序
其の昔
神々の王 天帝 聖龍神は
此の世に蔓延る数々の悪から力弱き人間を救うべく、
己の神力を与えて一人の女をお創りになった。
彼の女、名を 霜 奈雷
清麗かつ聡明、偉大な神力を用いて妖を討つ
“神巫女”“光龍”である彼の女は 死ぬ度に転生する魂を持つ。
五百年ごとに生を受ける光龍
大いなる力でその度使命を全うする。
奈雷没後千五百年、
新たな光龍――清 麗蘭
人界に再び下される。
◇ ◇ ◇
序
暗く、湿った洞穴の中。もう何百年も人々に忘れ去られた地である。
静寂が流れ、時折滴り落ちる水の音のみが鳴り響く。
……突如、そこに光の筋が現れた。
全てが静止しているその場所で、それは一際神々しく映る。
眩い程の光の洪水の向こうからまるで空間に浮き出るように、「彼」は静かに現れた。
細く滑らかな黒い髪にすらりとした体躯、黒曜石の如く輝く黒い双眸。一見女と見紛う、此の世のものとは思えぬ程の美貌。
「やっと、出て来られたか」
その美しい声は、冷たい空気に乗って低く鳴り響く。
「……千五百年。恐らく未だその程度だろう。それにしては、随分長く待ったように感じるものだ」
外套を翻し流れる長い髪を白い手で結い上げた彼は、ゆっくりと歩き出す。そして、側に倒れていた白刃の剣を拾いその刃に目を落とす……凍り付くような笑みを湛えたまま。
「兄上、こんな封では長く保たぬと分かっていたであろうに」
その笑みは、全てを呑み込む程深遠な、闇。
「……僕は僕の、『宿』を果たすとしよう。此の道を選び取ったのだから……」