普通の中学生と記憶喪失の幽霊
「あの、道に迷ってしまって」
下校中のトオコに話しかけてきたのは見知らぬ少女だった。
年は同じくらい。どこかの学校の制服を着ているが見覚えはない。
ということは地元の人間ではない。同年代なら皆顔見知りという田舎である。
「迷ったの?えっと……」
よその子が一人でこんなところに?なんの用で来たのだろう。わざわざ遊びに来るようなとこでもないし…などとトオコが考えながら返事を探していると少女は更におかしなことを言い出した。
「よかった、私が見えてるんだね」
「え、見えてるけど」
「私、幽霊なの」
「はい?」
それがトオコと幽霊少女の出会いであった。
遠野透子は幽霊につかれてしまった。
霊感なんて特殊能力はない。見た目も標準的、身長は同級生女子の中ではちょっとだけ高い方だけどそれくらい。ごく普通の中学生だ。
そんなトオコが下校中に知らない子に話しかけられてなんだろうと思いつつ返事をしたら幽霊だったのだ。
トオコ視点では普通に歩いて普通に喋っている普通の女の子に見えるので最初は変な子だと思った。
なぜかついてくる少女と一緒に自宅へ向かう途中、近所のおばさんや畑仕事をしているおじいさんに挨拶をしたけれどいつも通りだった。こんな田舎で知らない学校の制服の子がいたら珍しさからあれこれ聞いてくるはずだ。トオコちゃんのお友達?どこから来たの?なんて具合に。もし聞いてこなくても見慣れない人に向ける視線はわかる。そういうのが全くなかった。
周りに誰もいないことを確認して改めて聞いてみる。
「……私以外に見えてないってこと?」
「そうみたい。そうだ、こんなことできるよ〜」
そういうと少女は目の前にある電柱に腕を突き刺した。腕が電柱をすり抜けている。生きている人間ではありえない。手品師ならできるかもしれないけどこの状況で手品を披露されるのもありえない。
と、いうことは……
「うわああ、心霊スポットに行ったわけでもないのに幽霊に取り憑かれた!」
「取り憑いてないよ〜。何も悪いことしてないじゃない」
「今んとこそうだけど!なんで私についてくるの」
「他に話せる人いないんだもの」
そう言われると少しかわいそうな気がしてくる。取り『つかれた』のではなく、な『つかれた』ようだ。
ついてくる幽霊を観察してみる。セーラー服、長い髪、色白で小柄のごく普通の女の子に見える。トオコは思ったことを言ってみた。
「幽霊のイメージと違うんだよね、血みどろだったり体の一部がなかったりとかするんじゃないの?」
「血みどろ?そっか幽霊っぽいね。うらめしや〜!」
両手をだらりと垂らす幽霊のおなじみポーズをやっている。ポーズだけである。見た目が恐ろしい姿に!なんてことはなかった。
誰かを恨んでとかじゃなさそうだなあ。でも幽霊になってわざわざ出てくるんだから理由があるのでは。何かに未練があるとか。そうも見えないけど恨みよりは可能性がある気がする。
「何かやり残したことでもあるの?幽霊になった理由とかさ」
「わかんない。実は何も覚えてないの」
幽霊少女はちょっとだけ申し訳なさそうにしながら答えた。
生前の記憶がなかったのだ。自分の名前すら覚えていないという。記憶喪失の幽霊なんてどうしたら良いのか。
名前がないのは不便なのでとりあえずユウちゃんと呼ぶことにした。幽霊のユウである。なんとも安直な名付けだが、ユウちゃんは特に気にした様子もなく受け入れた。なんなら少し嬉しそうだった。
悪い子じゃなさそう、普通に知り合ってたら友達になったかもしれない。幽霊への薄気味悪さは感じるものの、ユウちゃん自体は嫌いではない。トオコにだけ見えるというのは成仏を手伝えということだろうか。
まったく手掛かりがないのが最大の難点なのだが。
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