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「ちいちゃん」

 終業式。校長先生の長いお話、担任教師からの夏休み中の注意事項、そして通知表。中間、期末の試験結果からだいたい予想できるけど少しは緊張する。受け取った通知表を開いてみる。うん、ほぼ予想通り。


 それらが終われば明日から夏休み。トオコの予定はお盆の親戚の集まりと夏期講習、部活の展示会見学くらいである。目先の予定はない。強いて言うなら夏休みの宿題になるだろうか。


 「宿題、午前中の涼しいうちにやるしかないよね」


 トオコがぼやくとアサミちゃんが茶々を入れる。


 「今年なんか涼しくない? 午後もできるよ」


 それを聞いたトモちゃんが笑いながら言う。


 「涼しくても一日宿題はやだなあ」


 そんなことを話しながら、今までとそんなに変わらない夏休みになるだろうと思っていた。


 「夏休みの宿題っていろいろあるんだね」


 終業式の日の夜、宿題の予定を立てているトオコを見ながらユウちゃんが言う。

 問題集に作文に自由研究、中学生になってからは小学生時代より量が多い。

 トオコは小学生の頃から八月末くらいに無難に終わらせるタイプだった。終盤に大慌てすることもないが、七月中に終わらせて一ヶ月フリーなんてこともない。


 「今年は夏期講習行くから去年よりペースあげないと」


 昼間に塾で勉強して帰ってきてから宿題に取り組める自信はない。部活をバリバリやりながら塾に通っているクラスメイトもいるけれど、自分ができるとは思わない。できている子の気力体力はどうなっているんだろう。


 「ユウちゃんは夏休みの宿題のこと覚えてる?」

 「ええと……休みの終わりに慌ててやるイメージ?自分のことは思い出せないなあ」

 「そのイメージ漫画とかの話だと思う」


 ユウちゃんの今までの話を思い返すと、学校関係の記憶はほとんど思い出せていないようだ。学校には毎日ついてきていたのだからきっかけもたくさんありそうなのに。

 本をたくさん読んでいたらしいけど、学校じゃなくても読めるしなあ。



 「夏休みは部活の練習多いんだよね、大会もあるし」


 と、ポニーテールの女の子。


 「テニス部だっけ。すごいなあ」


 本好きの女の子が関心している。今回の二人は夏休みについて話していた。

 チズちゃんも中学はテニス部だった。そうだ、ポニーテールの女の子はチズちゃんに似ているんだ。



 「夏休みは部活の練習多いんだよね、大会もあるし」


 と、ちいちゃん。

 ちいちゃんはテニス部だと言っていた。夏休みは部活と宿題で忙しいという。部活どころか学校もほとんど行けていない私からは遠い世界だ。

 学校に行けてない?私は……



 時々見る女の子二人の夢、前から気にはなっていたけど今回は現実につながることに気がついた。ポニーテールの女の子はチズちゃんではないか。そうだチズちゃんの昔の写真を探してみよう。中学生の頃はポニーテールだったハズだ。午前中は宿題の時間なので午後になってからやろう。


 やりたいことができて少しソワソワしたけど午後は暇だし急ぐことはない。午前中は宿題の問題集をなんとか目標ページまで進められた。


 お昼ご飯にお母さんが茹でたそうめんを食べながらテレビの怪談特集を見る。夏休みの定番で多少マンネリでもあるが、後ろで見ているユウちゃんは怖がっているようだ。本物の幽霊が作り話であろう怪談で怖がっているのも変な光景だ。ユウちゃんと比べたらテレビの怪談の方がずっと怖いとは思うけど。


 午後、自室に戻って写真探しを開始する。本棚からいくつかアルバムを引っ張り出してきた。

 トオコの横でユウちゃんもアルバムを見ている。


 「このランドセル背負ってるのトオコちゃん?」

 「うん、小学校入学のときかな」


 今より少し若い両親と赤いランドセルを背負っている小さなトオコが写っている写真だ。同じページにはおばあちゃんやチズちゃんと写っているものもある。この頃のチズちゃんは高校生だ。髪型もポニーテールではない。中学生のときのないかな。これより前のってどこだっけ。


 「探してる写真があるの?」

 「うん、実はね……」


 トオコは探している写真とその理由、女の子二人が出てくる夢の話をした。そのうちの一人、ポニーテールの女の子が昔のチズちゃんに似ているのだと。


 その話を聞いたユウちゃんがポツリと言った。


 「私の見てる夢と同じだ」



 ユウちゃんはお腹は空かないけど、眠ることはできると言っていた。ときどき夢を見て、その夢のおかげで昔を思い出すことがあるとも。

 その夢とトオコが見た夢の内容が同じだという。ポニーテールの女の子が『ちいちゃん』で、本好きの女の子がユウちゃん。

 あの不思議な夢はユウちゃんの夢が流れ込んできたのだろうか。


 「じゃあチズちゃんがちいちゃん?」


 トオコはチズちゃんと呼んでいたので思いつかなかったけれど、ちいちゃんという呼び名もありかもしれない。ユウちゃんはチズちゃんの友達だったのだろうか。


 「ちいちゃんの本名は思い出せてないの」


 ユウちゃんは記憶が戻ると元気がなくなる。今回もそうだ。たぶん一部しか思い出せないのがもどかしいのだろう。でも今は大きな手がかりがある。


 「こっちの制服の子、高校生のチズちゃんだけど見覚えある?」


 トオコの指した写真をユウちゃんは見つめて少し考えている。


 「似ている気もするけど、わかんない。私の知ってるちいちゃんは中学生だったから」


 やっぱり中学時代のチズちゃんの写真を探そう。もしかしたらユウちゃんも一緒に写っているのがあるかもしれない。それならトオコのアルバムよりおばあちゃんに聞いたほうがいいだろう。


 夕方、ゲートボールから帰ってきたおばあちゃんにチズちゃんの写真があるアルバムを何冊か貸してもらった。


 アルバムには若い頃のお父さんやおじさんたち幼いチズちゃんの写真が年代順に並んでいる。ページをめくるとだんだんトオコの知っている姿に近づいてくる。


 写真の横にはおばあちゃんの字で一言メモがついている。


 『千鶴子、中学の入学式』

 若いおばあちゃんが一緒に写っている。


 『千鶴子、テニス部の集合写真』

 テニスコートらしき場所で部活の写真。集合写真のため一人一人の顔が小さい。


 『千鶴子と透子ちゃん』

 これが一番わかりやすかった。私服でポニーテールのチズちゃんと三歳か四歳のトオコが一緒に写っている。


 やっぱり夢の女の子にそっくりだ、とトオコが感じたとき一緒に見ていたユウちゃんが言った。


 「ちいちゃんだ」


 ちいちゃん=チズちゃん、で間違いないようだ。

 ただ、ユウちゃんと一緒に撮ったという写真は見つからなかった。


 トオコとユウちゃんが同じ夢を見ていたこと、ちいちゃん=チズちゃんであることがわかった。ユウちゃんの会いたい人、ちいちゃん=チズちゃんはお盆に帰省してくるのでそのときに会うことができる。


 ただ、疑問は残っている。いまのところユウちゃんが見えているのはトオコと犬のタローだけである。チズちゃんはユウちゃんを見ることができるのか。見えたとしても、ユウちゃんは会いたい理由を思いだせたのだろうか。


 今日は大きく話が進展したけれど、トオコにできることはこれ以上なくなってしまったようだ。

 

 ちいちゃんはトオコちゃんの親戚のチズちゃんとほぼ確定した。もうすぐ会える。けど、楽しくおしゃべりしていた頃から何年も経っていてちいちゃんは大人になっている。私には唯一の友達でもちいちゃんにはたくさんの友達がいたはずだ。ちいちゃんは私のことを覚えているだろうか。一緒に撮ったはずの写真は見せてもらったアルバムにはなかった。あのときの写真、私の手元にはあったのだろうか。

かげおくりはしません。

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