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幽霊といっしょに学校へ

 幽霊の女の子に会ったなんて変な夢見ちゃったなあ、ということにしたかった。


 ユウちゃんはいた。昨日と変わらない。トオコと違って目覚ましに叩き起こされたり顔洗ったり着替えたりすることがないので朝の忙しさは関係ないようだ。


 トオコが朝のバタバタの中ひと息ついた時、ユウちゃんが聞いてきた。


 「いっしょに学校行ってもいい?」


 幽霊連れて学校行くってどうなんだろう。ダメって言ったら来ないのかな。そしたら学校行ってる間は家にいるのかな。それもなんだかなあ。


 「いいけど、他の人がいる時は話せないよ。私が変な人になっちゃう」

 「わかった! 大人しくしてる、やったあ」


 とても嬉しそうだ。学校に行くのが当たり前のトオコにとっては不思議な反応だ。ユウちゃんだって生きてた頃は学校に通っていただろうに。


 それに、昨日は勝手に家までついてきたのに学校に行くのは許可取るんだ。


 「学校〜登校〜中学校〜♪」


 なんか歌ってるし。


 通学、仲良しのトモちゃんと合流して学校へ。

 朝のホームルーム、担任の先生から連絡事項。


 一時間目、英語の抜き打ちテストが返却される。予想通りのまあまあな結果。

 二時間目、数学の宿題を無事提出。


 授業の間の休み時間はトモちゃんに加えてアサミちゃんとおしゃべり。

 いつも通りであった。トオコにだけ見えるユウちゃんを除いては。


 トモちゃんと合流してからはユウちゃんと話す機会はなかった。学校についてしまえば一人きりになることはあまりない。


 学校に来てからのユウちゃんはキョロキョロしていた。楽しそうである。珍しいものでも見るような感じだ。学校なんてどこも大差ないんじゃないの。制服姿で学校でキョロキョロしている幽霊の方が珍しいよ。


 そんなことを考えているとトモちゃんから言われてしまった。


 「トオコちゃん今日ぼーっとしてない?」


 ぼーっとはしてない。ユウちゃんが気になるだけである。でもそんな話はできないし。


 「昨日なかなか寝れなくてさー」


 実際はぐっすり寝ていた。八時間くらい寝た。いろいろあったけど。

 

 「ちゃんと寝なきゃダメだよ、って私も漫画読んで二時とかなったけど」


 とアサミちゃん。それは遅い、ちゃんと寝た方がいいよ。


 「何読んだの? 面白かった?」


 ぼーっとしる(ように見える)ことを深く突っ込まれたくないので睡眠ではなくアサミちゃんの読んだ漫画の話に食いついてみた。今度貸してもらうことになった。


 三時間目、四時間目が終わって給食。


 「最初はグー! じゃーんけーん…」


 あまった揚げパンをめぐってじゃんけん大会が開催されている。主な参加者は男子だ。

 小学校からありがちな給食の風景である。


 これもユウちゃんは楽しそうに見ていた。記憶喪失だとこういうのも新鮮なのだろうか。


 「よっしゃあ! 揚げパンゲット!!」


 大会の勝者が決まったらしい。みんなには見えないユウちゃんが勝者に拍手を送っている。本当に楽しそうだなあ、と唯一見えるトオコは思う。


 給食終わって昼休み。トモちゃんアサミちゃんとおしゃべりの続きをする。昨日見たテレビ、最近流行りのファッション、面倒な宿題、部活のこと。あっという間に次の授業の時間だ。


 記憶喪失のユウちゃんはこんな風に友達と過ごしたことも覚えていないんだろうな。それはどんな気持ちなのだろうか。


 五時間目、六時間目、夕方のホームルームに掃除当番。そして部活である。


 トオコは書道部に所属している。小学生の頃に近所のお爺さんがやっている書道教室に通っていたが特別書道に思い入れがあるわけでも字が上手いわけでもない。


 部活に入るのは強制だったので楽なのを選んだ。月曜と木曜の週二回部室に顔を出して何枚か書いて適当に過ごしていれば良いのだ。


 トモちゃんは吹奏楽部、楽器の入ったバッグは重そうだがいつも軽々持っている。

 アサミちゃんは卓球部、部活用にヘアピンで前髪を止め直している。

 三人とも違う部活なのでここで解散だ。


 「部活いいな〜、楽しそう」


 トモちゃんたちと別れて部室に向かう途中、少しだけ会話した時にユウちゃんが言った。ユウちゃんはどんな部活をやっていたんだろうか。


 この日は珍しく顧問の先生が顔を出した。


 「町の書道展のお知らせが来ました、みなさん読んでおいてくださいね」


 そう言って先生がチラシを配る。人数が少ないのですぐに行き渡る。


 『平成十年度 ⚪︎×町書道展作品募集のお知らせ』


 地元の小中学生や趣味でやっている大人の作品を展示するごく小さなものだ。書道部も毎年参加している。そうだそんな時期だった。


 「遠野ちゃん、二年生だしエースってことで!」

 と三年生の部長が言う。


 「いや意味わかんないです。先輩たちこそ卒業前の思い出に!」

 とトオコが返す。


 「いやいやここは期待のホープである一年に!」


 今度は副部長が一年生に話を向ける。ユウちゃんはこんなことをやっている書道部員たちを楽しそうに……ではなくチラシの方を見ていた。

 

 「ねえ、たいらなるってなあに? ひらせいかな?」


 部活が終わり家が同じ方向の部員とも別れて一人になったトオコにユウちゃんが聞いた。

 たいらなる? ひらせい? 何それこっちが聞きたい。どこから出てきた言葉なんだろう。


 「えっと、書道展のチラシにあった……なんとか十年のなんとか」


 書道展のチラシ、なんとか十年。平成十年度書道展。


 「へいせい十年」

 「へいせい?」


 と言ったユウちゃんは頭の上にハテナマークを浮かべているような顔をしている。


 「明治大正昭和平成の平成だよ、知らないの?」


 記憶喪失だから年号なんかも忘れちゃっているのかな。


 「明治大正昭和は知ってる!」


 ユウちゃんは『平成』だけ知らなかった。昭和まで知ってるなら記憶喪失が原因ではないようだ。


 見た目は同い年くらいだけどトオコよりかなり年上だったりするんだろうか。生きていたら。

 トオコもお母さんお父さんもおばあちゃんも三世代昭和生まれである。どの世代だろう。昭和は長かった。


 「今年は西暦なら1998年だよ」


 西暦に直したらわかるかな。⚪︎歳になってる!みたいな返事を期待したが返ってきたのは予想外のものだった。


 「ノストラダムスの大予言が来年だ!」

 「知ってるの!?」


 ノストラダムスの大予言とは1999年の7月に世界が滅亡するという有名なオカルトである。恐怖の大王がやってくるとかなんとか。間近に迫っているのもありブームになっている。

 この話を知ってるならそんな昔の人でもない? いつからブームになったんだっけ?

 二人でいろいろ話してみたけど、ユウちゃんは生まれた年とか世代とかにつながるようなことは思い出せなかった。


 それでも、ほんのわずかだけど、昔のユウちゃんの手がかりができた。

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