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導水

水にまつわる短編ホラー。

怪奇の入り口は身近に潜んでいるのです。

「わぁー!もぅー無理っ!」

そう言いながら頭を掻きむしりながら机に突っ伏した。彼女の名前は仲江まりな。突っ伏した拍子にセミロングの毛先が跳ねている。図書館の自習室に課題レポートと向き合っている。この図書館は郊外にあり、中規模ながら自習室が広くて集中しやすいのである。


「疲れたから休憩しよっ!ねっ?」

首だけを横に向けて、目を輝かせながら淡い期待を抱きつつ、見つめる先にはゼミの同期の北岡琢磨が居る。


「お前、この1時間で一体何回休憩するつもりなんだよ」

北岡は目の前の課題レポートをまとめながら、ため息をついてから答えた。2人は大学2回生で、去年から同じゼミである。仲江とは知り合って1年になる。異性同士だが互いに性的な魅力を感じず、友人、いや戦友と言う感じだ。


「ねぇー、頭が動かないよー。脳ミソが豆腐になっちゃって何も考えれない」

仲江は椅子の上で膝を抱えて座り、身体を左右に揺らしながら子供のように話す。揺らすたびに椅子が軋む。


「お前が頭を動かしたことが今までに一度でもあったっけ?」

北岡が呆れたように仲江に向かって静かに話す。


「レポートの期日もすぐそこまで迫ってるんだから。少しは危機感を持てよ!」 

(とは言っても今回は多重課題に期日もゆとりがないから、正直しんどい気持ちはわかる)

北岡自身、期日が迫っている焦りと一向に進まないレポートに嫌気を感じていた。そんな気持ちを払拭すべく自分自身を奮い立たせるために、続けて話したが、些か感情がこもってしまっていたのか声が大きく、同フロアの利用者の視線が北岡、仲江に集中するのを肌で感じた。


「ちょっと!わかったから怒鳴らないでよ!」

仲江が小声で北岡に話す。


「悪い、ちょっと一服するか?」

バツが悪そうに提案をする。北岡自身、実はとうに集中力が切れていたのだ。


「やった、近くにスタバがあったはずだからそこに行こうよ」


"ボトッ"


仲江が、そう言い終わるのと同時に二人の間に水滴が落ちた。二人は落ちた水滴の行方を追って一緒に床を見た。図書館の床には一雫の水滴が落ちていた。


「なんだ?」

北岡が、不思議そうに天井を見上げた。天井は1.2階が吹き抜けになって高いが、ギリギリ目視できた。


北岡(黒いシミ、、?雨漏りか?)

天井には黒いシミがあった。大きさは5×5cm大。この黒いシミ様子が変である。なぜならその黒いシミ










形が不規則に変化しているのである。まるで心臓が拍動しているかのように。


北岡(な、なんだよ、、。あれ、)

北岡は異様なその黒いシミに目を奪われていた。すると


「ちょっと、何よこれ、、」

仲江が驚いたように呟いた。


「確かに変だよな。なんだろ?」

北岡が天井を見ながら答えた。


「そっちじゃないわよ!ねぇ!琢磨これをみて!」

仲江は天井に釘付けの北岡の肩を揺らして、視線を床に向けるように促した。


「なっ、なんだよ!天井の黒いシミがっ、、!」

そう言いながら、北岡が床を見た。するとそこにはさっき落ちたばかりの水滴がないのである。


北岡(蒸発したのか?この短時間で?)

北岡が不思議そうに見ていると。


「あっち!あっちを見て!ほらっ!」

仲江が興奮しながら指を指した。床に落ちた筈の水滴が転がるように床を移動しているのである。


「動いてる、、?なんだよ、あれ?」

北岡が動く水滴に呆気に取られていると


「追いかけるよ!」

仲江が小声で力強く北岡にそう告げると、静かに立ち上がり、水滴を追いかけだした。時には止まり、時には角を曲がりながら、水滴はゆっくりとまるで意思を持ったかのように移動する。


「ちょ、お前」

北岡は水滴を追いかける仲江を追いかけた。仲江の後ろに北岡が続く、なぜか一列だ。仲江は中腰で、時折り物陰に隠れながらそろりそろり進む。側から見るとずいぶんと滑稽だ。


「な、お前怪しすぎるって!」

動いてる水滴よりも、我を忘れて水滴を追いかける仲江の姿の方が怪しいと感じた北岡が、後ろから仲江に伝える。


「しっ!静かに!気付かれちゃうでしょ!」

仲江が後ろの北岡に振り返ってシーと人差し指を立てながら北岡を嗜める。


「へいへい、」

(何やってるんだ。俺は、、、。)

北岡はふと我に返り、視線を前に向けた。


「あれっ!居ないぞ!」

北岡の視線の先には水滴が居なくなっていたのである。


「えっ!嘘!」

仲江が慌てて振り返る。やはり、居ない。


「どこ!どこ?出てきてー!水滴さーん!」

床をはいはいしながら、さっきまで水滴があった場所を中心に辺りを見渡す仲江。そして、その仲江の姿を遠くで見ていたのであろう女性の司書がやってきた。


司書「どうかされましたか?」

名札に中村と書かれた司書が心配そうに二人に尋ねた。


仲江「あの!水滴がねっ!」

北岡「なっ、なんでもないですっ!」

仲江がさっきまで起きていた不可思議な現象を興奮気味に伝えようとしたところで北岡が遮った。


中村司書「はぁ、そうですか」

中村は訝しそうに言った


北岡「ほら!行くぞ!」 

仲江「ちょ、ちょっと待ってよー!」

北岡がまだ何か言いたそうな顔の仲江の手を引っ張りその場を後にした。


仲江は北岡に引っ張られながら自習室に戻ってきた。


仲江「ちょっと!何よっ!もうちょっとで不思議な水滴の謎に迫れたのに、、」

北岡「水滴もそうだけど、その前にレポートだろ!」

仲江「琢磨だって見たでしょ?水滴が動いたの!」

北岡「それがどうした。ただの見間違いだよきっと!」

北岡はそう諭しながらちらっと天井を見上げる。

(黒いシミが消えている、、。見間違いだったのか。)

数十分前まであった黒いシミが跡形もなく消えているのである。北岡は違和感を感じたが、見間違いだと自分に言い聞かせた。


北岡「目の前の現実を見ろよ。レポートの期日は明日だぞ。」

仲江「まぁ、そうだけど。」

北岡「近くのスタバで仕切り直そうぜ。」

仲江「わかった」

2人は荷物をまとめて自習室を後にした。

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