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貴方の手足になりたいと言われても

「ロザリー様、その格好も良くお似合いです。」


ダグラス•ロンド。辺境伯の養子だったが、優秀さを買われ、つい先日病に倒れられた辺境伯の代わりに当主としてたった優秀なお方。

――というのが世間の見識だろうか。

ロザリーには好きな人のために自分を殺しに来る殺戮ジョーカー(イケメン)にしか見えない。


そのジョーカーは、セシルの手袋を汚いものを持つようにひらひらと振る。

呆けているロザリーの前、ダグラスは芝居がかった仕草で膝をつき、ロザリーの手を取った。


「貴方の手足として、代わりに決闘を受ける名誉を私に下さいませんか?」


いつの間にか集まっていたギャラリー達から声援が上がる。パッと見はイケメンがイケメンに跪いている様に見えるのだろうか、腐女子で有名なご令嬢方もきゃあきゃあと手を取り合っている。


(かっこいいっ……!じゃあねぇぞ!!!せっかく死亡フラグ(ダグラス)から逃げ回ってたのにさぁ!セシルが騒ぎ起こすから見つかっちゃったじゃん!しかももう手袋取ってんだから許可とか意味をなさねぇよ!!)


内心真っ青、お先真っ暗である。

そんなロザリーの心境を知ってかしらずか、兄は満面の笑みであるし、セシルはまだ騒いでいる。


(あぁ、これで断ってもまた面倒くさくなるのだろうなぁ……まてよっ!?)


もしや、これは兄とセシルの会話チャンスが増えるのでは……?私の文句をロドリックにぶつけるという形だろうが……兄の恋愛対象が女性なのも、セシルに苦手意識を持っているのも知っている。しかし、オタクの業とは深く濃いもので、たとえ自分を犠牲にしても二人の絡みが見たい本能がロザリーを突き動かす。


「許しますわ」


気がつけば、ロザリーの口からは許しの言葉がまろびでていた。オタクとは馬鹿と同じ。死んでも治らぬ悲しき生き物なのである。

そもそも私が戦ってもゲーム的にはよくないよね?と言う言い訳を脳内で呟く。一体誰向けだろうか。

元から華やかな目鼻立ちの顔でめいいっぱい喜びを顕にした顔を、ロザリーから外し、セシルに向き合ったときにはすでに真顔だった。


「それでは、お相手願おうか。」


ダグラスが抜いた剣は実用的で使い込まれたいいものだった。無駄な装飾は一切なく、鈍く銀色に光っている。

対して、セシルが取り巻きたちに止められながらも血気盛んに抜いた剣はギラギラと煌びやか。宝石や金細工などで彩られ、ダグラスの細い剣身とは異なり、幅がある。


(ん……?)


そんな緊迫感あふれる中、ロザリーが違和感を持ったのは取り巻きたちの一人。

他の取り巻きたちはぱっとしないが一人明らかに美しく、周りの焦っている面々とは違い、真顔でどっしりと構えている。それは、先の夜会にもいた王妃派閥の一人。


(セオドア•ダイヤラント!)


攻略対象の中、ヤンデレルートがあった男。それがセオドア•ダイヤラントである。本人はかなりの向上心の持ち主で、なまじ実力もあるため、セシルとは反りが合わない……と、今世では噂だが、原作では良きライバル兼腐れ縁の友人といった風だった。

二次創作を漁ったのだ。間違いない。

ロザリーはロド×セシ推しだが、カプ固定中では無いので寛大に2人を見守れる。


(うーん、何で二人の仲が悪いっていう話が広まってるのかイマイチわかんないわ……)


ロザリーが考え込む傍ら、セシルは果敢にダグラスに切り込んでゆく。ダグラスは虫でも払う様に剣を一振り。

咄嗟にその剣を受けたセシルがうぐっと潰れたカエルのような声を出しているのを、取り巻きたちがおろおろと見守って(?)いる。

体勢を崩したセシルをダグラスは恐ろしい目で見下す。手に持っていた鈍色の剣を持ち方をぐるっと180度変え、まるでマナーをしらぬ幼児がフォークを振り下ろす様に剣をセシルに突き刺しにいった


(あ、やばい。決闘許したの私だから、責任が私に来る。)


法律上、決闘で死んだことに対する本人たち以外の法的措置は認められない。まあ、要するに自分たちでやったんだから責任は自分たちしか取れないよということだ。


しかし。その法律が王族にまで平等に適用されるとは限らない。この世界は乙女ゲームといえど、完全な格差社会なのだから。


「殺すな!!」


ロザリーが前世のカラオケと今世の音楽教育で育てられた腹式呼吸を存分に使い、大きな声を張る。

ダグラスは振り下ろしかけていた剣の矛先をセシルの持っていた宝剣に変えた。


ポキっと根元から折れた宝剣をセシルはありえないというような顔で見ている。

まだまだ暴れたりなそうなダグラスは凍てつくような瞳でセシルを見下ろしていた。



「御苦労様。」


再びロザリーの前に跪き、手の甲にキスをするロザリーの胸は高鳴っていた……勿論イケメンのお宝映像に。

うやうやしい雰囲気からは、ロザリーがあぁ、私じゃなくて兄様にやってくれないかな、と思っているなんて、誰も微塵も思いつかなかった。


ぐっと首を巡らせると、駆けつけてきた先生方としどろもどろになるセシルの取り巻きたちの中、セオドアだけが放心状態のセシルを支え起こしていた。

セシルと同じ、セオドアのガラスのような湖水色の瞳に映っていたのは、蔑みでも、憎しみでもなく、純粋な哀れみと少しの欲だった。


◇◆◇◆◇


「何よ……何よ何よ何よっ!!!」


柱の影から■■は決闘を観ていた。

麗しいあの人の姿を拝見しようとやってきたのに、何で。

怒りと羨望が入り混じる。

あの人のそばに行きたい。でも、あの人からまだ駄目だと言われた。

女は、在りし日の思い出に想いを馳せた。

ある日、孤児であった自分に降って湧いたような幸運。

あの人に出会えたこと。道端の孤児から伯爵家のご令嬢になり、学園に入学して、やっと再会出来たあの人。

それなのに、何故?

女が噛み締めた下唇から血が流れる。他人が見たら愛くるしいと評するであろうその顔を歪ませ、血走った目でロザリーがダグラスに跪かれているのを見る。

その女は、手の甲のクローバー模様を、宝物のように撫でると、別人のように淡い笑みを浮かべ廊下へ消えていった。

前回から遅くなってすいません!!

書き方や■■の登場に手こずりました……

下の☆とブクマをポムポムと押してお待ちいただけると幸いです!

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