希望《2》
「ただいま」
「お帰りなさい、風友さま」
孤校に戻った風友は、幼い子供たちに囲まれほっと一息をつく。そして荷物を下ろすと、思い出したように一人の少女を探した。
「優花、優花は何処だ?」
「はい、此処におります」
夕餉の支度をしていた優花という少女が、風友の前に現れる。
「風友さま、お帰りなさいませ」
「ただいま。留守番ご苦労だったね」
優花は今年麗蘭と同じ一四歳になる少女で、肩より少し長めの紺色の髪で、瞳は暗めの金。つい一週間程前に此の孤校にやって来たばかりだった。
「明日、峨邑へ行っている麗蘭が帰って来る。麗蘭に会うのは初めてだろう? 麓まで迎えに行ってみないか?」
「麗蘭って、妖怪退治に行ってるっていう……?」
「ああ。明日の正午には着くみたいだから」
「……はい、わかりました!」
彼女は快く了解した。
優花にこんなことを持ちかけた風友には、ある考えがあったのだ。
翌朝、山を下りた優花は、麗蘭を待つため麓の村へと向かっていた。
「麗蘭か……どんな子なんだろう。皆に聞いたところによると、ちょっと変わった子みたいだけど……」
麗蘭は、他の子供とは余り仲が良くないらしい。というより、優花の持った印象では、学問でも武芸でも優れた麗蘭に皆が嫉妬しているというような感じだった。
今回の妖退治にしても、その少女離れした武術の腕を買われてのことらしい。時折少し遠い町や村まで、妖を倒しに行くそうだ。
……近頃、妖が増えているように思う。
風友が迎えに行くのを優花に頼んだのも、まず一つの理由に、麗蘭以外に優花しか一人で山を降りられないから、というものがあるのだろう。
「私と同い年で妖退治で評判になるなんて、なんか……こう、凄く大きい体つきとか、怖い顔をしているとか……なのかな?」
勝手な想像を膨らませながら、何時の間にか目的地に着いていた。
「風友さまは此処で待ってれば良いって言ってたっけ」
山道へと続く道沿いの、村の入り口。暫らくそこで待っていたが、一向に現れる気配が無い。
「……うーん。もうそろそろ正午なんだけどなぁ」
道行く人に、麗蘭の特徴を言って見ていないか聞いてみたりした。すると、此の村の人は彼女のことを知っている人が多かった。
「ああ、そりゃあ麗蘭だね。また妖退治に行っているのか、大変だねぇ」
「麗蘭? いや、見ていないね。朝から此処にいるけど、まだ通っていないんじゃないかな」
そうしているうちに、優花に一人の少年が話しかけた。優花よりも少し年上位だろうか。
「誰か待ち人?」
「ええ、私と同じ位の女の子。髪が長くて太陽色で……」
少年は微笑み、大きく頷く。
「ああ、その娘ならお堂の前にいたぜ」
「ほんと!? じゃあ行ってみようかな」
「よし、おれが連れていってやるよ」
彼女は安心し、人の良さそうな此の少年に付いて行くことにした。
優花が少年に付いて行った少し後、入れ違うように麗蘭がやって来た。
「麗蘭、また妖退治に行ってたんだって?」
「はい、峨邑まで」
以前よりも頻繁に阿宋山を出るようになり、彼女が少し苦手だと感じていた「人と話す」ということも、普通に出来るようになりつつあった。
「さっきまであんたを待っていた女の子がいてね、風友さまのお使いとかで……」
「え? ……それで、今何処に?」
「それがね、さっき見かけない男の子に付いて行ってしまったんだよ」
「見かけない男の子……?」
麗蘭は何となく、不安になってきた。
「あっちの方へ行ったよ。多分お堂の方じゃないかねぇ」
「……ありがとうございます。行ってみます」
教えてくれたおばさんに礼を言うと、足早に歩き出した。




