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出会いは瓦礫の町で

気が向いたら更新していきます。


あの日、俺は後悔した。

戦場で初めて鉛玉を目の前のクソッタレ共にぶち込んだ時も、こんなに動揺はしなかった。

それだけ俺の中で、彼女の印象は大きかったのだと思う。




アリサと名乗った少女は初めて出会った時、迷彩服姿の俺に躊躇いながらも声をかけた。

何も知らないお嬢様だったのだろうか。

服はボロボロだったが、高級な材質を使っていると一目でわかった。

その時、俺はガレキと化した町を一人で歩いていた。

真夜中だったと思う。


「お……おじさん……」


最初、タバコを咥えて物思いに耽っていた俺はその声に気付かなかった。

だからだろうか。

少女が次にあげた、あまりにも細い声が、俺にはハッキリと聞こえた。


「お、おじさん……」

「あ? ガキ?」


これが、俺と彼女の出会いだった。

今から思えば、このとき無視をするか何かしておけば、俺は後悔しなくても済んだんじゃないか。

そんな、ありえない道のことを考えてしまう。

あのとき、俺が彼女のことを気にも留めなかったなら、彼女は、アリサはあそこまで苦しむ必要は無かった筈だった。


「おじさん……私の、お父さんとお母さん……どこに行ったのか、知りませんか?」

「知らねえな。そもそも、お前の親父とお袋の顔を知らねえ」

「そう……ですか……」


そう言ってションボリと俯いてしまったアリサの姿に何を思ったのか、俺は彼女の手をとった。


「心配すんな。俺も探すの、手伝ってやるよ」

「ホント……?」


パァッと子供特有の明るい笑顔を見せるアリサは、きっと、俺には眩しすぎたのだと思う。

こういうところに甘ったるい日本人特有の思考が残っていた俺は、泣き出しそうな彼女を見ていられなかったのだろう。


ともかく、俺たちはガレキの町をしばらく歩き、難民キャンプへとやってきていた。

そこかしこに小汚い格好をした難民たちが座り込み、俺たちのことを恨めしげな目で睨んでいる。

まあ、気にはしないけどな。

アリサの両親がいるとしたら、ここしかないだろう。

ここにいなければ、別の場所に逃げたか、もう死んでるか。

ともかく、俺たちはアリサの話す特徴道りの人間を探すべく、難民キャンプをフラフラと歩き回っていた。


「アイツ……じゃねえな。金髪だが男だ」

「うん……」


アリサの両親の特徴。


母親は金髪碧眼の美女。

花の髪留めをつけているらしい。


父親は明るいブラウンの髪に同じくブラウンの瞳を持つ、偉丈夫。

眼鏡をかけているらしい。




難民キャンプを一時間ほど歩き回っても、アリサの両親は見つからなかった。

今更だが、難民キャンプと言っても面積は広大だ。

別の方向にいるのかもしれない。

その時、隣を歩くアリサの足元がふらついた。


「大丈夫か?」

「おじさん……疲れた……」

「んじゃ、休憩にするか」

「うん」


俺はその辺の適当なガレキに腰かける。

アリサはその隣にチョコンと座った。


「アリサ、なんか食うか?」

「うん」

「ほれ」


俺が手渡したのは、大して上手くも無い携帯食料。

味はまあまあなのだが、とにかくパサパサで食べにくいのだ、

だから、ついでに水筒も渡してやる。


「詰まらせんなよ?」

「うん」


素直に頷く辺り、ガキと言うかなんと言うか。

まあ、親の教育がいいんだろう。


「おじさん……」

「あ?」

「お父さんとお母さん、見つかるかな……?」

「さあな」


それは俺にもわからない。


「とりあえず祈っとけ」

「何に……?」

「適当にその辺にあるもんでいいだろ」

「なんで? こういう時って、神様に祈るんじゃないの……?」

「バカやろう。日本には八百万の神というものがあってだな、あらゆるものに神様が宿ってるって考えられてんだよ」

「おじさん、物知りだね」

「まあな」


多分、こんな感じであってると思う。

俺も知り合いの受け売りだから、詳しくは知らんが。


「おじさん……」

「あん? どうした?」

「あそこ……」


アリサの指差す先、金髪の美女と茶髪の偉丈夫。

特徴とは一致する。


「あいつ等か?」

「うん」


どうやら、この少女との別れは大分早い段階で来たようだ。

少なくとも、この先縁があるとは思えない。


「じゃあな。アリサ」

「うん。またね、おじさん」


アリサの無邪気な台詞に、手を振って答える。

さて、帰って寝るか。

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