ここにきて、命の危機。
時はたち、ロザリーは13歳になった。
ロザリーは遠い目をして紅茶のカップを傾ける。
(長かった……三十路の体感にしてもやることが多すぎた……)
そう、セシル第3王子との婚約白紙があったあとのほうが大変だった。
唐突に『白紙』という形で正式発表していずともほぼ確定だった婚約が無に帰した。驚いたのは虎視眈々とセシルの婚約者の座を狙っていたものだけではない。
公爵家の愛娘、才色兼備で知れ渡っていたロザリーに、我こそはと名乗りを上げるものが相次いだのだ。
高位貴族は勿論、下位貴族から裕福な商人の息子、他国のお貴族様まで。
それをやんわりと断るだけで1年を費やした。
そのうち、ロザリーはセシルのことで心を病んでいて、学園で婚約者を見つけるつもりなのではないかという噂が流れ、ちょうどよかったのでその噂に全力で乗っかった。会う人会う人に
「わたくしでは力不足で御座いました……いえ、もう過ぎたことですので、気にしておりませんわ。」
と、あくまで王族の責任だと言うことを強調して。
加えて、何故かセシルも婚約者を立てなかった為に、『男色なのでは?』と噂が立っている。
ハートウェスト公爵家でロザリーの噂の情報操作は行ったが、王家はしなかったのだろうか?
情報操作と言っても、ロザリーが有利になるようなあれやこれをちょいと吹き込んだだけだ。大本は変わっていない。
(噂広める間に、いい拾い物もしたしーー!)
『拾い物』……転生あるあるの捨て子ひろいである。
ハートウェストの財力をもってすれば、元捨て子で、絶対にスラムに戻るまいとする必死の子たちに、最高の教育を与えることなど造作もない。
(………たぶん、もう最大フラグ折りかかってるしなぁ)
ほんのりと恍惚の表情を浮かべくつくつと笑う姿は、『傾国の赤い薔薇』そのものだ。
セシルと円満(?)に婚約解消出来てから、あからさまに心の余裕が出来たロザリーは、より一層美しさに磨きがかかった。
大輪の薔薇も今のロザリーの隣では引き立て役に過ぎず、比べる対象にもなり得ない。
ロザリーは気づいていなかったが、考え方がだいぶ貴族に寄ってきていた。冷酷無慈悲、とまでは行かなくとも、メリットデメリットで人をみられるようになりつつあった。それは貴族令嬢としては花丸であり、現代日本ならばバツをつけられる思考回路。
しかし、なんとしても推し達(男同士)でイチャイチャしてほしいロザリーにそんなことは関係ない。
(まぁやっぱセシルが何故か原作と違ってメスガキ属性になってたことは少し残念だけど……
でも原作の推しカプ、ロド×セシは見たい!!ワイルドに育ったお兄様とメスガキ属性セシル……わからせてほしい!あぁ……閨の天井になりたい。でも魔法ってないんだよねぇ、このゲーム。模様があるだけで……)
考えを巡らせるロザリーの後ろに、ロザリー付きのメイドが顔を出す。そのメイドは、エリーと共に現在ロザリー付きのメイドをこなしているが、元々は捨て子だったうちの一人である。しゃべれないエリーに代わり、言葉を介する仕事を中心に任せている。
「お嬢様、旦那さまと奥様がお呼びです。」
「あぁ、学園の件かしら?」
おそらく、と無言で頷くエリーについてきてもらい、もう一人のメイド、フレアに茶の片付けを頼む。
談話室で待っていたのは、父と母、それと見知らぬ父子だった。
(……?なんだか見覚えがあるような……?)
いいようのない違和感に小首をかしげつつ、父に勧められた通りに席につく。
淹れられた紅茶は、いつもの花のような香りのものではなく、すっと鼻を抜けるミントの香りが特徴的なものだった。おそらく、目の前の父子の土産か何かだろう。
「ロザリー、こちらは辺境伯様とご子息のダグラス•ロンド君だ。ロザリーと同じ様に来年学園入学だから、隣の領土同士よろしくと、挨拶に来てくれたんだよ。」
「まぁ、ありがとう御座います。ハートウェスト公爵家が娘、ロザリー•ハートウェストと申します。よろしくね、ダグラス様?」
磨きがかったロザリーのカーテシーは寸分のズレもなく終わったが、ロザリーの心はガッタガタである。
(かんっぜんに忘れてた……隠しキャラのダグラス•ロンド!ジョーカーの模様を持つ、元捨て子!)
ダグラス•ジョーカー。彼は攻略対象者たちの中で唯一、バッドエンドにR18がついたキャラだ。
ネット上ではなんだかんだと考察されたものの、R18の理由はなんと、グロだった。
彼は元々は捨て子であり、辺境伯に拾われる。しかし、拾ってくれた義理の父からは暗殺術を仕込まれ、政敵を始末する駒として使われる。
表向きは次期辺境伯当主だが、中身は散々なもの。そこで出会うのが同じく元捨て子のヒロイン、ブランシュ•クローバーレールである。初めは同じ境遇から成り上がったブランシュを妬ましく思うものの、そのうち段々と彼女の純粋さに惹かれるようになる。
勿論邪魔をするのはロザリーだ。
彼とバッドエンドを迎えると、ブランシュは彼の手によって殺され、その後ダグラスが後を追うようにして亡くなる。心中エンドだ。
さらに衝撃的だったのは、ロザリーの死に様で、(無論ダグラスに殺されるのだが)R18を食らうのも納得のグロテスクで凄惨な現場を作り出すのである。
(え、待たれよ、こんな話あった?ロザリーのもとに訪ねてくるなんて……っまさか!!)
現在のロンド辺境伯当主はゴリッゴリの王妃派閥である。何故なら、彼の領地の隣は王妃の実家の王国であり、ドロドロの癒着があると言われているからだ。
ロザリーは変えてしまった。立場の弱い第3王子セシルとの婚約を。立場の補強に生まれ育ちのいいロザリーをつけたのに、結果醜聞となっている今。
どうして王妃がほっといていようか。
(あ、私、殺されるんでは???)
しかし辺境伯の前で下手な動きができるわけもなく、ただにこやかに笑うことしかできないのだった。
模試が終わったのでなんとか……!
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