命の危機、再び。
受験終わりました!!
学園に来てから1週間。
ロザリーは、学園の王子様としての立場を確実にしつつあった。
黄色い声援にほほ笑みと愛想を返す妹にロドリックは眉をハの字にしながら声を絞り出した。
「お前、俺のお目付け役なんじゃないのかよ……このままだと俺より先にローズに婚約者できそうだ。」
ロザリーを家族間での愛称で呼ぶほど気が緩んでいる兄にむっと顔を向ける。
「ちょっと、わたくしも好きでやってるんじゃないのよ?ほら、セシル様とかさぁ。」
建前上はそうだが、なかなか楽なのだこのポジション。
まず、何より気兼ねなくパンツスタイルができる。
そしてちやほやされる。この学園の貴族のご子息達は、婚約者探しが多い。と入っても、ハートウェストのような公爵や侯爵などの大貴族は幼少期から婚約が決まっていることが多いし、そうでなくとも女性は政治の駒という意識がまだまだ強いので多くの場合婚約者がいる。
まぁ、より良い物件を探すためにきている強かな方々もいるが。
そんな彼女たちにとってしてみれば、ロザリーのような安心してキャーキャーいえるイケメンはなかなか貴重だ。
婚約者も親も同性ならまぁいいかとなってしまう。
(いずれ百合もだしてやる……のんきに構えられなくしてやるわ!男は男同士、女は女同士が一番!!)
人間としての成り立ちを根本からぶっ壊すようなとんでも持論を展開しつつ、ロザリーは周りをチラチラと警戒する。
「なんか、来るのか?……俺はセシル殿下に合いたくない。あの人、競うような授業のたんびに絡んでくるんだよ……」
むしろセシルがきたのなら喜んでとなりを譲るのだが。
家にいた時よりややばかりやつれたような兄を見上げて思う。
それにしてもコミュ力お化けの兄がここまでいうのならばかなりの頻度でダル絡みされているようだ。
噂をすれば影が差す。誰が言ったのかしらないが、古くからの先人の知恵はこの世界でも当たっているらしい。
「おぉ、ロドリックじゃないか!隣は……?」
ロドリックはわかりやすく顔を歪めた。
一国の王子にそこまでわかりやすく顔を歪めていいのだろうか。本当に心配になるロザリーとは裏腹に、図々しく会話に割り込んできたセシルはロザリーに気がついたようだ。
「……ははっ!これは傑作だ!俺に汚名をかぶせた女は、今度は男の真似事を始めたらしいぞ!!」
心底愉快そうに笑い、後ろの取り巻きたちに話す。
取り巻きたちも下卑た笑いをにじませロザリーを見る。
「まぁ、男の真似事?その言い草はまるで、わたくしが男性に憧れているようでは有りませんか!わたくし、婚約者がいるのに浮気するような生き物や、女性に手を挙げて思い通りにしようとする生き物と同レベルに見られたく有りませんわ。」
最近は、巷で『婚約破棄小説』なるものが流行っている。それに則って婚約者を蔑ろにするような輩が増えているのだ。オタクたるもの二次元と三次元は分けて考えるべきなのに!作品を愛する敬意が感じられない。全く嘆かわしいことだ。
確かセシル王子の一番そばに仕えている取り巻きもその一人だったはずだ。勿論暴力を振るう云々のくだりはセシルのことである。
怒りで白い肌が赤くなったセシルとその取り巻きたちを睨めつけ、言い放つ。
「紳士、と言ってくださる?わたくしはレディに手を挙げたりしませんわ。」
暗にてめぇらは紳士じゃねえぞと訴える。
セシルは赤色を通り越して赤黒くなった顔で吐き捨てる様に喚くことしか出来ない。
木偶の坊やらデカ女やら、語彙力が皆無に等しい。
セシルは設定上背があまり高くない。せいぜい170あるかないかだ。現代日本ならば十分だろうが、ここは乙女ゲーム。軒並み180センチを超える男たちの中で、背が高くないのはセシルか、ショタ枠のロートレルぐらいである。原作ではそこを気にする素振りはなかったが、今は気にしていることがありありとわかった。
そりゃあ160センチ後半のロザリーは目障りでしょうよ。
今はハイヒール履いてるし、ロザリーの方がデカい。
なおも喚くセシルにロドリックがげっそりしだしたその時だった。
婚約破棄云々のくだりで図星を突かれたらしい令息が思いっきりロザリーの腕を掴んだ。
突然のことにロザリーは一瞬反応が遅れた……様に見えただろうか。
ロザリーは掴んできた腕を逆に掴み返し、相手の腕と体の間に肩を滑り込ませる。そのままの勢いとてこの原理で体を持ち上げる。
ふわりと浮かんだ体はけたたましい音を立てて床に投げ捨てられた。
いわゆる、背負投である。元日本人のロザリーの脳内では、高めのよく通る声で『背おいなげ〜〜!』と流れているが、ぐっと笑いをこらえる。
そちらに気を取られていたらしい。見ると、おそらくセシルが投げたのであろう手袋が足元に落ちていた。
「無礼だ!決闘だ!!」
「だめだロザリー、拾うな!」
喚き散らすセシルと悲痛に叫ぶ兄。その声に反し、手袋を拾ったのはミルク色の肌に桜色の爪が乗ったロザリーの手ではない。
少し骨ばった手を黒い革手袋に収めた、よく見知った男だった。
そいつこそ、ロザリーが周囲を警戒していた理由。
黒髪に黒目のその男はロザリーを瞳に映し、うっとりと笑った。
「ロザリー様、その格好も良くお似合いです。」
今現在、ロザリーの最大死亡フラグにして、最近前当主が原因不明の病により代替わりした、ダグラス•ロンド辺境伯であった。
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