自分を覚えていてくれた。ご無沙汰していた非礼を詫びながら
懐かしむように友人の部屋を見せてくれた。中学時代からいじられていない部屋。
友人本人がこのままでいい。と申し出てのことらしい。高校は都会。卒業してからも、
数える程度しか帰ってないらしく、自分たちにも連絡をよこせなかったくらい
忙しい仕事だったらしい。この日久しぶりに集まったのは友人を知る、あのパズルにも姿のある
友人が2人ほど。とりわけ仲の良かった間柄の連中。
親族にお悔やみを申しその後、滞りなく式は終わり、酒の席になり、
自分たちは友人として集まり思い出話を語りあった。
その中で自分は心に引っかかっていたことを切り出した。
「Aはどうしてこなかったんだろうな?」
中学時代、初日の出を見に行った5人組の中で自分、友人、今いる2人の他のもう一人。
この二人も気になっていたのか、切り出すタイミングを探っていたかのように
この問に食いついてくる。が、誰も知らないという。
その時不意に思い出した一人がそのAと、この友人が
あまり仲が良くなかった事を思い出した。自分はそう思ったことはなかったが、
どうやら自分が鈍いだけだったらしく、もう一人も気付いていたようだ。
よくよく思い出すとあの初日の出のあとそのAは引っ越していた。初日の出を見に行ったのは
その送別も兼ねていたのを思い出す。そこでようやくパズルのことを思い出した。
「パズルどうした?」という言葉を酒によってろれつが回らなくなった口が吐き出す直前、
その言葉が何かにびっくりしたように口の中に引っ込むようなしゃっくりをした。
酒でしゃっくりをしたのはこれが初めての経験だった。そのしゃっくりに自分がびっくりして
その様を笑われてその席の話は終わった。が、自分の頭の中にはパズルのことが離れなかった。
まるでパズルの話題が口を塞いだような感覚。
あのあとも誰もパズルにだけはパの字も口にしなかった。
式の日から一週間が経っていた。学生時代を思い出しはすれ、それぞれがいい社会人である。
翌日からそれぞれの仕事に戻り、自分もこの一週間働き詰め、ということでもなかったが
日常に戻って日常を過ごしてきた。実家住まいであるため自室に戻り、ふと押入れに目がいった時、
酒の席でのAと友人の仲の話を思い出した。押し入れを開ける。友人と違い地元で生まれ地元で育ち
地元で働いている身としては自室も成長とともに変化する。押し入れの中身もまた。
しかしそれは早めに見つけることができた。包を開きパズルを出す。
あの時のままだ。赤い地に切り抜きの若い自分たちのふざけた格好。
あの頃はたいして思わなかったが、今見るとまるで5人が血の池で悪ふざけしているように見える。
あの友人がこんなのを表現したかったのか?と訝しんだが友人がそんな性格でないのは
自分がよくわかっている。ただ、少し極端なところがあった事を思い出した。
殺人事件の話題を耳にしたとき「その犯人は死を持って償うべきだ」というニュアンスをより
バイオレンスな表現で叫ぶようなやつだった。人を悪く思わないが悪い奴には徹底的に
悪い感情を持つ。そんなヤツだった。そんな友人と幼い頃から付き合ってきて、
高校が離れてからこんなパズルをよこす。そんな人間ではないはず。
高校に入り人間が作られてきてもこんな根暗なパズルをよこすような人間では・・・。
この歳に来て改めて過去を振り返ると当時とは違う感覚で見てる自分を見てる自分に気づく。
まして友人はもういない。考えるのはやめよう。と思ったとき、
パズルの台紙がズレているのに気づいた。これはパズルなんだ。今の完成形と違う形の完成形がある。
当時の手紙もパズルとしまっていたので取り出して読み返してみる。あの当時の自分は友人の高校と
自分の通う高校との差にちょっとした劣等感を感じていた。そのせいもあって自分にはできない。
と感じていたが、今は歳が歳だ。せっかくだからやってみよう。とパズルに固定のために巻かれていた
ビニールをやぶる。どうせ再び巻くのだから。と
あえて指で乱暴に破り丸めてビニール玉をごみ箱に投げる。台紙から滑らせるように
パズルを机の上に落とす。数枚は裏返ってしまう。そこで裏に気づいた。赤い部分の裏側は
あの初日の出を見たあの山の景色のようになっていた。少し、いやかなりびっくりした自分は
他のピースも裏返してみる。やっぱりだ。裏側はあの時の
初日の出の写真っぽい景色の部分になっている。「別の完成形」そういうことなのか。
当時の自分はなぜやらなかったんだろう?やろうとしていれば当時の思い出をこんなびっくりするような
形で甦れせてくれるような仕掛けを用意してくれた友人をより嬉しく感じられたのに・・・。
当時の自分の情けなさを今になって恥じながら友人の冥福を改めて祈りたい気持ちになった。が、
作っていてどういうわけか景色のピースが一箇所合わない。どういうわけだろう?
ジグソーとは違うタイプのピースパズル。その形は一つ一つ決まっている。大きさもそれぞれ。
ただ、作っていて思い出したのはAの当時の噂と、そのAと友人の間だった。
Aとは不良に憧れた当時に付き合い始めた。裏ボタンを教えてくれたのも、そのお金の調達方法も
Aから教わった。自分は数回の反対のあと折れたが、友人は最後までAの言葉では折れず、
結局自分が説得してお金を作らせてしまう。それなのに友人は自分と一緒に謝ってくれた。
友人は不良のような格好に憧れてはいたが不良には絶対になれないタイプだった。
Aとは自分は近所だったせいかそのことに気付きにくかったのだ。
改めてピースを調べるとAの写真だけ1つのピースで出来ていた。そしてその裏は
ほかの自分たちの写真のピースとは違い、景色の部分になっていた。我々の写真の裏は真っ赤・・・。
Aのいた部分は別の景色のピースが見事にはまった。
Aのパーツは向きを変えて不足していた部分に収まった・・・そして完成した。
そこにはAのいない自分、友人、この間葬式に来ていた仲間2人の4人が
初日の出をバックにふざけ合った風景が見事に完成していた。そして裏には・・・
一人Aだけが真っ赤な血の池のような中で・・・。友人はこれを表現したかったのか?
これを自分に伝えたかったのか・・・?当時何故自分はこのパズルをやらなかったのか?
数分前の気持ちをまるでなかったことにするように、
当時の自分の正しい判断を今改めて深い感謝を気持ちの中で表現した。
当時もしこのパズルがこの形でできていたら・・・きっと友人をその段階で失っていたかもしれない。
自分は極端ながら友人のあの付き合い方が好きだった。
鈍感でAとのやりづらさに気づけなかった自分に気づかせないようにAと付き合っていた、
あの友人が好きだった。今作ったからこそ、今このパズルをやったからこそ当時の友人の気持ちを
今知れた事が本当に心の深い所から安心にも似た感謝の気持ちで湧きおこってきた。
このパズルは誰にも見せることはないだろう。Aに関しては引っ越した後、高校の頃に
いくらか連絡をよこしてくれていたが2年を過ぎたあたりに全く音信不通になってしまった。
今どこで何をしているのか・・・。もしかしたらこのパズルのような・・・。
いや、考えるのはよそう。強引に気持ちを変える。そんな事もできるようになった今の年齢。
としの経過とは本当にすごいものだ。と感心させられる。さて、考え事を変えようと
思い始めたのは、もし友人が交通事故に合わなかったら・・・
このパズルはどうなっていたんだろう・・・?いつかやっていただろうか?
やっていたとしたらその時パズルはどういう形で完成させているだろう?
ここまで考えて自分は明日のことを考え再びパズルに手を伸ばす。
数分の格闘の後パズルを完成させる。裏側が二度と取れないように
道具入れに入れていた糊で台紙に貼る。
台所からラップを持ち出しパズルに巻きつける。もうこの状態から動かないように。
そしてそれを押入れの奥、あった場所にしまう。
自分はあの頃のあの友人たちのままの気持ちでいよう。友人は自分にパズルをくれた段階で
自分に気持ちを伝えたとしてそのまま何も言わなかった。
自分も自分で鈍感なままそれでも楽しく友人と付き合い続けてきた。
他の二人とも、もちろんAとも。それでいい。
完成の形はどうあれ、あの頃の自分はあの中で、あのままなのだから。 了
怖い話を考えたつもりですが書いているうちに
ワケ分かんなくなってきましたww。
パズルを別の組み方で完成したとき
その絵の人物が一人減っていたりしたら
怖いだろうな~と感じたのが書くきっかけでした。