一見いつも通りの夏休み(幽霊つき)
午前中に宿題やってお昼にそうめん食べて夕方にタローの散歩をする日々が続いた。ユウちゃんは表面上は今まで通りだったけど何か考えていることが増えた。チズちゃんに関することだと想像はつく。どこまで聞いていいのだろう。当たり障りないだろうことを聞いてみた。
「ユウちゃんはチズちゃんとどこで知り合ったの?この辺の出身じゃないよね」
「おばあちゃんの家に来てるとき、この近くだと思うんだけど」
遠野家と同じく長期休みに親戚がくる家は少なくない。近所の家の親戚、小さい頃は同年代の子たちと遊んだりもしたけどチズちゃん世代まで行くとわからない。
「いつもちいちゃんからきてくれてから私からは遊びに行ったことなかった、かな」
答えに曖昧さは残っているけど以前より記憶が戻ってきているらしい。ユウちゃんが家に来たことがないのなら、遠野家の大人たちと面識はないだろう。それでも狭い田舎のことである。チズちゃんと仲のいい女の子がいたならどこの家の子なのかくらいは知っていそうだ。
おばあちゃんかお母さんに聞いてみようか。こういう話はお父さんは当てにならない。
いや、トオコが急にチズちゃんの昔の友達のことを言い出したら不思議に思うだろう。その友達が幽霊になってここにいます、とは言えないし。ユウちゃん本人が思い出すのを待つのが良いのだろうか。
「問題集どこまでやった?」
「自由研究どうしよう」
「作文やだなあ、昔っから苦手」
今日はトモちゃんの家にトオコとアサミちゃんがお邪魔している。三人の予定が合う日に誰かの家に集まって宿題をしようというわけである。去年からやっていて今年一回目、宿題をするというのは建前のようなもので脱線することが多い。
「二人は部活忙しいでしょ、練習とか大会とか」
と部活の予定がスカスカなトオコ。書道部は展示会に行くくらいである。
「うちは弱小だからね、大会は負けてすぐ終わりそう」
と唯一の運動部であるアサミちゃん。卓球部はあまり強くない。
「夏のコンクールに向けて練習中、入賞できるといいな」
と吹奏楽部のトモちゃん。吹奏楽部はときどき賞をもらっている。下手な運動部より練習がきついという話もある。三人の中で部活に一番力を入れているのはトモちゃんだ。
「トモちゃんは高校も吹奏楽やるの?」
「うーん、吹奏楽もいいけど軽音楽もいいかなって。軽音楽部のある高校もあるし」
「志望校ちゃんと考えないとね」
とは言っても難関高校を目指す予定のない三人はまだ気負うほどでもない。宿題の手は止まりだんだん他のことをしたくなる。
トモちゃんの弟はゲームが好きで新しいゲーム機を少し前に買ってもらったそうだ。その弟は今日は友達と学校のプールに行っている。つまり、ゲーム機は今誰も使っていない。
「ちょっとだけやってみる?これ面白いんだよ」
「勝手にさわって弟くん怒らない?」
「大丈夫、これデータ分けて保存できるの。それに文句なんか言わせないし」
お願いされたドーナツを買っていく優しいお姉ちゃんであるだけではない、弟との力関係をうかがわせる発言だ。
結局三人ともゲームに夢中になってしまい、宿題はあまり進まなかった。
ゲームに夢中になって予定より帰りが遅くなってしまった。帰り道、タローの散歩をしているおばあちゃんとばったり出会う。用事があるときは代わってもらうこともあるけど今日はトオコがする予定だった。
「おばあちゃんありがとう!タローごめんね」
散歩をすっぽかされてタローが怒っている、ということはなかった。楽しい散歩の途中でトオコに会えて大喜びである。こんなタローだが相手は見ている。おばあちゃん相手だと常にゆっくり歩くが、トオコのときは勢いよく走り出したりする。
ひとしきりトオコになでてもらったタローはユウちゃんの方を見た。これはかまって欲しいときの顔だな、とトオコは思う。
ユウちゃんはそっとタローに手を伸ばしてなでるような動きをしてみせた。でもやっぱりさわれない。ユウちゃんもタローも残念そうだ。
「どうしたんだいタロー、そっちにも誰かいるのかい」
おばあちゃんがタローに話しかける。おばあちゃんは前にユウちゃんの気配を感じ取っているようなことを言っていた。今もユウちゃんの存在を感じているのだろうか。
おばあちゃんはそれ以上深入りすることはなく、二人と一匹と幽霊で家路についた。




