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三人いっしょに

 夏期講習終了の翌日、普段のトオコなら解放感で昼近くまで寝ていただろうが今日はやりたいことがあったので早めに起きた。夏休みにしては、だけど。


 「お父さん、カメラ貸してー」

 「二人そろってカメラか。どうしたんだ急に」


 先客がいた。チズちゃんも借りにきていた。


 「おはよー。夏の思い出にトオコと写真撮ってこうと思って」

 「おはよー。私もチズちゃんと撮りたいなって思って」


 理由も同じだった。トオコにはこっそりユウちゃんも入れて三人でのつもりだけど。今日を逃すと次にチズちゃんに会えるのはお正月だ。


 「だったら撮影は任せろ! どこで撮る? リビングかそれとも庭か」


 お父さんが撮影係をやってくれることになった。特別カメラの扱いが上手いわけではないけど家族写真はよく撮ってくれている。


 何故かお父さんが一番張り切っていた。ひとまず朝食を食べてからということになった。


 「ユウちゃん、今度こそ三人で写真撮ろう」



 最初にトオコとチズちゃん。次にタローも加えて。せっかくだからとお母さんとおばあちゃんも。最後にはタイマーを使ってお父さんも入れて全員で。ちょっとした記念写真の撮影会になってしまった。早く現像したのを見たいので撮る枚数が増えたのはいいことだ。


 「お、ちょうど使い切ったな。チズの分は正月にきた時でいいか?」

 「早く見たいからできたら送ってよ。あ、そろそろ上のおばあちゃんち行ってくるね」


 昨日の夜言ってたっけ、上のおばあちゃんに挨拶してくるって。トオコもいっしょに行きたいがどう切り出そうか迷う間も無くチズちゃんが言った。


 「トオコもいっしょに行く?」

 「うん!」


 そして小さな声でもう一言トオコの隣に向かって。

 「ユウちゃんもいっしょに行こ」



 トオコとチズちゃん、そしてユウちゃんの三人で上のおばあちゃんちに向かう。


 「チズちゃんさっきの、ユウちゃんも行こって」


 「トオコの側にユウちゃんがいるんでしょ。これは変なこと言ってないよ確信だからね」


 いたずらっぽく笑いながら答えた。チズちゃんは見えてないけどわかっているんだ。今朝の写真もきっとそうだ。


 二人で話しながら歩っているとすぐにつく。チズちゃんが声をかける。少し待つと上のおばあちゃんが出てくる。トオコも挨拶をする。


 上のおばあちゃんはニコニコしながら招き入れる。お茶は三人分出されてた。

 チズちゃんが今日訪ねた目的を簡単に話す。


 「と、言うわけでユウカちゃんの写真が見つかったので今度あったときにおばさんに渡そうと思います」


 チズちゃんは写真を持ってきていた。上のおばあちゃんは目を細めて言った。


 「ありがとうね、チズちゃん。このユウカとても楽しそうだねえ」

 「今度焼き増ししておばあちゃんの分も持ってくるね、フィルムも探さなきゃ」


 写真はチズちゃんの分とユウちゃんに渡そうと思っていた二枚しかない。


 「そんな気を使わなくていいよ、これを娘に渡してくれるだけで十分だよ」


 上のおばあちゃんは写真をとても大切そうに見つめている。

 ユウちゃんにとっては実のおばあちゃんである。紫陽花の季節には思い出せていなかった。


 「おばあちゃん……私思い出したよ。忘れちゃっててごめんね」


 泣きそうな嬉しそうな申し訳なさそうな顔。ユウちゃんのこんな表情は初めて見る。


 この後、少し雑談をしてお暇した。上のおばあちゃんはトオコとチズちゃんにお菓子をくれた。二人分には多い。前に回覧板を持ってきたときもいつもよりお菓子が多かった。ユウちゃんがいたからかもしれない。今日お茶が三人分だったのもお菓子が多いのも。



 もうすぐトオコの夏休みが終わる。一見いつも通りだったけど全然違った夏。

 とっくにお休みが終わって仕事をしているチズちゃんから電話がかかってきた。


 「お盆の写真届いたよ、ありがと!」


 現像した写真を送ったお礼の電話だった。


 「どういたしまして、ってほとんどお母さんがやってくれたんだけどね」


 フィルムを現像に出したのも受け取ったのも焼き増ししたのを送ってくれたのもお母さんだ。カメラマンの延長で張り切っていたお父さんは、仕事が始まると時間がなかったのでお母さんがやることになった。お父さんが張り切っていたのは、最近家族写真を撮る機会が減っていたかららしい。


 「今度こそ、三人で写真撮れたね」


 トオコとチズちゃんで撮った写真にはユウちゃんも写っている。トオコの目にはそう見えるが両親にはユウちゃんは見えていなかった。おばあちゃんも見えていなそうだったけど何かを感じ取っている風だった。チズちゃんはどうなんだろう。


 「うん、私とトオコとユウちゃん撮れてるね」


 上のおばあちゃんちにチズちゃんと行った日の夜、それがユウちゃんと会った最後だった。


 「トオコちゃん、いろいろありがとう」

 「どうしたの急に、お礼言われるようなことしてないよ」


 ユウちゃんはなんだかすっきりとした表情だった。最初に会った何も覚えていないときや夢の中のどこか弱々しさを思わせるのとは違った表情。


 「もうすぐ会えなくなる気がして。だからお別れの前にいろいろ話しておきたくて」


 チズちゃんとの再会や写真のことで成仏できるということだろうか。


 「自己満足になっちゃうけど聞いて欲しいの、いろいろ思い出したから」

 「うん、いいよ聞くよ。お話して」 


 ユウちゃんことユウカは幼いころから体が弱く病院と自宅を往復するような生活をしていた。学校には行ったことがなかった。両親が買ってくれた本をよく読んでいたという。前にいっていた本をいろいろ読んだというのはこのことだった。ユウカにとって学校というものは物語の中の世界の一つだった。


 「小学校のランドセルも中学校の制服も買ってもらったんだけど、使う機会なかったの」


 中学生にあたる年齢になったころ、空気の綺麗なところで静養するということになった。それが母方の祖母の家、上のおばあちゃんちだった。そこにやってきた近所の女の子、回覧板を以てきたチズコと仲良くなったのだ。


 「同世代の子とちゃんとお話ししたの初めてだったんだ」


 普通に学校に通っているチズコの話を聞いて学校というものを前より近く感じるようになった。遠い世界と思っていたけれど自分も行ってみたいと思うようになった。


 「幽霊になって制服着てるの、そのせいみたい」


 チズコといっしょに学校に行ってみたかった。授業や宿題やテストを受けて友達とそれについて愚痴ったりしてみたかった。部活もやってみたかった。


 「無理だってわかってたんだけどね」


 チズコと写真を撮った年にユウカは亡くなった。両親の嘆きは相当なもので幽霊になったあとも離れられなかったという


 「お父さんとお母さんにはずっと心配かけてて、死んじゃった後も引きずってたから私が心配になっちゃって」


 それが今年になってユウカの母がチズコと偶然に再会した。お互い最初は相手がユウカの母、友人であることがわからなかったが地元が同じ、という話からつながった。


 ユウカの母はそこで娘に友達がいたことを知った。いや、ユウカの祖母から話は聞いていたが、友達本人に会って娘の話を聞いて初めて実感したのだ。娘にも楽しい時間があったのだと。


 「それからお母さん変わってね、前ほど心配じゃなくなったの」


 両親への心配がなくなったらこの世に未練はないと思っていた。でもその心配がなくなったら心残りが出てきた。それがチズコという存在と、チズコを追いかけてやってきた幼いトオコと三人で写真を撮ろうとしたことだった。


 「どうしたらいいかわからなくて迷ってたら、近くには来れたけどいろいろ忘れちゃってたの」


 記憶の喪失は遠い場所へやってきたことの代償だったのか。話を聞いただけでやってくるお化けの怪談話もあるけどユウちゃんはそうはいかなかったらしい。


 「でも、トオコちゃんといっしょに過ごしながら思い出せて良かったよ」

 「学校行けて良かった?チズちゃんじゃなかったけど」

 「うん、トオコちゃんと行けて良かった。大人になったチズちゃんと会えてよかったよ」


 ユウちゃんの話を聞いたあとは今までみたいに他愛のないおしゃべりをした。いつもより遅くまで。


 「おやすみ、ユウちゃん」

 「おやすみ、トオコちゃん」


 次の朝起きたときには、ユウちゃんはいなかった。 

 おばあちゃんが家の中が寂しくなったと言っていた。チズちゃんが帰っただけではないと思う。

 夕方の散歩のとき、タローがキョロキョロしていた。誰かを探しているようだった。

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