幽霊ちがいと不思議な夢と衣替え
トオコとユウちゃんが出会って初めての週末、土曜は半日授業だ。
学校から帰ってきたトオコとおばあちゃんの二人で昼食をとる。お父さんは仕事、お母さんは付き合いでやっているママさんバレーの練習で出かけている。外にはタロー、すぐそばにユウちゃんはいるけど。
「最近ねえ、家に誰かいる気がするのよ」
とおばあちゃんが言い出した。おばあちゃんが幽霊が見えるなんて話は聞いたことないけど、もしかしてユウちゃんが見えてる?
「誰かって?」
恐る恐る聞いてみる。
「おじいちゃんかねえ、お盆はまだだけど。そそっかしい人だったからねえ」
おじいちゃんはトオコが小さい頃に亡くなっている。とても可愛がってくれたと聞かされているが記憶はない。
おばあちゃんはユウちゃんが見えているわけではないようだ。でも気配は感じているっぽい。おじいちゃんと間違えたなら気味悪がっているわけでもないだろう。
昼食が終わるとトオコは自室に戻った。おばあちゃんはリビングで二時間サスペンスの再放送を見ている。
「おじいさんに間違えられた……」
ユウちゃんは少し落ち込んでいた。十代の女の子ががおじいさんと間違えられれば普通の反応だろう。
「おばあちゃん見えてはないみたいだし、心当たりのあるのがおじいちゃんだっただけだよ」
「そっかあ」
トオコはフォローをした。どれほど効果があったかはわからない。
人違いだったけど、おばあちゃんの言ったことが少しは当てはまっていたりするかなと聞いてみた。
「ユウちゃんはお盆と間違って出てきたってことはないの?」
ユウちゃんの雰囲気だとそれで納得できる。出る場所も間違っているけど。
「違うと思う、会いたい人がいる気がする」
「そっか誰かに会いたいんだ」
え、今なんて言った?
「会いたい人って、何か思い出したの?」
「うん、なんだか、誰かに会いたいなって思うようになってきて」
何も覚えておらず、無邪気についてくるだけだったユウちゃんに変化があった。
『気がする』『誰か』とかなり曖昧だけれど。
「家族とか友達とか?」
「誰だか思い出せない…」
会いたいけど誰だかわからない。これで相手を見つけるのはまず無理だ。
それでも最初から比べると進展はした。ユウちゃんの未練らしきものが見えて来たのだ。
「最初は会いたいって話もなかったでしょ。焦んないでゆっくり思い出せばいいよ」
「うん、ありがとう…」
何かきっかけとかあったのかな。それがわかればもう少し手がかりになりそうだけど。
元気のなさそうなユウちゃんにそれを聞くのは今はやめておくことにした。
夕方、タローの散歩に行くころにはいつものユウちゃんに戻っていた。何度目かの一人と一匹と幽霊での散歩。
最初はユウちゃんを見て困り顔をしていタローもすっかり慣れたようだ。何度か匂いを嗅ごうとして首をかしげたことはあったけど。
「タローは散歩が大好きなんだね、毎日すっごく楽しそう」
「犬ってそんなもんじゃない?」
雑草の間に何か見つけたのか真剣に匂いを嗅いでいるタローを見ながら会話をする。
トオコにとって一番身近な犬が散歩大好きなタローのため、散歩嫌いの犬がいることは想像もつかないのだった。
途中で畑帰りのおばあちゃんと一緒になった。帰宅してタローを庭につないで夕飯のドッグフードをあげる。
土曜は平日より早く帰宅するお父さんも含めて家族四人で夕食だ。皿洗い当番のトオコはいつもより少し大変である。テレビを見てお風呂に入って自室に戻る。そして寝るまでユウちゃんとおしゃべりをする。
トオコにとってユウちゃんが日常の一部になりつつあった。
中学生くらいの女の子が二人。
ポニーテールの活発そうな子がもう一人に何かを話している。
もう一人の子は楽しそうに話を聞いている。
この二人は誰だろう。ここはどこなんだろう。
日曜日、朝とはいえない時間に起き出したトオコ。他の家族はとっくに起きていてそれぞれ活動している。
炊飯器からご飯をよそって冷蔵庫にあるおかずを適当に取り出して遅い朝食をとりながらぼんやり考える。
「なんか、いつもと違う夢みたなあ」
たまに見る夢は宿題忘れそうとか怖いものから必死で逃げるとかの悪夢。もしくは起きてからあれはなんだったんだという意味不明なものだ。
昨夜だか今朝だかに見た夢はそうではなかった。古い映像を断片的に見たような感覚だった。知らない風景のはずだけどどこか懐かしいような気もする。
まあ、夢のことなんて考えてもわからない。
それより今日は何をしようか。次の週末はトモちゃんアサミちゃんと街に遊びに行く約束をしているけど今日は予定がない。英語の予習しなくちゃだけど。
そうだ、アサミちゃんから借りた漫画を読もう。今度映画になるって言ってたっけ。高校生が主人公の切ないラブストーリーらしい。
「主人公の制服ユウちゃんのに似てるよ、セーラー服」
パラパラと漫画を読みはじめたトオコが言う。ユウちゃんの着ている制服はセーラー服である。この辺りの中学はブレザーばかりだ。
「ほんとだ、ちょっと似てる。でもスカート短いねえ」
ユウちゃんのスカートはひざが隠れるくらい、漫画の主人公はミニスカである。
「今これくらいが流行ってるんだよ」
「トオコちゃんも学校のみんなもこんなに短くないよね?」
ユウちゃんがトオコにくっついていった学校で見た女子たちのスカート丈は膝が出ない程度である。
「短くできないんだよね、先生たちうるさくって」
ミニスカルーズソックスが女子高生の間で流行っている。女子中学生たちもそうしたいけど、ほとんどの学校は制服の規定やら先生の取り締まりが厳しくて真似できない。トオコの学校もだ。
ユウちゃんはミニスカの流行にピンときていないみたいだった。
昔は長いのが流行ってたんだっけ。スケバンとかいうの。うん、あれは絶対違う。
ユウちゃんの制服は作ったときのまま着ている感じがする。入学直後の一年生並に使用感がない。
借りた漫画は二時間ほどで読み終わった。まあまあ面白かった。この漫画で二時まで起きていたというアサミちゃん、日が変わってから読みはじめたんだろうか。
制服の話で思い出した。明日から六月なので学校では衣替えだ。去年は、何人か忘れて冬服のまま登校していた。
トオコは数日前から夏服を目立つところに出してあるのでその心配はないのだけど。
「私も衣替えした方がいいかな〜」
と、長袖と長めのスカートのユウちゃん。
「できるの? 夏服ってどんな感じ?」
「わかんない」
わかんない、の返事は二つの質問両方らしい。
「好きに着替えられたら楽しいのになあ」
とか言っている。初めて会ったときのことを思い出しても外見を変えることはできないようだ。
現時点でのユウちゃんの幽霊らしいところは、トオコ以外に見えないことと物体を突き抜けること。
「いいなあ、夏服かあ、衣替えかあ」
相変わらず学校関係のことに興味津々なのが不思議である。制服のある学校なら夏服冬服の衣替えなんて当たり前なのに。
小学校が私服だったトオコも去年の初衣替えは新鮮だったけど。
「幽霊ちがい」は「ひとちがい」と読んでください。
タイトルはルビふれないんですね。




