クイーンとの邂逅
「はじめまして、ロザリー•ハートウェストです。」
あまりの麗しさに教室のそこかしこからほうっとため息が聞こえる。
その8割はおそらく女子。
その理由は、目の前のご令嬢で社交界の華、ロザリーにあった。
馬車の中で、メリーとフレアにノリノリで仕上げられた男風メイクと女性用制服。
そのアンバランス差がより一層美しさを引き立てていた。
「なんて麗しいのかしら。」
「ロザリー様って華やかな女性のイメージしかなかったのだけれど……」
「まるで女性劇団の男役の様!」
そんな声を聞きながら、ロザリーは内心でほくそ笑む。
(宝◯歌劇団みたいなのがこっちでもあるのね……なにはともあれなかなかいい滑り出しでは……?
あ!あれは遊び人のテオフィル!!ヒロインが養子に入るクローバーレール家の嫡男でクローバーのキング!
あーーー!!絹のような白髪麗しや……)
若干怪訝そうな顔で教室に送り出したロドリックの読み通り、ロザリーはオタクワールドへ脳内トリップしていた。
挨拶を終えたロザリーにまず群がるのは筆頭公爵家であるハートウェスト家とつながりを持ちたい令嬢たち……だけだと思っていた。
きゃあきゃあと騒ぐ女性陣の真ん中を突っ切って入ってきたのは、ビビエナ•スペードサー侯爵令嬢。彼女もまた、登場人物の一人であり、スペードのクイーンを冠する。立ち回り的には百合エンド要員もしくはお助けキャラ枠といったところ。
制服ではないドレスから、堂々と鎖骨のスペードマークをひけらかしている。
この学園で、制服を着るのは主に平民から下級貴族。つまりは頻繁にドレスを着れない少女たちだ。男性はあまり関係ないようだが。
「あらぁ?筆頭公爵令嬢ともあろうお方が制服をお召になるんですのね?」
明らかに侮っているであろう声色と、取り巻きたちのクスクスといった耳障りな音が耳を打つ。
普通ならば多少なりとも怒りを覚えるだろう。しかし、ロザリーは普通ではない。
最オシカプ以外は皆平等に愛するタイプの博愛オタクだった前世。推しカプ以外のビビエナも勿論射程圏内である。
「素敵なドレスですねぇ。このデザインはうちの商店のものかな?きっとビビエナ嬢のような美しい方に着ていただけて、服も喜んでいるよ。」
前世、享年三十歳。勿論、男装系女子を推してたことだってあるし、某歌劇団を観たこともある。
そんな前世のキャラクター達に想いを馳せ、一挙手一投足をなぞるように思い返す。
ふわりとビビエナの手を取って微笑んだロザリーに取り巻きたちは完全にノックアウトされた。
ビビエナだけは侯爵の意地がしらぬが踏みとどまれている。
「あ、あな、貴方ねぇ!!」
貴族然とした微笑みも嘲るような態度も取れたビビエナも元は年相応な女の子。そんな女の子に歯の浮くようなセリフをいうなど造作もない。
(親戚の集まりで酔った叔父さんに黒歴史を綴ったノートを読み上げられた時よりよっぽど!)
酸いも甘いも噛み分けたロザリーは、見た目にそぐわない大人っぽさがある。それは一種の『魅力』となり、教室中に伝染していた。
「あはは、ロザリー嬢はカッコよすぎるね。俺がかすれちゃうよぉ!」
ケラケラと笑って会話に入ってきたのはテオフィル。
(ぎゃぁ!!!顔がいい!)
「ふふっ、可愛らしいレディは皆のものだからね。」
ややツリ目気味で背の高いロザリーは、令嬢用の化粧をするときつそうだが、男装っぽくすると、とたんにクールな印象になる。
そんなクールなイケメン女子に、褒めまくられて機嫌が悪くなる方が少ない。
こうして初日からロザリーは『社交界の華であり、イケメン女子』と言う、女子校の王子様ポジを手に入れたのだった。
やっと書き溜めができました……
ぜひ☆とブクマをポテポテと押してお待ち下さい!