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浸水

水にまつわる短編ホラー。

怪奇の入り口は身近に潜んでいるのです。

吉川「熱いー」

そう話し、吉川由良は500mlのペットボトルを一気に飲み干した。吉川は現在高校2年生である。全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会を目指していた。いわゆる"インターハイ"と呼ばれる大会だ。


田中「いやー、死んじゃうかと思った」

吉川の隣には同じくチームメイトの田中美穂が業務用扇風機の前で涼みながら話す。彼女は中学からの幼なじみである。栗色の髪色のボブカットに笑ったときに見える八重歯が特徴だ。



(今年こそは)

吉川の所属するチームは今年シード権を獲得している。これは去年、一昨年と好成績を残して頂いた先輩方のおかげである。


田中「あ"ぁ"〜、よっしー飲み物買って来て〜」

吉川「えぇ、自分で買って来てよ」

扇風機に当たりながら田中が甘えたように言う。


田中「だって、よっしーもう飲み物ないんでしょ?」

吉川「あっ、本当だ。でも、さっき飲んだし、私は喉乾いてないからなぁ、、。」

相変わらず人のことをよく見てるなと吉川は思った。バレーの試合でも彼女の観察力には助けられたこともある。


田中「ダメだよっ!」

吉川「なんでよっ!」

田中は真剣な眼差しで言った。


田中「喉が渇いたと思ってから飲んでも遅いんだよ?定期的に飲まないと!」

田中「あ、ついでに私のもお願い!」

吉川「まだ買いに行くともなんとも言ってないけど、、」

田中「ありがとう」

吉川「はいはい」


田中は扇風機の前で陣取って動こうとしない。試合中の田中はもっと機敏に動くが休憩になると途端に糸が切れた操り人形のようにぐうだらになる。不思議な人だと吉川は思った。


(全く変な子、、)

吉川は田中の変なリズムに乗せられ結局ジュースを買う羽目になった。体育館付近には合計5ヶ所自販機が存在している。一番近い自販機は体育館から出て廊下をまっすぐ行くと突き当たりにあるのだ。


時刻は18時をまわっていることもあり、廊下は薄暗い。まだ部活動をしている学生もいるが、その大半は運動部であり、別館の体育館かグラウンドを使用している。よって校内は静まり返っている。


吉川はタオルを首にかけて自販機を目指す。吉川が歩くたび、バレーボールシューズがキュッキュッと廊下を鳴らす。


体育館から自販機まではおよそ200mくらいである。体育館を出て数分とたたないうちに自販機が見えて来た。


(そういえばあの子、ジュースは何が良いんだろ?)

吉川は田中ぬ希望のジュースを確認するの忘れていた。それに気付いたときにはすでに自販機の前だった。


(とは言ってもそんなに種類はないけどね)

学校に置かれてる自販機はスポーツ飲料かお茶、水、良くてコーヒーくらいである。


(まぁ、希望がなかったってことはなんでも良いんでしょ)

吉川は同じスポーツ飲料を2本買った。500mlのペットボトルである。


"ゴトン、ゴトン"

音を立ててペットボトルが自販機の取り出し口に落ちて来た。


吉川は取り出しからペットボトルを出そうとするのだが、なかなか取り出せない。


2本ペットボトルを自販機で買った経験者ならわかると思うが、2本同時に買うと取り出し口で引っかかってスムーズに取り出せない。


(よいっしょ)

何とか1本取り出せた。残りの1本を取り出そうと手を取り出し口に右手を手を入れた瞬間。


"ボト"


右手の手の甲に一雫が落ちて来た。


(雨漏りかな?でも、最近晴れてたよね?)

吉川は不思議そうに上を見た。


すると、天井には黒いシミがあった。直径は10cmくらいである。



吉川が不思議そうに見つめていると、天井からいくつかの雫が落ちて来た。


(きゃっ)

一つ目は右頬に、二つ目は額に、そして三つ目は唇にあたり、唇の形に添いながら口角から口腔内に入ってきた。


「おっ、お"ぇ"!」

途端に口腔内に信じられない苦味が広がっていく。その苦味は形容しがたく、とにかく口を濯ぎたい


ここから洗面所までは遠い。吉川は口腔内に広がる不快感が、徐々に嘔気に変わっていくのを感じる。


(ダメだ気持ち悪い、、)

吉川は慌てて自分が買ったペットボトルを口に含む。廊下に吐き出す。しかし、一向に不快感は変わらない。再度口に含む、吐き出す。これを数回繰り返す。ペットボトルの中身が半分になるくらいには濯いだ。しかし、状況は変わらない。むしろ苦味が増して来た気さえする。


(気持ち悪い、、なによこれ、、)

しかも、足が痺れてきた気がする。


立っていられなくなり廊下にへたり込む。


こめかみが脈打つのを感じる。わずかに息苦しくなった。


座ってられなくなり、そのまま床に横たわる。床の冷たさを感じながら吉川は意識をなくした。



次に目を覚ましたときには病院のベッドの上だった。


(眩しい、、)

天井の白色蛍光灯の光が、吉川の瞳を差し込む。

その光量に一度目を閉じる。


「よっしー!よっしー!」

この声は田中だろうか?


「由良ちゃん!」

今度は母だ。


自分の名を呼ばれ、身体を揺すられる。

目がしみる感覚に襲われながらも、ゆっくり瞼を開ける。


母「起きた!由良さん良かったね!」

と涙ながらに語る母。余程気が動転しているのか実の娘にさん付けである。


田中「よっしー、良かった!心配したんだからね!本当に!」

こちらもこちらで顔がクシャクシャになりながら泣いている。


(一体何があったの?)

吉川「大丈夫」

(⁉︎)

吉川は自分の思惑とは別に言葉を発した。


母「本当に?お風呂からなかなか出ないから見に行ったら倒れてたのよ」 

吉川(えっ、どう言うこと?)

田中「練習ではあんなに元気だったのに、家で倒れたって聞いて驚いたよ!」

吉川(待って!私は休憩にジュースを買いに行って、、)

吉川は自分の記憶を必死に繋ぎ合わせる。が、どう思い返しても自販機の前で記憶が途切れているのである。


(田中ちゃん!私に何があったの?)

吉川「心配かけてごめんね。私は大丈夫安心して。」

吉川の思考を全く意に返さず口から言葉が出る。まるで自分の口が別の生き物かのようである。



(違う!私の聞きたいことが聞けない!)

吉川「ごめん、トイレに行きたい。」

(待って、私は今はトイレに行きたくない!母さん待って!行かないで!)

吉川の思考とは無関係に身体が動く。上半身が起き上がり、両足を片足ずつベッドサイドに降ろす。


母「えぇ、良いわよ。田中さん、良かったら由良さんに付き添ってあげて貰える?私お医者さん呼んでくるから。」 


(由良さん?いつもは私のことゆーちゃんって呼ぶのに、、。)

吉川の母は基本的に吉川のことを"ゆーちゃん"と呼んでいるのである。叱るときでさえ"由良ちゃん!"と呼ぶのだ。吉川はお母さんが実の娘に"さん"付けで呼んでいることなんて今までに一度もないのである。



田中「?」

田中は不思議そうな顔をする。


母「どうしたの?」

田中「いや、田中さんって呼ばれるの珍しいなって思って、おばさんはいつも私のこと美穂ちゃんって呼ぶから、、」

吉川のみならず田中も違和感を感じている様子だ。



母「あら、そうだったわね。うっかりしていたわ。」

田中「うっかり、、?」

2人の会話を聞きながら吉川は確信した。


(この人、お母さんじゃない!!)

姿形は母だが、何かが違う。まるで何かが母に乗り移ったように感じ、言いしれぬ恐怖を感じる。


(私が気を失っている間に何が起きたの?!)

吉川は自分が置かれている状況に混乱していれる。


母「娘が入院して気が動転していたのよ。お願いね、美穂ちゃん。」

何故か微笑んでいる吉川の母。


田中「は、はい!」

田中「よっしー歩ける?大丈夫?肩貸そうか?」

田中は吉川に寄り添って支える。


(違う、私じゃない!!"何か"が私を操ってる!!)

吉川は必死に自分の異常な状況を親友に伝えようとする。


吉川「ありがとうございます」

が、吉川の思考を無視し、言葉が勝手に出てくる。


田中「なんで敬語なのよ?私たち親友でしょ?」

吉川は田中を支え笑いながら言う。


(田中ちゃん気付いて!私じゃないの、身体は私だけど私じゃない!)

吉川「そうだね。可笑しいアハハハ」

吉川は笑いながら田中に支えられトイレに向かう。


トイレは病室にはなく病棟に2ヶ所存在している。


幸いにも吉川の病室からは近く、病室を出て左手の突き当たりにエレベーター、右手に1〜2m進むとナースステーションがあり、さらに進むとトイレがある。


田中「ま、まぁでも良かったね!何事なくて!」

吉川「....」

(一体どうなってるの)

混乱しながらも吉川の身体は勝手に歩をすすめる。ゆっくりとトイレに向かいながら吉川は考えた。


(何が、私の身体を動かしているの、、)

身体を"何か"が、動かしているので思考に集中できる。今まで何か変わったことは無かったか。


(あっ、あのとき口に入ってきた水滴、、、)

吉川は思い出した。意識が無くなる前に口の中に水滴が入って口の中に苦味が広がった。あの嫌な感覚が再び蘇ってきた。


(私の身体はあの"水滴"に操られている?)

吉川は思考を繰り広げていた。


(そういえばお母さんもいつもと様子が違った。もしかして、、、)

そのとき、吉川の頭の中に映像が浮かぶ。天井から垂れて来た水滴がまるで意識を持ったように動く。それは母が眠る寝室に移動し、睡眠中の母の口腔内に侵入していく。


(そ、そんな、、、)

吉川は絶望した。


ナースステーションの前を通りすぎたとき、ナースステーション内で仕事をしていた看護師が二人に気付いて驚いた様子で飛び出して来た。


看護師「ちょっと吉川さん大丈夫?目が覚めたのね!」

看護師が駆けつけるなり吉川に寄り添い声を掛けた。看護師の名札には清水と書かれている。


清水看護師「ごめん、誰か吉川さんの主治医に連絡して!」

清水看護師はナースステーションに居る他の看護師に声を掛けた。


田中「あっ、あの」

清水看護師「どうしたの?」

田中「さっき吉川さんのお母さんが主治医を呼びに行かれたんですが、会ってませんか?」

清水看護師「吉川さんのお母様?いやナースステーションには来ていませんよ?そういえばどちらに行かれたんでしょう?」

田中「そ、そうですか、、」

田中は不思議そうにしていた。


清水看護師「で、二人はどこに行こうとしていたんですか?」

田中「あっ、お手洗いに行きたいって言ったので付き添ってあげていたんです。」

吉川「私はトイレに行きたいです。」

清水看護師「そうなんですね!なら代わりますよ。吉川さん一緒に行きましょうか!」


田中(私なんかより看護師さんの方が頼りになるか、、)

田中「ありがとうございます。お願いします!」

田中は吉川を看護師に託しトイレに向かう二人を見送った。


人生初の小説です。

お手柔らかにお願いします。

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