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お決まり!期末ダンスパーティー


「何でこんなことに……」


期末パーティー当日の昼下がり。ロザリーは朝っぱらから入浴にマッサージに着替えと大忙しだった。


「お嬢様、さっきからそればかりですよ!」


ぎゅっとコルセットを締め上げながら、フレアが言う。


「いいじゃないですか!ロンド辺境伯令息がご相手でしょう?ドレスも趣味がいいものを贈ってくださったし。」


衣装部屋からいそいそと例のドレスを持ってきたエリーまでもが無言で頷いた。


送られてきたのは、黒が主役のドレス。

首元まであるシルクの真っ黒な布地は下に広がるにつれて紅が濃くなるように作られている。スカート部分はレースがふんだんに使われ、服と現実の境界線が溶けるようだ。ハイネックっぽい首元に光るのは大ぶりなアレキサンドライトの首飾り。イヤリングと揃いで送られてきたようで、フレアが触ることすら躊躇するような一品だ。

刺繍は金色で統一され、スワロフスキーが縫い止められている。刺繍のモチーフは薔薇と蝶々のようで、いたるところに薔薇の蔦が意匠化された模様とレースで作られた薔薇と蝶々が置かれている。


(……違うよなぁ。原作と。)


原作では、ロザリーはセシルから贈られたドレスを着ていたはずだ。セシルはロザリーとヒロインのブランシュの2人にドレスを贈った。ロザリーには代わり映えのしない安っぽい流行りのドレスを。ヒロインには百合の花をモチーフにした純白のドレスを。

しかしたった今。ロザリーは流行りの淡いパステルカラーのドレスではなく、ダグラスから贈られた艶やかなドレスをきている。


(これは、『救国の白い花』の中では無いの?ゲームの強制力?みたいなのもあまりないし……)


ふるふると頭から邪念を振り払った。ヒロインが存在することも、セシルがヒロインに首ったけなことも原作と同じだ。ロザリーの周辺だけで判断するには些か気が早い。


「お嬢様、できましたよ!!」


「……」


満面の笑みのフレアと何処か自慢げなエリーの間。鏡に映るのは傾国の赤い薔薇と称すに相応しい姿だった。

整いすぎているロザリーの顔に化粧を施すと、ややきつい印象になる。それを逆手にとった今回の衣装は、まるで夜の女神のようで近づきがたい雰囲気がある。

いつの間にか夕方になり、夕日の光に照らされたアレキサンドライトは、緑色から鮮やかな赤色に変わっていた。

我ながら惚れ惚れする美しさだなと感嘆のため息を漏らすロザリーを、エリーは大広間へ連れて行く。


そこには、ニッコリと笑みをたたえたダグラスが待っていた。

慎重に階段を下りていたロザリーは彼を目に止め、ホッとしたように頬を緩めた。


(よかった!転ぶかと思った!ヒール高くてふらふらしそうだったもん。ちょっとこっち来て!!)


思いが通じたのか、ダグラスはロザリーの手を取り、エスコートする。


「大変美しいです……夜の女神も嫉妬しますよ。」


「まぁ、それなら行かないほうがいいかしら?女神の怒りを買いたくないもの。」


「この哀れな男に一夜の夢を与えるくらいならば、女神も許してくださるでしょう。それとも女神の宮殿に招かれてしまうのでしょうか?」


「そうなったら引き留めてくださいませ。」


ころころと笑いながら返すロザリーにダグラスはふと意表を突かれたような顔をした。


(なんか変なこと言ったか?やばい?)


「……まるで、プロポーズのようですね?」


いつもの飄々とした笑顔とは違う、ふわりと花が綻ぶような笑み。使用人たちはほぅっとため息をついて美しすぎる男女を見守っていた。


(ぁ゙っ……もしかしてこれって……ダグラスコースのヒロインのセリフでは??)


なんか聞き覚えがあるので、なんかの詩の引用だと思って深く考えずに使ったが、ダグラスコースの卒業パーティーのセリフだったようだ。


(それにしては速くない?まだ期末パーティーだよ??)


しかも夜の女神の部分は春の天使と言われていた気がする。ぐーるぐると思考回路が空回りするのを感じて、ロザリーは考えるのをやめた。

乗り込んだ馬車に揺られながら、改めてダグラスを見る


ダグラスの服は、赤色と金色が白い服に刺繍されている。モチーフはロザリーと同じく薔薇や蝶々のようで、胸元には赤い薔薇の造花が挿されていた。


「あぁ、これを忘れていました。」


すっとダグラスが取り出したのは金細工と宝石で作られた髪飾りだった。黒い薔薇と赤い薔薇が花束のように配置されていて、見ただけで相当趣味がいいとわかる。

かんざしのようにつけるものらしく、自分でつけるのは難しいため、ダグラスに着けてもらった。やや時間がかかったようだが、何事もなくつけてくれたので一安心だ。


ロザリーは前を向き直ると、原作でのイベントを思い返す。

原作では、安っぽい流行りのドレスに憤慨したロザリーは自前のドレスを来て、兄のロドリックのエスコートで参加する。一方、セシルはブランシュの手を引いて登場。周りの動揺をものともせず、ファーストダンスをセシルと踊り、その後も次々と攻略対象と踊って行く。(ちなみにここでは、セシル以外は好感度が高い順に踊る。)その後、ロザリーに飲み物をかけられて一度退場。そして最終的により華やかなすみれ色のドレスでラストダンスを一番好感度が高い攻略対象に誘われて踊るという流れ。

(うまく行けば一番好感度が高い相手がわかる。まぁ、ほとんど接触はなかったからロドリック(にいさま)はないだろうが……)


◆◇◆◇◆


(っ……!)


ダグラスはとなりのロザリーに赤い顔がバレないよう、ふいと外を向いた。自分の贈ったドレス(自分の色)を纏っていると言うだけで限界なのに、まさか髪飾りをつけろと言われるとは思わなかった。

ロザリーは聡い。恐らくダグラスが殺し屋をしているのも知っているはずだ。ロザリーの『影』は優秀だが、ダグラスには敵わない。ロザリーがダグラスをはじめとする学園の何人かを調べ、元孤児だった子たちを生徒として学園に送り込んで、調べさせた生徒を監視させているのも知っている。

だからこそ驚いた。

ダグラスが殺し屋だとわかっていながら、首を差し出すとは!

ダグラスは、その無防備な真っ白いうなじに少しばかりの欲と、驚きを覚えた。

相手が殺し屋だと知っていながら、笑みを向け、あげく急所をさらす。


ロザリーのゾクッとする賢さと感のよさは裏腹に、不意に見せる警戒心のなさにダグラスはずるずるとはまっていく。そして、ロザリーにならはまってもいいかと思った自分に苦笑した。

何やら考え込んでいるらしいロザリーをみて、小さく呟いた。


「……本当に、攫えたら良かったのに。」


「……?、何かおっしゃって?」


きょとんとしたロザリーにいつもの作り笑いを向けいいえと首を振る。

それならいいのよと笑うロザリーの美しさにゾクゾクしながら、ダグラス達を乗せた馬車は学園へ向かった。

ダグラスの危うさが浮き彫りになってまいりました。

彼にはヤンデレの素質がありますね。


ぜひ☆とブクマをぽーちぽちと押して、お待ちいただければ幸いです


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