夏期講習と探し物の終わり
夏期講習もそろそろ折り返しだ。慣れてきたと思ったら学校ではやらない応用問題も混ざり始めて難しくなってきた。
「この期間で振り返りと応用やるってキツくない?」
「だよねー、でもじっくりやってずっと夏期講習てのも嫌だよ」
「確かに」
いっしょに参加しているアサミちゃんや他の子たちと愚痴りあった。
今日は親戚が遠野家に訪ねてくる日だ。他の日の場合もあるけど今日が一番多いはず。去年はお茶だのお菓子だのを出すお手伝いをしていた。勉強とどっちがよかったかな。チズちゃんが手伝うって言ってたけど、写真探しはどうなっただろう。
「疲れたー!」
トオコが帰宅すると、いつも元気なチズちゃんが本当に疲れている様子でそう言った。
「今日みんな来たの? 大変だった?」
「大変だった! 彼氏は? 結婚は?ってうるっさいの!!」
トオコが想像していたのとは違う大変さがあったらしい。
チズちゃんが結婚かあ。そろそろしてもおかしくない年齢ではあると思う。
「まだそんな気ないし。今はさ、別にクリスマスケーキじゃないし」
珍しく愚痴っぽいチズちゃん。親戚のおじさんおばさん達からの結婚しろ攻撃で相当参っているようだ。ところでクリスマスケーキってなんだろう。(女性の結婚適齢期をクリスマスケーキになぞらえた時代があったがトオコは知らない)
その近くでお父さんがなんだか暗くなっている。トオコが疑問に思ったのに気がついたお母さんが説明する。
「お父さんもおじさんたちといっしょになってチズちゃんに早く結婚、って言い出してね。それでチズちゃんが『そしたらトオコも十年後にはお嫁に行っちゃうよ!』って。それで落ち込んでるの」
お母さんは笑っているがお父さんは本気で嫌がっているようだ。
「トオコが嫁に行くなんて考えたくない!」
「そうねお婿さん貰わなきゃ」
お母さんの返しは本気なのか冗談なのか。
「それも嫌だ!」
まるで駄々っ子である。というか、なんで中学生の自分がこんな話に巻き込まれなくてはならないのか。十年後ってかなり先なんだけど。
「お父さん、トオコちゃんが可愛いんだね」
楽しそうに言うユウちゃん。
「気が早いし私を巻き込まないで欲しい……」
チズちゃんほどではないけど疲れた顔のトオコ。
恒例になっている寝る前のユウちゃんとの会話だ。
この感じで話すのは数日ぶりだ。いろいろ気になってはいるけど、この雰囲気を壊すのが嫌で気になっていることの話はしなかった。ユウちゃんからも出なかった。
その夜に見た夢。
「ちいちゃん!」
ポニーテールの女の子、チズコをちいちゃんと呼ぶ声がする。
これは十代の少女のものではない、もっと幼い。
夏期講習の最終日、開放されて嬉しいのと知り合った他の学校の子たちと会えなくなるのが残念なのと半々だった。終わってみれば悪くない経験だったと思う。受験が間近に迫ったらこんな悠長なことは言ってられないかもしれないけれど。
チズちゃんの帰省も明日までだった。写真は見つけることができたと夕飯のときに言った。
友達との写真を探していることはトオコ以外の家族も知っていることだったので全員いる場で報告したのだ。だいたいの事情も含めて。
「明日、上のおばあちゃんに挨拶して写真は柚原さんつまりユウちゃんのお母さんに渡そうと思うの」
今のチズちゃんがユウちゃんに物を渡すことはできない。見えているトオコだってできない、ドーナツはお供えみたいなものだった。家族に渡すのが一番良い方法だと思う。
見つかった写真を見せてもらった。上のおばあちゃんちの縁側に二人の女の子が並んでいる。トオコも記憶にあるポニーテールのチズちゃん、夢の中でしか見たことのなかった制服姿ではなく幽霊でもないユウちゃん。写真に写っているユウちゃんはとても嬉しそうに微笑んでいた。
やっとユウちゃんとの写真が見つかった。お盆休みいっぱいかかるとは。写真だからアルバムの中だと思ったのに引き出しの中にしまってあった。自分用とユウちゃん用の二枚、渡すつもりで可愛い封筒を準備してた。渡せなかったので入れっぱなしにしてあった。
アルバムをお母さんに借りたとき、夏休みの始め頃にトオコにも貸したと言っていた。初めは気にしなかった。休み中の暇つぶしにでも見ていたのだろうと思った。
トオコに会うとすごく懐かしい気配がした。あの当時の私たちと同じ年頃だからかな、くらいに考えていた。
話の流れでトオコが友達と撮ったプリ●クラを見せてもらったらユウちゃんがいた。写っていたわけではない、姿は見えない。でも確実にいた。
どうしてトオコのところに?ユウちゃんと何か接点はあっただろうか。




