記録1
晴日晴日、16歳。
烏村大学付属高等学校に通う高校1年生。
つまり私は己が好奇心故か新聞部に所属している。
烏村大学付属は中高大の一貫校で、所謂エスカレーター式だ。
そのため情報量が多く、新聞部も活動のしがいがある。
新聞部の活動内容は校内や学校周辺の情報を集め新聞としてまとめ、校内に張り出す、という一般的な活動内容。
案外この新聞が好評!
中高生からは自分が行く予定の高校大学の様子が分かる、大学生からは周辺に新しく出来た店などの情報が便利と評価されてる。
じつはこの新聞、新聞部発行とあるが、私が一人で作ってる。
新聞部とは名ばかりで、部員は私一人しかいない。
新聞が好評だから部として認めてもらっているんだ。
おかげで号外を除いて月一でしか発行できない。
大変すぎて定期テストの時なんかは首が回らないが、自分の作ったものが好評だとやる気を出せるもんだから、単純だ。
*
新聞部の活動のおかげでここら一帯の店舗情報や建物の位置、ましてや住人の苗字も把握している(町で情報収集していたら自然と覚えてしまった)。
ある日曜日、新しい情報はないかと町を散策していた。
と、少し人気の少ない路地裏に入ると、見慣れない穴があった。
いや、トンネルといったほうがいいのか。ずーっと奥まで通路が続いている。
路地裏のコンクリートの壁に堂々と口を開いて、私を飲み込まんとばかりに。
「・・・あれ?」
この路地裏は野良猫が多く、個人的に癒しスポットで何度となく足を運んでいたのだが、今までに一度もこんなトンネルは見た覚えがない。
見たなら絶対中に入ってる。こんな“いかにも”なトンネル。
「入らないわけには・・・いかないよねぇ?」
飲み込まれてやろうじゃないか。
足元に擦り寄る野良猫たちを蹴らない様に、私はそのトンネルへと足を進めた。
*
中は真っ暗で、真っ直ぐ続いていた。
自分がどれだけ歩いたか分からない。
もしかしたら1分、もしかしたら30分も歩いてるかもしれない。
感覚が鈍る。
入り口はもう見えない、というか引き返すつもりはない。
ただひたすら真っ直ぐ歩く。
もしかしたらこのトンネル、ただの穴かもしれないけど、それはそれでネタになる。
畜生、こんなの作ったの誰だ。一発ぶん殴りたい。
すると、光が私の目に刺さった。出口だ。
「やった、やっと抜けた・・・!」
思わず駆け出す。
まぶしいけど、早くその光の中に戻りたい。
光がいっそう強くなる。
トンネルの外に出たのだ。
光が強くて、目が開けられない。
ここはどこだろう?
「・・・え?」
そこは、豪邸の庭だった。
庭、といっても石畳の道と、噴水と池があるだけで、雑草が伸び放題だった。
庭の置くには白いシンプルな洋風の豪邸がどんと聳え立っている。
が、この家も蔦が這い放題で、人が住んでいないことを主張しているようだった。
庭の周りには高い気が聳え立っている。
空を見上げるとぽっかり穴があいていて、きれいな青空が広がっている。
「・・・誰か住んでるのかな?見るからに空き家っぽいけど・・・。」
愛用のカメラで一枚。
もちろんこれは新聞のネタ決定だ。載せないで隠れ家みたいにするのも面白そうだけど。
撮った写真を確認すると、なんだかアリスにでもなったようだ。
穴を抜けるとそこは不思議の国、なんてね。
家のほうへ歩を進める。
それにしても広い、この庭。
犬とか放したら走り回りそうだ。外にいる野良猫たちも喜びそうだなぁ。
「おぉ・・・近くで見ると、迫力が・・・。」
夜だったらお化け屋敷とかにも思える。
うぅっ、やめようそんな考え。ちなみに現在時刻は昼の1時。あたりは明るい。
*
「おじゃましまーす・・・。」
重い両開きの扉を少しだけ開け、中を覗く。
外見と同じで中も白で統一されている。
白、といっても薄汚れているから灰色に見える。
「あ」
と、その白い(灰色か)床にうっすら、足跡が見える。
足跡が残るって、どんだけ埃被ってるんだか。
でも、人が住んでいるようだ。
私の好奇心が今まで以上に高まる。
どんな人だろう?お金持ちなのかな?それともホームレス?隠れ家とか、別荘なのかな?それとも私みたく好奇心で?男?女?大人?子供?
期待が膨らむ。想像がとまらない。
足跡をたどって、歩を進める。
家の中も広く、部屋が沢山あるようだ。
2階か3階建てのようで、階段もいくつか見受けられる。
本当に広い。なんでこんな家がこんなところに?
もしかして、あの穴は本当に不思議の国への入り口だったんじゃないだろうか。
そんなメルヘンな事を考えていると、扉にぶつかった。
これまた白い、大きな扉。
足跡は真っ直ぐこの中に続いているようだ。てことは、この中に足跡の持ち主がいる。
「・・・(どきどき)」
ぐっ、と扉を押した。
がしかし、扉はびくともしなかった。
「・・・あれ?」
押して駄目なら引いてみろ、と引いてみてもまったく動かない。
鍵がかかっているのだろうか?
押したり引いたりを繰り返す。しかし当然のように扉は全く動かない。
「なんでだ・・・」
さすがに疲れて肩で息をする。
(その扉、横開きですよ)
「・・・え?」
ふと、どこからか声がした。
男の声。この部屋の中からした?
そっ、と扉を横に引いてみると、本当だ。すんなり開いた。
途端、私は唖然とした。
真っ白い部屋に、大きなモニター。
白いパソコン、白い時計。
白の椅子と机。白いベッド。
そして、白い、人。
「はじめまして」
す、と小さな長方形の紙が差し出される。
名刺だ。これまた白の。(いや、普通白か)
それには薄い水色の文字で『愛守』とだけ書かれていた。