「ちいちゃん」と「チズちゃん」
「私、遠野千鶴子。チズでいいよ」
「チズちゃん。私は柚原夕花です。ユウでいいよ」
「ユウちゃんだね、よろしく!」
久しぶりの女の子二人の夢だ。チズちゃんとユウちゃんが自己紹介をしている。初めて会ったときだろう。本名はユウカちゃんなんだ、ユウちゃんと言う呼び名は偶然にも当たっていたらしい。
……?ユウちゃんはチズちゃんをちいちゃん、って呼んでるよね。
久しぶりのちいちゃんとの夢だ。これは初めて会ったとき。そうだ、ユノハラは私の苗字だった。下の名前はユウカ。トオコちゃんにとりあえずの呼び名で『ユウちゃん』と言われて嬉しかったのはちいちゃんからもそう呼ばれていたからだ。
……?夢の中の私は『ちいちゃん』ではなくて『チズちゃん』って呼んでる。
昨日見た夢の話をユウちゃんとしたかったけれど、時間がなかった。午前中から夕方まで夏期講習だ。塾ではアサミちゃんだけでなく他の学校の子とも話すようになった。勉強は嬉しくないけどいいこともあるものだ。
勉強している時間は長く感じるけど一日が終わるとあっという間だった気もする。迎えは今日から休みのお父さんだ。
「チズが昼間部屋で荷物ひっくり返してたんだよ」
チズちゃんの部屋はまだ残してある。おばあちゃんにより半分物置と化しているがチズちゃんの私物を捨てたりはしていない。今回いつもより帰省が長いのは探し物があるからだろうか。
「えーどうしたんだろうね」
「友達との写真が見つからないとか言ってたなあ」
チズちゃんと友達の写真。夢の中でユウちゃんといっしょに撮ってたけどそれだったりして。でもチズちゃんは友達が多いので、全然関係ない人かもしれない。
写真といえばユウちゃんが写っちゃったプリ●クラあったなあ。でもトモちゃんとアサミちゃんには見えてなかった。チズちゃんはどうだろう。
今晩は昨日のメンバープラスお父さんの五人の食事である。お父さんは無口ではないけど女四人に押さ
れてかあまり会話に入れてない。そのお父さんから先ほど聞いた話を出してみた。
「チズちゃん写真探してるんだって? 見つかった?」
「まだなんだよね。絶対あるはずなんだけど。そうだトオコはプリ●クラとか撮ってるの?」
写真がユウちゃんとのものなのか探りをいれたかったけど上手くいかなかった。
でも話の流れで最近撮ったプリ●クラをチズちゃんに見せることになった。これはこれで何か進展するかもしれない。
夕食後すぐにトオコの部屋でこれまで撮ったプリ●クラをチズちゃんと見返した。とは言ってもそれほど枚数は多くない。近くに撮れるとこないし、お小遣いだって限りあるし。
「これトモちゃんだよね、こっちの子は中学の友達?」
「そうだよ、こっちはアサミちゃん」
他の子と撮ったのもあるけど三人でのものが一番多かった。プリ●クラ取れるくらいの遠出するような仲となると限られてくる。これを撮ったときは何をしたなんて話もした。大人で都会暮らしのチズちゃんにはたいしたことないかな、と思ったけど逆の反応だった。
「いいなー学生たのしそー!」
「都会の方が遊べるとこあって楽しいんじゃないの?」
都会なら同じ中学生でもいろんなことができそうだ。社会人のチズちゃんなら尚更だ。お金稼いでるし車も運転できるし外出するのに親の許可いらないし。
「うん楽しいよ、でもさ学生時代の楽しさはまた違うからさ」
そういうチズちゃんの視線が止まる。
「あれ? これなんかすごく懐かしい感じがする」
「懐かしい? 写ってるの私と友達だよ」
チズちゃんはトモちゃんのことは知っている。既にトモちゃんの話はしているので懐かしさを感じているのはそこでは無いだろう。チズちゃんが懐かしさを感じるような子と撮っただろうか。
「なんだろう、このへん」
例のユウちゃんが写ってしまったやつだ。指を指したのはまさにユウちゃんが見切れているところだった。
「このへん、って?」
もしかしてチズちゃんにはユウちゃんが見えているのだろうか。いや、それならこの言い方にはならない。
「ちょっと変なこと言うけど」
と前置きしてからチズちゃんは言った。
「最初はさ、他のみたいにトオコとトモちゃんとアサミちゃんが写ってるなーってだけだったのね。で
もこのあたりにもう一人いるような感じがして。じっと見てたらそれが昔仲良かった子な気がして」
チズちゃんはトオコほどはっきり見えているわけではないらしい。でも何かを感じている。
「昔仲良かった子?」
「うん、探してる写真に一緒に写ってる子」
チズちゃんは探している写真とその友達について教えてくれた。
中学生の夏休みに友達と撮った写真であること。その写真はチズちゃんがお父さん(トオコ父、チズコ兄)のカメラを借りて撮ったこと。現像したものを渡す機会がなかったこと。
「渡せなかったって転校とか?」
「学校の友達じゃないんだ。昨日話した柚原さんの娘、上のおばあちゃんの孫だね。上のおばあちゃんちにいた時期があるんだ。私が中学の頃」
その子は病気がちでほとんど学校に行けていなかった。療養で空気のいい場所、上のおばあちゃんの家に来たのが中学生になってからでそのときに知り合って仲良くなった。
「次に会ったときに渡すね、って約束してたんだけどその前に亡くなっちゃったんだ」
友達が亡くなったと言うのはおばあちゃん(トオコ祖母、チズコ母)から聞いた。お別れをする機会もなくチズちゃんとしては実感がなかった。
「体弱そうだったけどさ、友達が亡くなったなんて信じられなくてね。写真は直接渡すんだ、なんて思ってて。でも渡せないから仕舞い込んだままになっちゃって」
それを柚原さん、つまりユウちゃんのお母さんに再会したことで写真の存在を思い出した。
「柚原さんの話聞いてたらユウちゃん、友達ね、本当に亡くなってたんだなって」
やっぱりユウちゃんの友達はチズちゃんだったんだ。
「覚えててくれたんだ、私のこと」
寝る前、二人だけになったときにユウちゃんが言った。良かった、のかな。直接話したりはできなかったけど。
「写真、見つかるといいね」
こんなときにかける言葉はこんなのでいいのだろうか。
「うん、でも覚えててくれただけで嬉しいよ。すごく、嬉しい」
ユウちゃんの思い残したことはチズちゃんの探している写真なのだろうか。
そういえば呼び方の件が解決していない。ちいちゃんとチズちゃんの差はなんだろう。
ちいちゃんは私のことを覚えていてくれた。一緒に撮った写真のことも。
ちいちゃんはすっかり大人になっているのに。
あの頃のままの私はいろんなことを忘れちゃっていたのに。
トオコちゃんに会って、ちいちゃんともお話しできないけど会えて、いろいろ思い出した。
でも肝心なところがまだだ。私の未練はあのときの写真、なのだろうか。
ちいちゃんとチズちゃんの呼び方の違いが何故なのかもまだ思い出せていない。




