嫌だ、行きたくない。嘘だ、絶対に行く。
ロザリー•ハートウェスト。
輝くばかりの金髪となめらかで抜けるような白い肌。唇と頬は薔薇色に染まり、誰が何と言おうと美少女である。
その少女は今、学園に向かう場所の中で震えていた。
(行きたくない行きたくない……でも、でもっ〜〜…!)
時は遡り1週間前。
ロザリーは14歳の誕生日を迎え、ご機嫌だった。
「ロザリー、学園に行かないかい?」
父からその言葉を聞くまでは。
思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになりながら聞き返す。
「お父様、わたくしの教育はだいぶ前に終わっておりましてよ?加えて今は領地の書類仕事もしてますし……」
私、いないとだめじゃね?と暗に訴えかける。
「いや、ロートレルが新しく雇用形態を見直してくれてね、だいぶ楽になりそうなんだ。」
心のなかでロートレルを恨んだ。何で我が弟君は天才なんだ。
「それに、ロドリックがね……」
ロドリックは1年前に学園に入学している。
王都のタウンハウスで暮らしているが、手紙で寂しいと定期連絡が来る。
教育が終わっていたロドリックを学園に行かせたのは婚約者探しのため。『学園』とは体のいい国主催の大規模コンパだとでも思ってくれればいいだろう。
ロドリックは長男でありながら、まだ婚約者がいない。
本人は『頭のいいロートレルか、度胸のあるロザリーが家を継げばいい。俺は騎士団に入る』などと抜かして、父と母の頭痛の種になっていることをロザリーとロートレルは知っていた。
「……お兄様のお目付け役ですか……」
「頼むっ!タウンハウス付近にあるハートウェスト家の商店1店舗好きにしていいから!」
「………足りない。」
「今度の王族主催の夜会でロドリックのパートナーしてくれたらお母様が今度の茶会で『薔薇本』の宣伝しとくし、影二人ぐらい連れてっていいわよぉ。」
「乗った!」
父の提案と母の条件にロザリーはノリノリで飛びついた。ロザリーもいくつか店を持っているが、王都にはまだない。加えて、貴婦人もとい貴腐人が増えるということは、売れ行きが良くなるということである。
BがLするのを布教する手を止める気は毛頭ない。
父にも母にもバレた時はどうするかと思ったが、母が立派に貴腐人になっていたことは嬉しい誤算だった。
母が身を乗り出し、こっそりと耳打ちをする。
「セシル王子殿下も入学しててぇ、なぜか知らないけどロドリックに絡んでいるらしいわよぉ」
「行ってきます!!!!」
目の前で推しカプがイチャイチャしてくれるかもしれないという可能性を前に行かないという選択肢はない。
完全にオタク脳に切り替わっていたロザリーは思い至らなかった。
何故醜聞の種であるハートウェスト家にセシル王子が近づくのか。その理由を正しく理解し、どう話せばロザリーが食いつくのかを完全に理解している母に、ロートレルは若干引いていた。
しかし、ロドリックが婚約者を見つけられなければ、高確率で家を継ぐのは自分。それは嫌だとロートレルも口をつぐんでしまったが故に、ロザリーは気づくことなく学園の門戸を叩く羽目になったのだった。
「嫌だぁぁ……でも絡みは見たいぃ………」
まだ馬車の中で悶えるロザリーに、エリーは眉毛をハの字にし、BLに理解のあるフレアは大丈夫ですよきっといちゃついてますよクッキー食べます?と甲斐甲斐しく世話を焼く。
ロザリーにとって、セシルとロドリックのイチャイチャの中身がやっかみだろうと罵倒だろうと関係ない。上級腐女子の持つすべてを薔薇にする目、『邪眼』を持っているからだ。
それより問題なのはロドリックのエスコートと、セシルにロザリーが絡まれること。
エスコートは筋肉バッキバキのロドリックにヘマをされると骨折どころではないし、セシルにはロザリーよりロドリックと喋っててもらいたい。
その結果、ロザリーがはじき出した最善策。
「……私、イケメン女子作戦で行くわ!」
優秀なはずのロザリーは、変なところでオタク知識と自我が顔を出すのが玉に傷だった。
まだ受験期間ですが、書き溜められたので……
更新が不定期ですので、ぜひ☆とブクマをべべベンと押してお待ちくだされば幸いです。