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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

作者: 紀希



私達に深い関わりのある『水』。


それは、切っては切れない深い"モノ"。


【呼び水】: (例) ポンプの水が出ない時に上から水を入れて水が出る様にする事。ある事を引き出すきっかけを作る表現にも使われ一般的には良い意味で使われる事が多いが、悪い意味になる事もある。



「水が、、呼んでおる、、」


蝉が鳴き始め、田畑に敷かれた水が陽を反射する。


ミンミンミンミンミンミンミー,,


ジャポ,ジャポン,


「水が、呼んでおる、、」


家に帰るとおばあが居なかった。


「おばあ??」


玄関を開け声を掛けるも反応は無い。


「畑かな。?」


少し歩いた先におばあの畑がある。



「おばあ!??」


畑には誰も居なかった。


視線の先には貯水池があった。


そこに、見慣れた服が半分あった。


「、おばあ!!」


ランドセルを投げ出すと深い沼に入ってゆく。


じゅぽ、じゅ、ぽっ、


(立ち入り禁止!)


焼けた看板は掠れていて殆ど見えない。



おばあ「入ったらあかんばい!!」


まだ小さな頃におばあに怒られた。


おばあが「あそこは遊ぶ場所じゃあ無い!


沼になっとるからハマったら抜け出せなくなってまう!」


「ぅっ、、ごめんなさい。」



苦い思い出と口に入って来る汚水を吐き出す。


「ペッ!お、ばあぁああ!!!」


俺には入るなっつったんにっ!!!


逃げる様に身体を左右に振りながら前に進む。


ミーンミン、ミンミンミー


「誰かぁああ!!!」


おばあの髪が僅かに見える。


おばあはゆっくりと沈んでゆく。


「おばっ、!!」


冷たい所と温かい所。


気持ち悪いくらいに絡み付く泥と木の様なモノ。


「いたっ、」


身体に引っ掛かる何かを振りほどいて進む。


「誰かぁ!!」


浮く様に、泳ぐ様に、口を上げる。


もう、僅かにしかおばあの頭が見えない。


「だれ、が、、」


「何やっとる!!!」


後ろの方から声がして、大きな水の流れが振動する。


「子供が沈んどるど!!!」


男の人の声がする。


泥水の中では体力を奪われる。


もう駄目だ、、


そう思いかけた時、脇に手が入る。


力強く引き上げられたが、


目の前ではおばあが沈んでいる。


「おえっ、、お、おばあが。


おばあが沈んどる!!」


男の人「なにっ!??



まだ、ばあばが居るって!!」


2人の大人が目の前を進んでゆく。



気が付くと道の端に横たわって居た。


「おばあ!!」


「起きたか。」


隣でタバコを吸う男が居た。


「おばあは!?」


「先ずは自分の心配をしろ。」


男は頭を撫でた。


「おばあは、、?」


何と無く分かった。


俺は涙が出てきた。


男「ばか野郎。」


男は俺の頭を叩いた。


「いてっ、」


男「縁起でもねえ。


ばばあは今病院に居る。


何かあったら電話が掛かって来る。


フゥー、。


それまでお前の"おばあ"を勝手に殺すな。」


「、ぅん。」


男は知らない人だし荒々しかったけど、


何だか安心出来た。



カナカナカナカナカナー、、



橙色の太陽が遠くで揺れながらゆっくりと沈む。



チリリリリリリン、


男「あぁ。


おう。」


「おばあは、?」


電話を切った男の顔を覗く。


男「ばばあが目を覚ましたってよ?」


「ぅっ、、ありがとう、おじさん。」


男「おう。


ばばあもいい孫を持ったな。」



その夜は男の家に泊まった。


知らない人の知らない家に泊まるのは初めてだった。


男「きたねえからちゃんと頭の先まで湯に浸かれよ?」


「、、ぅん。」


男「風呂は底があるから沈まねえよ。」


「うん。」


男は頭を撫でた。


俺は怖かったけど、きちんと頭の先まで浸かった。


風呂から出るといい匂いがした。


男「好き嫌いすんなよ?」


「うん。」


男「寝る前にちゃんとトイレ行けよ?


しょんべん漏らしたらどつくからな?」


「うん。」


知らない匂いの布団。


隣に敷かれた布団に安心しながら眠りに就く。



うっすらと見える視界に見慣れた服が見えた。


「オイデ。オイデェエ。


コチラニ、オイデエ。」


重く冷たい声が水の中で響く。


ゴボッ、ゴボボッ、、。


「駄目だ!おばあ!」


視界の先のおばあがどんどん近くになってゆく。


「オイデ。オイデェエ。


コチラニ、オイデエ。」


ゴボッ、ゴボボッ、、。


『ペッ!お、ばあぁああ!!!』


俺の声が聞こえた。


『誰かぁああ!!!』


また聞こえた。


「ンゥウ!!!」


寒気がすると目の前に女が居た。


髪の毛の長い、目のつり上がった女が、


俺の目の前に顔を近付けて、こう叫ぶ。


「ジャマヲスルナァアアアア!!」


ピシッ!


痛みと共に目を覚ますと女ではなく男が居た。


「うるせえぞっ!!


魘されてんじゃねえ!」


「ぅ。うん。」


男「ってかおめえ、漏らしてんじゃねえか?」


「、、ぁ。」


男「ばか野郎。」


「いてぇ。」


痛みと引き替えに怖さは何処かへ消えていた。



「おばあ!」


おばあ「ごめんよぉ。?辛い思いさせて、」


「うぅん。」


何で入ったのか何て聞くまでも無かった。


子供の俺は怖くて"答え合わせ"何てしたくなかった。



大人になった今でもあの思い出を鮮明に覚えている。



今もあの場所は前と少し変わって、残っている。


ただ、同じ様な出来事が何回もあって、


周りには少し高いフェンスが囲ってある。



溜まった水は、溜める為に水を呼ぶ事がある。


それを、


【呼び水】


と。そう言うのだそうだ。






















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