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呼び水

水にまつわる短編ホラー。

怪奇の入り口は身近に潜んでいるのです。

「今日も終電逃したか」

時計を見ると時刻は23時示している。オフィスには一人残っている。


「あぁー、うーん」

視線を時計から天井に上げ、古いオフィスチェアの背もたれを軋ませながら背伸びをした。戸田金彦は今日も残業。決して繁忙期なのではなかったのだが、不要不急の誰かのタスクをこなした為、本来こなすべき必要早急な自分のタスクを後回しとなってしまい現在に至る。無論、自ら喜んで誰かのタスクをこなしたのではない。上司からの指示である。


「はぁー、眠い。あー帰りたいな。」

背伸びをしながらそう呟く。戸田の呟きはまるで天井が息を吸うかの如く、瞬く間に吸収されていく。


「さっ、さっさと終わらすか、、。」

視線を目の前のディスプレイに下す。


「さてと、、」

戸田がキーボードを叩こうと指を置いた瞬間、右手の人差し指の第一関節に水滴が落ちた。


(?、なんだ?)

戸田は自分の指に落ちた水滴をまじまじと見つめ、天井を見上げた。


「あれ?」

天井には黒いシミがあった。


(さっき見上げたとき、あんなのなかったよな?)

会社の天井は白いタイルが貼り付けられている。いたってシンプルなデザインなので汚れは目立つのだ。


(気づかなかっただけか、、?)

黒いシミの大きさは5cm×5cm程度で形は丸い。それ以外は特徴はないただのシミなのだが、不思議と視線を外せない。見上げていた戸田の右目に水滴が落ちる。


「おっ、なんだ!最悪!」

右目に落ちた水滴は想像以上に滲み、そして激痛に変わる。


(なんだこれ⁉︎痛てぇ!)

ハンカチやティッシュで拭うも痛みは変わらず。むしろ増強している。


「俺の目はどうなっているんだ!か、鏡!」

戸田の隣のデスクは女性社員である。デスクに丸い小型の手鏡がある。戸田は隣のデスクにある鏡を取ろうとして気付く。


(目、目が開かない!)

戸田の目が開かないのである。水滴が落ちた右目だけではなく、左目も開かない。開こうとすれば激しく痛むのである。


(ダメだ、目を洗おう。)

両手で目を擦り激痛に耐えながら、ふらつきながら給湯室に向かう。戸田のデスクから給湯室は約5m。目が開かないからデスク伝いに歩く。幸い戸田のデスクから給湯室の方角はだいたいわかっている。横一列に並んだデスクを手で確認しながら給湯室に向かう。


(給湯室、給湯室。痛い、、!)

途中何人かのデスクの上の物を散らかしたような音がしたが仕方がない。こちらは目が見えないのである。後で片付ける。


(ここだ)

痛みが増す両目を抱えふらつきながらも、戸田はなんとか給湯室にたどり着いた。銀色のシンクを手で確認しながら蛇口を捻る。蛇口から出た水道水が、勢いよくシンクを叩く音が聞こえる。戸田は急いで水に触れ、顔に水をかけ目を洗う。

徐々に両目から痛みが引いていくのを感じる。


(助かった、、、。)

ハンカチで顔を拭い、恐る恐る目を開ける。


(大丈夫だ、見える。)

給湯室のシンクの壁に立てかけられた鏡を見てみる。


(何にもなっていない。)

しかし、安堵したのも束の間、洗顔した水に違和感を感じる。


(なんだ?)

顔に付いた水滴が増えているのである。


(拭き忘れたか?)

ハンカチで再度拭う。しかし、水滴は消えるどころか増えていく。ものの数十秒で顔がずぶ濡れになっている。


「なんだよこれ」

ハンカチで拭いても拭いても間に合わない。ハンカチを捨ててスーツのシャツをたくし上げ、顔を拭くもみるみる水が顔を包んでいく。鏡の前には、空中に浮かんだ水の玉に自分の顔を突っ込んだような異様な光景が広がっていた。


「なんなんだよ!ゴボッ」

顔だけ水に包まれてしまった。不意に水に包まれため口の中、鼻から水が流れ込んでくる。


「グゥ、ゴッ、ゴボッ」

鼻腔から、口腔から気道へ。水がまるで意思を持ったかのように移動していく。


(苦しい、、。た、助けて、、)

肺が酸素を求めてもがき、心臓は足らない酸素を少しでも身体中に届けようと脈打つ。


(な、、だ、誰か、、)

足に力が入らず。立っていられなくなった戸田はその場で倒れた。消えゆく意識の中、戸田は天井を見た。そこには黒いシミがあった。戸田の瞳から光が消えたとき、黒いシミが一回り大きく広がった。


人生初の小説です。

お手柔らかにお願いします。

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